表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/33

劇場版その3

 キャバレー・アリスは都内にあるキャバレーだ。黒張りのソファーにシンプルなテーブル、落ち着いた雰囲気のある店だ。ホステスは全員バニーガールで、モデル並みの美女が多い。

 店内は中年男性が多く、静かに酒を飲んでいる者がほとんどだ。

 奥の席では白いバニーと黒いバニーが、男二人組を相手にしていた。一人はのっぽでモヒカン頭で目つきが鋭く、出っ歯で黒いスーツの前を開けていた。もう一人はチビのデブでもじゃもじゃ頭のガマガエルのような男だった。こちらも黒いスーツをきちんと着ていた。


 その様子を遠くの席で見ている女性がいた。黒人女性で黒いスーツを着ており一人でジュースを飲んでいる。ホステスはついていない。かなり珍しい客であった。だが店の客は品が良いのか、誰も検索する者はいない。人相の悪い男二人組もおとなしく飲んでいた。


「お客様は羽磨わすれ組の方ですよね。あそこは評判良いんですよ。会長さんもたまに来て静かに飲んでますしね」

「ああ、俺たちは20年近く前に盃をかわしているよ。暴力団法に悩まされても辞める気はないね」


 モヒカンが酒を飲みながら答えた。現在は暴力団法により、暴力団の力はそがれていた。羽磨組は指定暴力団なので、銀行からの融資はできず、子供も保育園などの入園を拒否されたり、組から抜けても再就職が難しいなど厳しい状況に置かれている。それでも暴力団は盃をかわしていないフロント企業を利用し、小遣い目当ての若者を利用した詐欺で稼いでいた。羽磨組はフロント企業のみで、薬の売買や詐欺を禁止にしているのだ。


 黒人女性がジュースを飲んでいると、ふと二人組の客の後ろに一人の女性が座っていた。銀髪に白いワンピースを着た女性だ。こちらも珍しい客だが、どこか異質な空気を感じた。

 するとモヒカンがいきなり叫びだす。


「へっへっへ!! うちは六葉の姐さんが支配してるんだ!! この間も死んだ前妻の友人夫婦を事故に見せかけて殺してやったぜ!! 親父さんと親しい人間はみんな消えてもらわなくちゃなぁ!!」

「げっげっげ!! まったくその通りだぜ!! これで六葉姐さんの天下は安泰だ!! げっげっげ!!」


 周りの客とバニーガールは唖然としていた。二人組は笑っていたが、顔は真っ蒼になっていた。しゃべり終わると二人とも口を押え、トイレに駆け込んだ。ワンピースの女はそっと席を立ち、会計を済ませて出ていく。黒人女性は男たちを追っていった。


「なっ、なんなんだ!! なんで俺はあんなことを!!」

「いっ、意味が分からない!!」


 二人組は先ほどの行為に頭が混乱していた。そこに黒人女性が声をかける。ここのトイレは男女兼用であった。


「もし、先ほどのお二人は、勝手にしゃべってしまった感じがしました。もしかしたら天使の仕業かもしれません」

「天使だと!? なんで天使があんま真似をするんだ!!」

「あんたも天使が視える口か? おいらたちには見えないが、そうでなけりゃ説明がつかないことをたくさん経験しているからな」


 黒人女性はこくんとうなづいた。警察や暴力団の間では天使と悪魔の話は有名であった。双方を見ることができれば幹部に、見えなくても対処するために教育されていた。


「私は羽磨佐千三の関係者です。六葉さんが佐千三さんを病死にみせかけて毒殺したという話も聞きましたが、事実はどうでしょうか?」

「んなわけねぇだろうが!! 佐千三姐さんと六葉姐さんは互いに親父さんを支え続けてきたんだ!! 佐千三姐さんが危篤の時は、本人から見舞いに来るなと命じたくらいなんだからな!!」

「お嬢様ふたりをヤクザの世界から遠ざけるためなんだよ。でも世間はドロドロとしたドラマを好むからな、もどかしいぜ」


 二人組は佐千三と六葉を同じように尊敬しているようだ。だがここ最近羽磨組の根も葉もないうわさが流れてきている。六葉を追い詰めるためだろうか? だが二人は天使の仕業と納得しているが、なぜわざわざ悪評を広める真似をするのか理解できなかった。


 ☆


「……私は父親に連れられてアメリカにいました。ですが父親も亡くなり、懐かしい故郷へ戻ってきたのです。そこで佐千三姉さんの話を聞いて回っていたのですが、どうもちぐはぐすぎます。羽磨組の関係者がいきなり六葉さんは素晴らしい、佐千三姉さんはくずだと大衆の前で叫ぶようになったそうです。ですが本人は直後に真っ蒼になって否定するのですよ。これは天使の仕業ですね」


 左右和菜蘭そうわ ならんが説明してくれた。その噂は羽磨真千代わすれ まちよも知っている。真千代と六葉は仲が悪いとされているが、六葉が自分を遠ざけていたのだ。息子の太郎にも厳しい教育をしており、甘やかしとは無縁であった。


「でもどんな天使が黒幕なのかしら? 少なくともここには六葉さんとフタローィという死神がいるわ。たぶんフタローィの仕業ね。死神は天使や悪魔と違って姿は消せないそうだから」

「私もそう思います。実は六葉さんが水鳥島に出入りしているのを目撃されているのです。私は天使と違って悪魔から死神になりました。天使のような特殊能力は使えないのです」

