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劇場版 裏返りのリバス:死神の城

 ここは太平洋にある孤島だ。四方八方は海しか見えない。島は森におおわれており、東部には漁港と住宅街があった。山頂には不釣り合いな城が建てられている。上空から見れば六芒星をかたどったものとわかる。いったい誰が建てているのか?

 それは一人の女だった。正確には島の住民を奴隷にして強制的に働かせていたのである。

 女は銀髪で腰まで伸びている。彫りの深い目つきの鋭い60歳ほどの美女だ。だが彼女の着ている物はピンクのハイレグレオタードである。だが丸太のように太い腕に鎧のような大胸筋、引き締まった腹筋に長くカモシカのように太い脚は年齢以上に若く見えた。金の冠を被り赤いマントを羽織っている。

 彼女の名前はフタローィと呼んだ。彼女は数か月前部下を率いて島を占拠した。無線は使えず、島の連作手段は一切破壊される。部下の女性たちは筋肉質でゴリラのような体型であった。顔には髑髏のようなペイントを施しており、少しでも労働の手を休めれば鞭が飛ぶ。彼女らは世界の破壊者と自称していた。


 フタローィがただのコスプレバカ女なら血の気の多い島の若者が、法を無視して殺していただろう。だが彼女は特別な力を持っていた。

 

「もう狼藉はやめろ!! 悪が栄えたためしはない!!」


 正義感の強い若者が怒鳴った。金髪で30歳の中肉中背の男だ。英語でジャスティスと書かれたTシャツを着ている。日本人にしては彫りの深い顔立ちだ。


「おいやめろよ。こういうやつは頭をへこへこ下げるのが吉なんだぜ?」


 丸刈りで髭を生やした30代の悪人顔の男が止めた。こちらはトレイターと英語で書かれた赤いTシャツを着ていた。


「他の奴は殺してもいいから、俺だけ特別扱いしろ!!」

「お前だけかよ!! 嘘でもいいからこびへつらえばいいだろ!! その隙を突いてスケベな写真を撮って弱みを握ればいいじゃないか!!」

「しまった!! その手があったか!!」


 金髪の男がボケると丸刈りの男が突っ込んだ。それを見たフタローィはやれやれと首を振る。

 彼女は両手を突き出し、二人をにらんだ。すると彼らは一歩も動けなくなった。まるで重石でも乗せられた気分になる。


「私に逆らえばどうなるか……、思う存分教えてやろう、私は世界一親切だからな!!」

「「ぐえぇぇ!!」」


 彼女は蛇のようににらむと、両手をぎゅっと握った。すると金髪と丸刈りの男は心臓を抑えて苦しみだす。彼女は念動力で二人の心臓を握りつぶしたのだ。周りをよく見ると、櫓に首を吊るされた死体が風で揺れている。腐敗臭とともにハエの飛ぶ音が不快な演奏を奏でていた。


 男二人は倒れると、周囲の人々は恐れおののいた。嘆き悲しむものや、恐怖におびえる者もいた。だが誰もフタローィに逆らう者はいない。この島は彼女の王国であり、彼女は女王なのだ。

 そう誰もこの島に彼女には向かう者はいない。この島には……。


 ☆


「あー、肩が凝るわ。ダーリン揉んで頂戴な」

挿絵(By みてみん)

 ここは都内にある喫茶店シュバリエ。どこにでもある平凡な喫茶店だ。まだ営業時間ではないが、客が一人来ていた。黒髪のショートカットで30代後半の美女だ。どこか日本人離れした雰囲気があるが、両親は二人とも日本人である。外祖母が外国人らしかった。

 名前は羽磨真千代わすれ まちよ。指定暴力団、羽磨組会長の長女である。後継者第一位ではあるが彼女自身は組を継ぐつもりはなかった。盃はかわしておらず、フロント企業を立ち上げていた。指定暴力団は銀行で預金はできない、なのでフロント企業が金を預かり、資金源としていた。


「何がダーリンよ。私はあんたのことなんか認めてないんだからね」

挿絵(By みてみん)

 不機嫌なのは店主である坊屋利英ぼうや りえだ。黒髪の短髪で40代の女性である。どこか憂いのある美人だ。

 現在彼女は店の準備中である。利英はカウンター席の奥で、料理の下ごしらえをしていた。この店はモーニングが人気なのだ。


「いいよ。毎日仕事で大変だからね」

挿絵(By みてみん)

