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第4話 会いたくないのに 会うなんて これって運命?

「ぐひひ、俺の意見を否定するやつはみんな許さねぇ……」


 ここはアパートの一室。時刻は深夜だが、部屋はカーテンで閉め切られている。壁にはグラビアアイドルの水着のポスターが数枚貼られており、床にはごみが散らばっていて、足の踏み場もなかった。

 机の前に座っているのは、30くらいの男で、でっぷりとしていた。黒髪をオールバックしており、関羽髭をはやしている。暑苦しそうな風貌であった。


 彼は机の上に置いてあるパソコンをいじっていた。SNSをやっている。彼はハンドルネームを使い、政治の話をしていた。


「ぐひひひひ、今度の都知事選は不正だ!! あの美しい対立候補が負けるわけがねぇ!! あのむかつくおっさんを早くリコールしなければな!!」


 男は一日中パソコンの前に座っていた。金は親の遺産があるので働かずに暮らしている。だが金は出ていくだけならあっという間だ。いずれは家賃も払えず、ホームレス生活になるだろうが、この男は気にしない。自分を肯定してくれない現実を忌み嫌っているのだ。自分のプライドを少しでも傷つけられるのが我慢ならず、就職活動は一切行っていない。政治の話をする自分に酔いしれているのだ。彼はまともな政策にもかみつき、正論を憎んでいた。SNSには自分と同じ仲間がいる。彼らと一緒に気に食わない敵を潰すのが何よりも気持ちよかった。相手を暴言でなじり、自殺に追い詰めるのが何より楽しいのだ。

 そのため警察に目をつけられているのだが、本人は無邪気な子供のように過ごしていた。


「そういや、インフェルノ博士やピーナッツボーイが姿を見せないな。どうしたんだろ?」


 男はここ最近ぱったりと音信不通になった者たちを気にかけていた。実は最近自分たちの周りでそう言った面々が更新を途絶えたのである。同志がいなくなるのは寂しいと思っていた。


「それは私が殺したからだよ」


 突然後ろから声をかけられ、男は身体が浮き上がるほど驚いた。振り向くと、白いフードを被った中年男が立っていた。まるで死人のようである。男は恐怖におびえた。そもそもドアも開けずに部屋に入っていたのだ。目の前の相手が常人でないことは理解できる。


「なっ、なんなんだてめぇは!!」


「私は天使ツブセル。君のようにSNSで罵詈雑言を並べる人間を殺すのが使命なのだよ。先ほどつぶやいたそいつらもすでに私が殺した。君はニュースを見たことがないのかね? 都内で猟奇殺人が勃発していることを?」


「あっ、頭が潰されて死んだって話か!? あれの被害者は同志たちだったのか!!」


 男は慌てふためいた。SNSでそのニュースは知っていたが、まさか同志が関わっていたとは驚愕だった。なんで彼らが殺されなければならないのか理解できなかった。


「彼らは君のように世の中にストレスをぶつけるしか能がない、社会のごみさ。そんな君は我々天使の役に立つのだよ。選ばれた幸運をかみしめてもらいたいな」


 ツブセルと名乗った男は、男の脂ぎった頭に右手を乗せる。すると男の頭がミシミシと音を立てた。


「いやだぁ、死にたくない!! 俺にはこの世の悪と戦う使命があるんだぁ!!」


「やれやれ、せっかく私が殺してあげるというのに、なんて不誠実な人なんだ。親が先に死んでいるようだから、最高の親孝行だね」


 そう言ってツブセルは男の頭を潰した。ぐしゃっとアルミ缶を潰すような感じであった。

 男は頭を潰されると、両手をぴくぴくけいれんさせた後、前のめりに倒れた。

 すると男の遺体から紫の煙が立ち上ってきた。ツブセルはそれを吸うととても気分が良い顔になる。


「やはり馬鹿を殺すのは最高だな。こんなおいしい魂を食せるのだから」


 ツブセルの姿はそのまま消えた。


 ☆


「俺はお前と会わないと言ったはずだぞ」


 警視庁の取調室で、大安喜頓おおやす きーとんと、笠置静夫かさち しずお警視が顔を見合わせていた。

 喜頓の左側には川田美晴かわだ みはるが座っており、榎本健美えのもと たけみ巡査部長は笠置の背後に控えていた。調書を取る人間は今回はいない。


「笠置さん申し訳ありませんでした!! でも健美さんが全然納得してくれないんです!! 俺はリバスになって相手に抱き着き、そのままそいつの腰から血液を凍結、膨張させて切断したんです!!」


 喜頓の話を聞いて、笠置は頭を抱えた。健美も申し訳ありませんと頭を下げる。

 取り調べで喜頓は健美に本当のことを話したのだ。しかし周囲の人間がそれを聞き、喜頓をうそつき呼ばわりした。喜頓もうそじゃないと否定し騒ぎが大きくなってしまったのだ。

