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第19話 話が急展開にもほどがある

 羽磨真千代わすれ まちよはリバスに裏返った。人体模型のような姿で、ふっくらと胸がふくらんでいる。体全体から冷気が発せられていた。口からは白い息が噴き出る。

 リバスはこの世のことわりから裏返った存在で、現世うつしよの人間には映らない。ただし現世との狭間にいるものは例外である。

 坊屋利英ぼうや りえは初めて見るリバスに、冷や汗をかいていた。気持ち悪い造形だが、嫌悪感はなく人間が裏返ったらああなるだろうなと軽く考えていた。


「なんというか人間の皮が裏返ったように見えるわね」


「それがリバスなのです。おかしらや喜頓くんのようにこの世とあの世の狭間にいる人間だけが見えるのですよ」


「なんなのそれ。どういう意味かしら?」


 悪魔の美晴みはるが言うには天使と悪魔が見える条件は現実と夢の狭間にいることだ。厳しい現実に晒され、痛めつけられた人間がその才能を発揮する。利英は姉の利恵としえと、義兄の大安喜一おおやす きいちとともに孤児院で育っていた。そこは孤児をいじめて楽しむ院長が支配しており、利英たちは奴隷のようにこき使われていたのだ。食べ物もろくに与えられず、孤児院に一日中閉じ込められ、内職を強要されていた。一日一時間しか眠らせてもらえなかったのだ。

 喜一と利恵は静かに怒りを燃やした。こっそりと院長と職員たちを罠にはめて拘束し、日中の路上に晒したのである。当時はSNSが発達していなかったが、携帯電話で写真を撮ることはできた。

 喜一が警察や厚生に訴えなかったのは、彼らが面倒を嫌いもみ消すと判断したためだ。事実、警察は面倒事を片付けねばならず、喜一たちを恨んでいた。

 喜一たちは孤児院を出て働きだした。自分たちをカモにして搾取しようとする愚連隊を逆に返り討ちにして、一大勢力を作ったのだ。

 

 過去を思い出す利英はなるほどそうかもしれないと、心の中で思った。


「ほう、リバスになれるとは驚きました。ですがわたくしサカレルをそこらのサンピンと一緒にされては困ります」


 真千代の妹である照代てるよこと、天使サカレルはまばゆい光に包まれた。頭部に刃物が突き出ており、両腕や両足には刃物がウロコのように飛び出ていた。

 胸部はふっくらしており、白いスカートを履いているので女性だとわかる。


「さあいきますよ。真千代姉さん。初めての姉妹喧嘩ですわ」


 サカレルはリバスに抱き着きつこうとした。しかしリバスは両手を突き出してサカレルの顔を突き放す。

 そして一気にサカレルの頭部に手刀をかまし続けた。リバスは優しくすることで相手の血液を凍結膨張させて殺すのだ。逆に相手に衝撃を与えることは相手を癒す結果となる。


「ふふふ、頭が痛いですねぇ。癒し続けることで逆にダメージを与えるつもりですか? ヤクザの考えることは恐ろしいですねぇ」


 サカレルは慇懃無礼な口調で言った。リバスには聴覚がない。視覚や嗅覚すらないのだ。逆に相手の体温を見ることができる。サカレルの態度を温度で知ったのか、リバスは唸った。


「ボルボルボルボルボルボルボルゥゥゥゥゥ!!」


 リバスが走り出すと、サカレルはしゃがんで地面を切った。すると庭の地面がぱっかりと割れる。

 リバスはまた裂きのような状態にされた。リバスは思わず股間を隠す。そこにサカレルが後ろに回り、リバスの尻に指浣腸をした。


「ボルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」


 リバスは歓喜の声を上げる。指浣腸されて気持ちよくなったのだろう。地面はぴたっと閉じたが、リバスはうずくまったままだ。そしてサカレルはリバスの尻に平手打ちをする。一度だけでなく何度も執拗に叩いた。