 そう言って真千代の肩を揉み始めたのは18歳の金髪の少年であった。大安喜頓おおやす きーとんといい、利英の甥であった。両親は交通事故で他界しており、叔母の利英を頼ってきたのである。

 ちなみに利英自身は真千代の父親と面識があった。


「あー気持ちいいわ。やっぱりプロを雇うより、ダーリンの方が最高よ」

「あんたがショタとは恐れ入ったわね。手を出したら承知しないわよ」

「ふふん、私は辛抱強いのよ。毎日ダーリンのことを思いながらベッドで……、ぽッ」


 真千代は頬を赤く染めた。利英はやれやれと肩をすくめる。喜頓は真面目に真千代の肩をもんでいた。


「で、あんたが忙しいのはどういう理由かしら?」

「……これはオフレコだけどクソ女の死体が遺体安置所から消えたのよ」

「クソ女……。喜一義兄さんを殺した外道のことね」


 真千代の言葉に利英は忌々しく口にした。クソ女とは古川六葉ふるかわ ろくはという女だ。50歳のでっぷり太ったパーマをかけた女であった。真千代の父親の愛人で長男を産んでおり、未来の組長夫人と口にしていた。しかしこの女はとある事件によってみじめな死に様を晒した。息子と六葉の弟三人ともにだ。

 真千代曰く、六葉の遺体は処理され火葬される直前に、遺体が忽然と姿を消したとのことである。息子と弟の遺体も一緒に消えていた。

 監視カメラには怪しい人影は目撃されておらず、身元不明の人間が外に出たくらいだという。


「恐らくそいつが六葉ね。天使か悪魔に乗り移られたんでしょうよ。ダーリンが天使の親玉を倒したのに世界が平和にならないなんて理不尽だわ。私ならヒモになってもらいたいくらいよ!!」


 真千代は憤ったが、利英は無視した。天使と悪魔。おとぎ話にしか登場しない架空の存在ではない。世界には確実に存在するのだ。天使は太陽に住み、死後の人間からはい出る魂を喰らって生きている。逆に悪魔は月に住み、人間の魂を空気のように吸っていた。


「私は会ったことがないけど、六葉って人はそんなに腐った人間なのかしら。よく輝海てるうみさんもあんな女を愛人にしたものね。それに亡くなったあなたのおばあさん、頼母たのもさんが野心家を認めるものかしらね」


 利英は憤っていた。だが真千代は反論しない。何か思うところがありそうだ。喜頓はそれに気づいたのか、真千代の後ろを抱き着いた。ぎゅっと柔らかく、父親のように優しく抱いた。

 真千代は頬を真っ赤に染める。利英はそれを見てやれやれと手を振った。


「んん? なにやら不穏な気配がしますね~」


 そこにちっちゃなぬいぐるみが飛んできた。金髪で黒いフリルを着た女の子のぬいぐるみだ。それがしゃべっているのである。

 実は中身は悪魔アスモデウスが入っていた。以前は川田美晴かわだ みはるとしてこの店でバイトをしていたが、器としていた肉体が亡び、現在はこのような状態になっている。

 

 喜頓が訊ねようとしたら、突如、店の入り口が開いた。そこにはでっぷりと太った中年女性が立っている。茶髪のパーマに顔には赤い蝙蝠のペイントを入れていた。黒いぴっちりとしたワンピース水着を着ており、赤いひも付きブーツを履いている。女子プロレスラーのような恰好であった。


「ひさしぶりやね真千代はん! 今日はあんさんの大事なものをいただきにきたで!!」


 女は両手を突き出すと、もくもくと煙が上がった。それはまるで生き物のように喜頓を握ったのだ。身動きの取れない喜頓は女の体に取り込まれてしまう。

 その様子を見た真千代が叫んだ。


「あなたは六葉さん!! その力は天使に乗り移られたのね!!」

「そっ、そうやな!! 今のわては、天使モクエル……、なんかな。この力を使ってあんさんに復讐するんや!! わては太平洋にある水鳥みずとり島に居城を構えておるんや!! そこでまっとるで!!」

 

 そう言って六葉は煙の姿になる。そして店を出ていくと、空へ飛んでいったのだ。

 その後、一人の女性がやってきた。40代ほどの茶髪のロングヘアの美女である。名前は山茶花玖子さざんか きゅうこといい、女性看護師であり、天使長ミカエルでもあった。


「いったい何があったのですか? さっきのは天使ケムリルの特性に似てましたが……」

挿絵(By みてみん)

