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第20話 いったい東京はどうなるんだ?

「まったくヒマ人ばかりね」


 ダブルシニヨンヘアで黒渕メガネの小柄な二十代後半の女性がつぶやいた。益子美代ますこ みよといい、豆類ずるいテレビのレポーターである。器量は地味で華がないと揶揄されていた。

 隣にはカメラマンの亀良満かめら みつるがいる。野球帽を反対向きに被り、赤いシャツとジーンズを穿いていた。筋肉が目立つスポーツマンに見える。


 現在彼女らは国会議事堂の近くにいた。議事堂の前ではデモが繰り広げられている。野党議員の来津輝人くるつ てるひと伊地代碓義いじよ うすぎが総理大臣を非難していた。

 169人の犠牲者を出した事件に、マスコミ大量虐殺事件を引き合いに出して総理をやめろと訴えているのだ。


愛武あいむ総理はいますぐ辞任するべきです!! 偉大なる阿玉丘椎蔵あたまおか しいぞうさんや女性の人権問題に取り組んだ金尾呉代かねお くれよさんを死なせた罪は重いのです!! これも警察や自衛隊がいるから起きた悲劇なのです!! 今すぐすべての武器を放棄し、外国人移民をじゃんじゃん受け入れましょう!!」


「今の国会は異常です!! この国を憂う人々が死んでも無視しています!! 彼らは国を守る気がないのです!! 税金が高いのも、自然が破壊されるのもすべて与党が悪いのです!! 私たちなら消費税をすべて廃止し、すべての税金は外国人労働者や発展途上国のために使います!!」


 来津は禿げ頭にちょび髭を生やしていたが宝塚のような男であった。伊地代はパーマに眼鏡をかけた出っ歯の女である。どことなくオネエに似ていた。どれも総理や与党の悪口ばかりしゃべっていた。それに対してデモ隊も同意して盛り上がっている。特に禿げ頭の老人と老婆の夫婦が年甲斐もなくわめいていた。


 益子はそれらを横目で撮影していたのだ。他にもテレビ局や新聞社のレポーターや記者たちも集まっていた。もっとも過激な記者たちはマスコミ大量虐殺で消えてしまい、おとなしいものが来ている。


「本当にそうね。あいつらの言葉は異常すぎるわ」


 益子に声をかけたのは金髪碧眼の30代くらいの美女だ。だが日本語は流暢である。

 演歌歌手の秋本美咲あきもと みさきだ。彼女はライブの映像だけでなく、時事ネタを扱う動画も撮っている。

 彼女の所属するセイレーンの面々は撮影の準備に勤しんでいた。


「ああ秋本先輩、珍しいですね。普段ならこういう場所には来ないのに」


 益子が言った。彼女と美咲は同じ大学で、同じ演歌サークルに所属していたのだ。一年ほどの付き合いだが、今でも連絡は取り合っている仲である。益子が豆類テレビに就職できたのも美咲の後ろ盾があってこそだった。


「今回は特別よ。あいつらのやり口には目が余るわ。人の死を利用してデモを起こすなんて最低よ」


「でもここには1300人以上いますよ。下手すれば先輩が踏みつぶされてもおかしくありません」


 益子は心底美咲の心配をしていた。彼女を尊敬しているのだ。だが美咲は首を横に振る。


「それは覚悟の上よ。こう見えても高校時代は半ぐれを相手に喧嘩をしていたわ。こいつらが私を踏みつぶしてくれるなら幸いよ。殺人の生配信をしてやるわ」


 美咲は意気込んでいた。益子も大学時代の付き合いは短いが、彼女の濃い人生を間近で見ていたのだ。


「そういえば知ってますか? マスコミ大量虐殺では数多くの左翼が逮捕されたんですよ。主犯の須国心太すぐに しんたと共謀して爆弾制作の罪に問われたんです」


 それは美咲も知っていた。ニュースではその場の遺品に数多くの指紋が検出されたのだ。さらに須国のスマホには数多くの名前が登録されており、警察はしらみつぶしに調べたのだ。その結果彼らは須国に頼まれ、ホームセンターなどで一斗缶や化学肥料などさまざまな道具を購入し、須国に渡したという。