 おかげで笠置警視が出向くことになり、騒ぎ立てる者たちを黙らせたのである。


「榎本巡査部長。君にはある程度の権限を与えているんだ。いちいち私に頼るのはやめてほしいんだよ、なんで私がこんなことを……」


「本当に申し訳ありませんでした」


 健美は謝罪した。美晴は改めて笠置を見る。


「あなたも悪魔と天使が見えるんですね。もっとも警察庁ではそういった人たちが警視正になる傾向が多いんですけどね」


「その通りだよ。うちの長官をはじめ、全国の署長クラスはそのことを知っている。それらの力がなければ出世できないのもな。まったくなんで私がこんなことを……」


「でも警視正の道は確実じゃないですか。何が不満なんですか?」


 笠置の話を聞くと、警視正、署長になるには天使や悪魔が見えるのが最低条件らしい。笠置はその条件を満たしており、出世の道は開けている。何が不満なのだろうか。


「私は悪魔だの天使だの関わり合いになりたくないんだよ。そんなやつらのために私の貴重な時間が割かれるのは我慢ならん。お前がリバスになれるなら、好き勝手に天使をせん滅させるがいい。お前のやったことなどそこにいる榎本巡査部長が後始末してくれるさ。まったくなんで私がこんなことを……」


 すると喜頓はいきなり立ち上がった。その顔は怒っていた。


「笠置さん!! あなたは警察なんでしょう!! 庶民の平和を守るヒーローじゃないですか!! どうして面倒くさがるんですか!!」


「……はぁ、大安くん。警察はヒーローじゃないわ。あくまで私たちは抑止力なの。力を見せつけて犯罪を起こさせないのが仕事なのよ。起きた後は全力で調査をするけどね。例えばストーカー被害にあった人がいても、ストーカーが犯行を起こさずに逮捕したらこちらが罰則を受けるの。これが警察なのよ」


「なるほど、そうでしたか!!」


 健美が説明すると喜頓は納得して座った。感情の起伏が激しすぎる。

 笠置はこほんと咳をすると、説明を始めた。


「そういうことだ。警察は悪人がいても証拠がなければ動けないし、何をするにも裁判所の許可が必要だ。しかしリバスに関しては違う。天使たちの戦いは人間社会には通用しないのだ。お前がいくら天使を殺してもうちは適当に理由をつけて守ってやる」


「はい! ありがとうございます!!」



 笠置の言葉に喜頓は直立姿勢で敬礼した。いちいち大げさなのである。

 すると着信音が聴こえた。健美のスマートフォンからだ。彼女は笠置に断りを入れると、電話に出た。

 彼女の顔が見る見るうちに曇る。電話を切ると、笠置に説明した。


「笠置警視、事件が起きたので現場に向かいます。例の頭部を潰された死体が発見されたとのことです」


「またか……。今回も頭部がちょうちんのように潰れたんだろうな」


 笠置の問いに健美がはいと答えた。それを美晴が訊く。


「それって最近のニュースでにぎわってますね。もう9人も犠牲者が出ているとか」


「今回で13名になっているわ。明らかに天使の仕業だけど、被害者の共通点がまったくわからないの」


「まったく君はそんなこともわからないのかね。まったくなんで私がこんなことを……」


 健美の言葉に笠置が口を挟んだ。


「被害者は全員SNSで愚にもつかない誹謗中傷を楽しむクズだ。これはパソコンを解析してわかったことだ。恐らく今回の被害者も同じだろう。天使がなんでコイツラを狙うのか? 悪魔どもの嫌がらせと、自分たちの嗜好品のためだろうな」


「嗜好品、ですか?」


「クズの魂は悪魔にとっては汚い空気だが、天使にとっては麻薬のような嗜好品なんだよ。そこの悪魔は何で説明していないんだ。まったくなんで私がこんなことを……」


 喜頓の質問を笠置が答えた。美晴も喜頓に対しては少しずつ説明するつもりでいたのだ。喜頓は素直に笠置に感動していた。


「犯人はプロバイダーと関わる人間だろう。あちらなら相手の住所もわかるからな。9名のクズは同じプロバイダーを使用していたのが判明している。そうなると犯人はすぐに特定できるだろうな。特に過労死寸前の職員を探せば一発だろう。天使は死人にしか憑りつけないからな」


「へぇ、警視さんは真面目に働くんですね」


「当然だ。俺は仕事はきっちりやる。庶民の生活を守るのが俺の仕事だ。もっとも配置するのが主だがな。榎本巡査部長、今度から強引でも構わんからこいつを補佐しろ。以上だ」


 そう言って笠置は立ち上がると、取調室を出ていった。


「すごい人ですね!! まるでエスパーのように物知りだ!!」


「笠置警視は国立大学をトップの成績で合格した才人なんです。自分で現場を動くより、人を配置して動かすのがうまいんです」


 喜頓が感動していると、健美が補佐した。健美はその後事件現場に赴いたが、概ね笠置の意見と同じだった。

 被害者は全員同じプロバイダーに加入していたのである。

 そして個人情報に携わる者で過労気味の職員を探し当てたのだ。

 ツブセル:火炉潮かろ うしお。中年男性。脇役が多い。

 男:田亀明宏たがめ あきひろ。セイレーンの職員。昔演劇で舞台に立っていたことがあった。


 頭部が潰されるシーンは特撮である。田亀の頭部を作り、それをくしゃっと潰す。

 それをCGで合成しているのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 絵に描いたようなキモオタですね。 オタだけでならいいけど、 色々拗らせすぎですね。 だから同情する気にはなれないです。 後、警察の実態が生々しいですね。 でもある意味、正しい表現と思います…
[一言] 知る人は知っていた。
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