「なぜあなたは死神になったのかしら。もしかして誰かに殺されたの?」


 真千代が訊ねると、菜蘭は深刻な顔で口を開いた。


「飛行機から降りるときに階段から転んでしまい、それで死んでしまったのです」


 あまりにもあっけない話であった。だが菜蘭は持ち前の生きる執着がすさまじく、憑依した悪魔の思考を塗りつぶしたようである。


「憑依した悪魔はコレールといい、怒りの力を使って、底上げする能力を持っているようです。悪魔マントゥールと手を組んで、人間界で楽しむ予定だったようですが、私に憑依したのが運の尽きですね」


 さてこれからどうするか。六葉とフタローィに会わなくてはならない。会えば即戦闘になるだろう。そこで空から声がした。


「ここまで来たな真千代!! ここがあんさんの墓場になるんや!!」


 古川六葉であった。彼女はピンクのワンピースの水着を着ていた。でっぷりと太っており、まるで相撲取りだ。だが彼女は筋肉の塊に脂肪の鎧を身に着けていることを真千代は知っている。別の組の鉄砲玉が六葉をドスで刺したが、逆に腹の肉でドスをへし折ってしまった。次に右手で平手打ちをかましたが、鉄砲玉の首が反対方向に折れ曲がったのである。そして刺されたドスを抜き取ったが、血は一滴もついていなかったのを真千代は見ていたのだ。


「六葉さん!! あなたが死神なのは知っています!! あなたはここで何をするつもりなのですか!!」

「ほう、わての正体に気づくとは、さすがやな。せやかてあっさり教えるわけないやろ!! わてを倒せたら教えたるわ!!」


 聞く耳持たない状態である。真千代は六葉を見上げるが、菜蘭は真千代の胸を揉んだ。


「なっ、何を!!」

「契約です。悪魔は契約をすることにより、人間に力を与えるのです!! 多くは幻覚を見せることにありますが、人間の身体能力を上げることも可能なのです!!」


 そう言って菜蘭は真千代の胸を揉み揉みした。悪魔は大抵死にかけた人間に食べ物を与える幻覚を見せる。それ以外だと知恵をくれと願った場合は人間の脳の力を解放できるのだ。契約は死後悪魔に魂を売り渡すことだが、実際は契約した悪魔に魂を喰われるだけである。


「私の契約は怒りによって力を増すことです!! さあ変身しなさい!!」


 菜蘭は真千代に髑髏のペンを渡した。それを真千代は左のこめかみに突き刺す。


「ブレインぷるぷるピッカンコー!! あなたもわたしもくりゃりんこー!!」


 真千代はリバスに変身した。それを見た六葉は腕を組みながら感心している。


「リバスになったんか。主水はんと同じやな。せやかてわての体に優しくすることはできまへんで!!」


 六葉の体は煙になった。顔だけ出ている状態である。煙はリバスを包み込む。リバスは優しくもみもみするが、まったく六葉には影響がなかった。気体ゆえにつかむことができないのである。


「煙の体を掴むなんてできない!! どうすれば!!」


 リバスはしゃがみ込むと、地面を優しくなでた。すると地面の中野水分が凍結し、氷の壁を作った。

 氷の壁はリバスだけでなく六葉も包み込む。ドームの感性だ。そして氷の壁は徐々に狭くなっていったのだ。

 閉じ込められた六葉は慌てることなく、雲の腕でリバスを握りつぶそうとした。


しかし氷のドームは一気に縮んでいく。そしてバスケットボールほどの大きさになった。リバスはどこにいるのか? 5メートルほど離れた地面がぽこりと盛り上がった。もぐらにしては大きすぎる。でてきたのはリバスであった。

 恐らくはドームを縮小させ、限界になったところで、地面の中に潜ったのだろう。そして氷の玉には六葉が閉じ込められているのだ。雲を優しくしても凍結することはできない。だが氷の中に閉じ込めてしまえばいくら六葉が気体化しても抗うすべはないのだ。


「……さすがやなぁ。佐千三はんを超えとるで、真千代ちゃん」


 リバスは変身を解いた。金ビキニ姿の真千代が現れる。彼女は氷の玉を見下ろしていた。もう六葉は身動きが取れない。俎板の鯉だ。煮るなり焼くなり好きにできる状態である。


「あなたはなぜ死神となったのですか? 太郎さんや五郎さんの復讐ですか?」

「ふん、極道が人並の幸せなんぞ求めるわけあらへん。今までわては大勢を不幸にしたからのう、わてのやったことがすべて帰ってきただけや」


 六葉はきっぱりと言った。家族の死は悲しくても、自分の所業を忘れたことはない。真千代は彼女のことを遠くからいつも見ていた。だからこそ東京タワーでの行為が信じられないのだ。


「望む答えを教えたるわ。あの日の自分らは天使アヤツルに操られていた。奴はわてらの噂を聞き、リバスである喜頓くんを挑発するために殺したんや。せやけどあの時叫んだのはわての意思やあらへん。フタローィの仕業や。あの女はわてらに喜一はんたちの罪を擦り付け、さらに不本意な死に様を晒させたんや。わてを死神にするためにな」

 キャバレーのバニー:バニラアイスの安倍朋子あべ ともこと後藤ゆう。

 キャバレーの客。ホワイトエンジェルの松本明まつもと あきら本庄ほんじょうゆたか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
∀・)水渕さん、オシャレなことを言うなぁ。さすがセンスあるなぁ。 ∀・)おっと、ちゃんと感想を(笑)キャバレーを舞台になかなか濃い話でしたね(笑)1つ1つの場面に華やかさがあると言いますか。さすが劇…
天使に運命を変えられた。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