 崩壊したプレハブ小屋には旅行鞄が発見された。その中には肥料の袋やレシートなどが仕舞われていたのだ。

 警察はそれらを調べ上げ、逮捕に踏み切ったのである。驚くべきことに逮捕者は全員須国に協力したと供述したのだ。しかも普段SNSで左翼発言を楽しむ人種ばかりであった。100人近い左翼が逮捕されたのである。


「でもおかしくない? 普通は黙秘するでしょうに、全員が馬鹿正直にしゃべるのは不自然よ」


「そうなんですよ。取り調べを担当した人に聞いたんですが、その人たち質問にはすぐ答えたらしいですが、すぐに真っ蒼になったそうですよ。まるで自分の意志とは関係なしに……」


「あら、門の方に変なコスプレの人が立っていますね」「え? そんな人は見えませんわ」


 益子と美咲の会話に割って入ったのは、メイド姿の女性だ。撮影用のカメラを回している。セイレーンの撮影担当で富沢莉奈とみざわ りなという。隣には録音担当の久川寿子ひさかわ ひさこがいた。二人はおかっぱ頭の巨乳で双子に見える。

 彼女の言葉に従って、門の方を見たが誰も怪しい人はいなかった。勘違いではないかと声をかけようとしたが。


「いや、益子さん。俺にも見えますよ。全身を白っぽい衣装で身に包んだ人がいます」


 亀良が答えた。それが複数いるという。なのにデモ隊も警備員も誰も気づかない。それはカメラを回しているマスコミたちも異変を感じていたようだ。


「もしもし、皆さん。よろしいですか?」

挿絵(By みてみん)

 美咲の後ろから声がかかった。40代くらいの小柄な男だ。手に何本もビニール傘を持っている。


「もうじき雨が降るので、よろしかったらどうぞ」


 そういって男は美咲たちにビニール傘を差し出した。晴天なのににわか雨が降る気配はない。男は蚊さを押し付けて去っていった。


「あっ、コスプレ男がデモ隊に背を向けて尻を突き出しています。おならでもするつもりでしょうか」


 莉奈がつぶやいた。今のところカメラ越しでしかそいつを見ることができないらしい。

 やがてぶぶーっと豪快な音が鳴り響いた。その後に嫌な臭いが漂ってくる。本当に放屁をしたらしい。

 

「うわっ、何この臭い!!」


「これぞおならって臭いだわ!!」


 益子が顔をしかめ、美咲も鼻をつまむがどこか面白がっている。しかし問題はここから起きた。


「くっ、くっ、くしかつ!!」


 演説をしていた来津が顔をしかめる。そのまま顔がくしゃっと潰れたのだ。それは来津だけではなく、隣にいた伊地代も同じであった。

 さらにデモ隊の大半も顔がくしゃっと潰れている。すると頭が爆発し血が噴水のように飛び出したのだ。


 莉奈と寿子は慌ててビニール傘を開くと、すぐに血の雨が降り注いだ。


「ぎょえぇぇぇぇぇ!! また血の雨だぁぁぁぁ!!」


 益子は慌てて傘を開き難を逃れたが、あまりの惨劇に目をむき出していた。


「あのコスプレ男の仕業かもね。あいつのおならを嗅ぐと頭が爆発しちゃうのかも」


 美咲は冷静なままであった。他のマスコミは血の雨をもろにかぶり、発狂していた。益子は二度目だから正気を保っていたのだ。マスコミ大量虐殺のときも三日は寝込んでいたくらいである。


 ☆


「総監、大事件です」

挿絵(By みてみん)

 警視庁にある警視総監の部屋に陰険そうな二十代のエリートが入ってきた。笠置静夫かさぎ しずお警視である。警視総監の水谷主水みずたに もんどは椅子に座り、机の上で積み木を積んで遊んでいた。