 玖子は店に入ると、カウンター席に座った。利英は喜頓が攫われたことと、六葉の話をした。

 すると玖子が考え込む。


「天使モクエルなんていません。いるのはケムリルです。なんでそんな嘘をついたのでしょうか?」

 

 玖子は天使長なので他の天使たちの名前と特殊能力は把握していた。なぜ六葉がそんな嘘をついたのか理解できない。だが真千代ははっきりと答えた。


「彼女は六葉さん自身よ。間違いないわ。あの人は嘘が下手でああやってしどろもどろになるのを、何度も見たもの」

「なるほど、彼女は死神になったのですね」


 玖子の言葉に利英は疑念を抱いた。死神とは死者の魂を切り取り、冥界に送る存在だと聞いている。

 玖子の説明では天使と悪魔は深く後悔を抱いた人間の死体に憑りつくものだ。しかしごくまれに死後も肉体に魂が留まる場合があり、憑依した天使と悪魔の人格を上書きしてしまうという。

 そうなるとその人間が生き返ったともいえるが、天使や悪魔の特殊能力が使えるそうだ。大抵はそれを利用して生前の本懐を遂げようとする。大抵は殺人を望むので天使や悪魔もそういった人種を死神と呼称しているそうだ。


「喜頓君のお父さんもある意味死神と言えたね。天使ルシファーの考えに賛同していたから、本人かどうかもわからなかったのよ」


 アスモデウスが答えた。彼女は肉体が滅んでも精神はかろうじて助かっていた。かなり運がよかったようで、大抵の悪魔は身体を全身に鏡で映されたら消滅してしまうのである。


「……ダーリンも大事だけど、六葉さんのことも気になるわ。私は水鳥島へ行くわ!! そしてダーリンを助けてそのまま結納よ!!」

「だからまだ認めてないと言っているでしょうが!!」


 真千代が気合を入れると、利英が突っ込んだ。


「死神になるということは、その人の精神力がすさまじく高いということです。六葉という人は相当な精神力の持ち主になりますね。前に聞いた話では喜頓さんの両親を殺害したとのことですが、いったいどういう人なのでしょう?」


 玖子が訊ねると真千代は答えた。


「お母さんとは、パパ、同じ男を愛した女よ。正直六葉さんたちが口汚く罵り合いながら死ぬなんてありえなかった。六葉さんとはきっちり話ができる機会ができてラッキーだわ」

 フタローィ:大山和美おおやま かずみ。60歳でロシア人。父親がロシア人で母親が日本人だったが、父親は母と子を捨て、母親は病死した。横川尚美が北海道に巡業していたこと、孤児となった彼女を拾い、演歌歌手に育てた。日本国籍をきちんと習得させている。

 演歌の冥王という異名を持ち、師匠と同じようにボディビルを趣味としていた。

 名前は北海道のボディビルダー大山和彦。


 フタローィに逆らった男二人組:グッドマン・エビルマン。グッドマンは古川浩史《ふるかわ

ひろし》28歳。正義の味方なのに過激な発言ばかりしている。

 エビルマンは神谷真守かみや まもる29歳で、悪の怪人を演じているが突っ込み役である。蒼井企画所属のタレント。福祉施設などで漫才ヒーローショーを披露することが多い。

 フタローィはロシア語で第2という意味がある。


 古川六葉:山岸秀代。50歳で横川尚美の弟子のひとり。大阪で児童虐待を受けており、実弟の山岸匡やまぎし まさしとともに横川尚美に拾われた。芸能活動の傍ら、弟とともにプロレスラーの訓練を受けている。現在は弟子たちとともに関西あきんど女子プロレスを立ち上げ、地方を中心に活動していた。本人はユンボ山岸という悪役ヒールレスラーを演じている。


 フタローィの配下の女たち。関西あきんど女子プロレスの面々。

 ベジタリアン八谷はちや:本名八谷良子。白菜頭のマスクをかぶり、野菜を愛し、肉食を否定する。本人は肉が好き。

 マッドドクター山中やまなか:本名山中正美。ハリネズミのように逆立った髪形で様々な関節技を実験するマッドドクター。本人は人一倍勉強熱心。

 ランオーバー奥田おくだ。本名奥田三奈子。猪突猛進な牛のようなヒールレスラー。気が弱く、悪役になり切ることで活動できてる。

 名前の由来はズッコケ三人組から取った。

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喜頓がさらわれましたか。
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