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第2話「テストお疲れ様でしたの会」

小夜の彼氏を突き止めた社...!!

「…それ俺の本名っす。」


やはり、彼が小夜の彼氏で間違いない。

言いたいことも聞きたいことも歯止めを知らずに溢れ出てくるのに、

そのどれもが喉元の側からすり抜けて落ちていく。

やっぱり聞くのが怖い。


「なんで知ってるんすか?」


「いや、えっと….」


アネレスは不思議そうに見つめた。

その視線が僕は怖かった。

正直に言うべきか?でも….

それによって今のこの関係が崩れるのは嫌だ。


「えっと、”小夜”と知り合いで。彼氏の話よく聞いてて。」


「…星鈴奈(せれな)が。俺の話を…?」


「…!!」


「じゃあ、もしかして聞いてるんすか。」


「えっと…..」


やばい、突発的に”彼氏の話”とか言っちゃったけど。

僕なにも知らない…!!なに聞かれるんだろう。


「星鈴奈は…..電車で。」


「なんであの日、お前は遊ぶ約束をドタキャンしたんだ。」

とは言えなかった。

そんな怒りよりも自分が何もできなかったことがただただ胸を締め付ける。

きっとアネレスにとって小夜は所詮ネットで知り合った彼女であって、

小夜自身もアネレスに負担させないように我慢していたのだろうか。

そんな妄想が余計何もできなかった自分を惨めにさせる。

遡れば遡るほど自分の選択が全て不正解だったんじゃないかと錯覚する。


”ナヨナヨしい”を克服したくて20歳になる前にコンビニで買ったお酒。

でも、周りの目が怖くて証拠隠滅したくて一気飲みした初めての未成年飲酒。

そのときは未成年飲酒という罪悪感も高揚感で丸呑みできた。

その瞬間だけ克服した気になっていた。

なのにどうだ、結局何も変わっていないじゃないか。

《あい》の「バレなきゃいい」みたいな強いメンタルがあればな。

正しいことをしないと怒られる、嫌われる。その主語のない漠然とした恐怖心が、

ずっとしんどかった。

そんなことを内心考えながらアネレスとの話に戻る。


「….聞いてます。テレビでも放送されてましたもんね。」


「そっか。社っちは仲良かったんすか?」


「数回話してたぐらいだよ…。」


「そうなんすね。」


不思議と嘘が上手くなっていた。


「なんだか、俺。死んだ気がしないんすよね。」


「え?」


「遺体は棺桶パンパンの真っ黒い袋に包まれてて、どんな顔しているのかもわかんなかったんす。」


「….」


社は心の中である言葉が反芻する。

「メイク盛れた時に、めっちゃ可愛い服着て、めっちゃわかりやすい場所で死ぬかな。」

「そんで知らない人に『あぁ、なんて可愛い子が…』なんて言われてみたい。」

….どうしてあの日小夜は電車で。

考えても無駄なのにどうしても答えを探そうとするのが僕の悪い癖だろう。


「でも、もう仕方ないんす。真相は小夜にしかわからないんす。」


「そうなんですね…..」


「まぁ、今こんなとこで話す話じゃないっすよ。また今度話すっす。」


「そうですね。」


「じゃ、また今度っす。」


「…はい!」


そう言って明るく手を振るアネレスはどこか寂しそうだった。

あの日、会う約束を断った理由が何かありそうで怖かった。

アネレスは小夜を救おうとしていたのだろうか。

……救うってなんだろう。



そこから数日が経過した。



「ということで私のお疲れ様会にお集まりいただきありがとうございますー!」


気づけばいつものカラオケに召集されていた。

最後の会話があの帰り道でそれまで連絡も取っていなかったからアネレスと話すのは少し気まずかったが…


「社っちー!なに歌うっすかー?」


アネレスはいつもと変わらない様子だった。


「え、えっと…」


僕は思わず息を詰まらせた。


「あ!社くんから歌う?」


あいは社にマイクを渡す。


「いや、そこはお疲れ様会なんだからあいさんから…..」


「「「いや、あいはトリだろ」」」


みんなは口を揃えてつっこんだ。

そのあと顔を見合わせて笑った。


「私最後なの!なんでそこ被るのー!」


社も少し照れくさそうに笑った。


「今日はお祝い酒っす!!」


アネレスはカバンからお酒の入ったレジ袋を取り出した。


「ずーるい!私飲めないのに!!いじめだ!!」


「ちょっと飲むっすか?」


あいはコクっと頷いた。


「そのコップとって!」


あいはアネレスにコップを差し出した。

缶を開けて少し注ごうとした。

あいはそのお酒が注がれるコップをじっと見つめた。

「おい!!明依子(あいこ)!!!!」

幻聴で怒号が聞こえた。

それは父親の声。

目の前に注がれたコップに吸い殻が入っているように見えた。

「いやっ!!!」


あいはコップを弾け飛ばした。

コップは机にお酒を吐き出す。

しゅわしゅわと香るお酒の匂い。

今の匂いか記憶か、分からなくなって息が苦しくなった。


「だ、大丈夫っすか?」


「…..うん。ごめん。ありがとう、お兄ちゃん。」


「お酒….変な匂いするっすもんね。」


「まだ私苦手な匂いかも…ちょっとお花摘んでくるね。」


あいが部屋を出ていくのをもるふあは不安そうに見つめた。


あいは鏡を睨みつけて手を洗う。

過剰に石鹸を出し、手を洗う。


「お前はコウノトリが運んできたんだ!!菌を持ったコウノトリだ!!だからこの水を飲め。」


少し前の記憶を思い出す。

怒号する父親がコップに吸ったタバコの吸い殻を入れて私に差し出す。

私は静かに首を振る。


「飲め!!!!!」


手を振るわせながらコップを受け取り、

震えながら唇を近づける。


「飲めや!!!!」


父は台所を強く蹴り私を脅す。

まともに水が口に入らない。

父は舌打ちをして部屋に戻る。


「ごめんなさい….ごめんなさい」


聞こえるか聞こえないかぐらいの僅かな声量で吐いた謝罪は扉を閉める音でかき消される。

私は吸い殻入りの水を排水溝に捨てる。

水だけ排水溝の穴を見事にすり抜け、

違和感を感じるほど吸い殻だけが排水溝周りに流れずに残る。

私はそれをじっと見つめる。

そして私は今女子トイレにいることを思い出す。


ぼーっとしたときに想起して思い出すのはいつも嫌なことばかり。

排水溝を見て良いことを思い出せたらいいのにな。

ハンカチで手を拭いたあと、ため息を吐いてスマホを取り出そうとする。


「…あれ?」


スマホを部屋に置いてきちゃった。

私は急いで部屋に戻った。

そこには歌ってるお兄ちゃんと静かに聴く社くん。

そしてずっとスマホを触っているもる姉がいた。

ソファの上に置いてあるスマホを見て安心した。

そうか。私はここに《家族(いばしょ)》があるんだね。


「あいちゃん、大丈夫?」


「うん!よーーーし歌うぞ!!もる姉!!!!!!」

次回、あいの過去!!

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