「何が起きたのかな?」

挿絵(By みてみん)

「国会議事堂の前で、デモ隊が大量死しました。犠牲者の数は1300人ほどで、全員頭部が潰れた後に爆発したそうです。直前に悪臭を嗅いだものがいましたが、難は逃れていたようですね」


「天使の仕業だね。確かコキエルという天使のおならは腐った魂の持ち主の頭を潰すそうだ。もっとも大抵は発展途上国の紛争地域でしかやらないそうだよ。先進国だとすぐ異常がばれるからね」


 水谷は積み木で家を作りながら答えた。60代の知的な中年男性だがどこか子供っぽいところがある。これでも盲聾唖もうろうあだが、テレパシーで笠置の声は聞こえているし、警視庁にいる全職員の声は筒抜けだ。


「そういえば君は以前転落事故にあったそうだね。一時意識不明の重体だったそうじゃないか」


 突然話を振られた笠置は困惑した。


「それがどうかしたのですか?」


「実は大安喜頓おおやす きーとん君、やくざの羽磨真千代わすれ まちよに拉致されて結婚を迫られたそうだよ。羽磨組の情報網なら喜頓君をすぐ探し出せると思ったけどね」


「天使案件は厳重にしてますからね。いったい何を言いたいのですか?」


 話を脱線させた水谷に対して、笠置は軽くイラついていた。

 だが水谷の目は真剣である。


「誰かが情報を漏らした可能性があるね。それも天使案件を担当する誰かさんがね」


「ですが総監が気づかないわけがありません。現に私だけでなく警視庁全体をカバーしているのでしょう?」


「そうだよぉ。でも例外はある。相手が裏切った自覚がない場合はね」


 水谷は積み木を崩して、立ち上がった。笠置は真顔のままだ。


「天使には憑依しても体にとどまらず、外から操る性質を持つ者がいるという。ボクの知り合いの悪魔が教えてくれたよ。そいつの名はナリキルといってね、憑依した人間になりきるのさ。そして心とは別に身体を動かすことができるという……。笠置くん、君は天使だろ?」


 その瞬間笠置は拳銃を取り出すと、水谷の胸に数発撃ちこんだ。水谷は胸に血を噴出して椅子に倒れこんだ。


「え? なんで私がこんなことを……」


 笠置は呆然としていたが、天井の上から天使が下りてきた。白っぽい姿にゴリラのような形をしている。それが笠置の体に入り込んだ。彼の顔が豹変する。


「……さすがはリバスになった男だ。テレパシーに頼らないとは見事だよ」


 笠置の声色とはまるで違っている。陰険そうな男がにやりと笑った。

 そして部屋に誰かが入ってきた。黒人女性の榎本健美えのもと たけみ巡査部長だ。銃声を聞いて駆け付けたのだ。


「総監!! 今の銃声は一体!! 笠置警視、その拳銃は!!」


「榎本巡査部長だったな。ごくろうさん。俺の名は天使ナリキル、今まで笠置静夫を演じていた者さ」


「なっ、何を言っているんですか!!」


 すると笠置の姿は消え、天使の姿になった。まるでゴリラだ。ゴリラは森の賢人と呼ばれる動物である。


「ほれ、総監は生きている。早く治療してやることだ」


 そう言ってナリキルは窓から飛び出した。健美は呆然としていた。

 来津輝人:緒方真世おがた まよ

 伊地代碓義:日高雄二ひだか ゆうじ

 老夫婦:富沢莉奈・久川寿子。

 他セイレーンの面々はセリフなしですが出演しています。


 デモ隊は30人ほどで、あとはCG加工してます。爆破シーンはCGアニメを使用しています。

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― 新着の感想 ―
うわあ、凄い展開になってきましたね。 限度を超えた左翼や右翼は、 嫌いですが、この展開はいささか同情します。 にしても天使もエグいですな。 ここからの展開はまるで予想がつきません。
天使の活動が活発ですね。
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