 その度にリバスは甘い声を上げる。それを見た有能そうな老執事に見える雄呂血妻三郎おろち つまさぶろうがつぶやいた。


「まずいですね。サカレルはまともに戦うつもりがない。時間をかけることで喜頓様たちを殺すつもりでしょう。会長の恩人の息子さんを死なせるつもりはさらさらありません」


「何かいい案はあるの、妻三郎さん」


 急に利英は妻三郎に対して敬語で話しかけた。美晴ははてなと思った。どうも二人は旧知の間柄の陽である。


「私がサカレルをスマホで撮影します。すぐに気づいて私を殺そうとするでしょう。その隙にお嬢様がサカレルを倒せばいいのです」


「そんなことをしたらあなたが死んでしまうわ!!」


「……息子のまもるを失ったのです。この世に未練はありません。喜頓様がお嬢様と結婚していただければ、私に心残りはないのです」


 妻三郎は決意を固めた。照代と一緒に殺された御城衛おじょう まもるは妻三郎の息子だった。生涯独身を貫くつもりだったが、組員の女性と酒に酔った勢いで寝てしまったのだ。それで生まれたのが衛だった。母親の死後孤児院に入れられたが、引き取ったのだ。学校ではやくざの養子として教師や同級生に腫れもの扱いされたことも知っている。すべてを告白し自分の子供に生まれてすまなかったと謝罪したが、逆に衛に言われた。


 親父の息子に生まれてよかったと。


 衛は照代の護衛としていつも一緒だった。二人で馬鹿のふりをして敵を欺いていたが、まさか天使に殺されるとは思わなかった。しかも照代の体に天使が憑依するという悪夢の出来事が襲い掛かったのだ。


「すぐ行きますよ。待っててください」

 

 妻三郎がスマホを取り出し、サカレルを撮影しようとした。

 サカレルはそれに気づき、妻三郎を殺そうと突進する。

 妻三郎はにやりと笑った。


「困るな。真千代の面倒はお前が見てもらわないと」


 突如妻三郎は襟首を引っ張られた。スマホは切断されたが、執事服の胸辺りを切り裂かれるが、命に別状はない。

 そしてパシャリと音がするとサカレルの姿が消えた。

 妻三郎の後ろには男が一人立っていた。大仏のような体格で、厳めしい顔つきである。黒縁の眼鏡をかけており、紋付き袴を着ていた。どっしりとした重量感のある60歳ほどの中年親父である。


「会長……、なぜここに?」


「娘の結婚式に父親が来ないわけないだろう」


 この男は羽磨輝海わすれ てるうみ。指定暴力団羽磨組会長であり、真千代と照代の父親であった。

 手にはポラロイドカメラが握られている。恐らく輝海が撮影したのだろう。カメラならスマホでなくても構わないのだ。やがてカメラから写真が出てきた。サカレルの姿が写っている。


 喜頓やアビゲイルの二人は元に戻れた。サカレルが封印されたことで復活できたのである。

 スマホが壊れたことでミカエルも復活できた。


 真千代はリバスから元に戻った。白無垢姿のままである。


「パパ、なんでここに?」


「お前と喜頓君の結婚式に来たんだよ。彼は私の恩人の息子でね。他の行事をぶん投げてでも来たかったのだよ」


「恩人て、昔パパとママを助けた半ぐれのこと? まさか喜頓君がそうだったなんて!!」


 真千代は驚いていた。彼女は全く知らなかったのだ。

 輝海は思い出す。26年前、輝海と真千代の母親である佐千三さちみは旅行中に敵対勢力に襲撃された。もう少しで殺されかけたところを高校生だった喜一と利恵に救われたのだ。

 なんで自分たちを助けたのかと尋ねると、こいつらがむかついたから助けただけだと言って去っていった。

 其の後彼らの素性を調べ上げ、裏で便宜を図ってきたのだ。


(喜頓君には恩もあるが贖罪の意味もある。喜一君たちは私の知り合いということで、敵対勢力に殺されたのだ。まさか天使に憑依されるとは思いもよらなかったが)


 輝海は苦虫を潰したような顔になる。本来一般人である喜頓の結婚など認められるはずがないが、恩人の息子なら話は別だ。面倒なことは自分と娘に任せて自由に生きてほしいと思っている。


「それは間違いです!! あなたが親父たちに引け目を感じる必要はありません!! 人間はいつか必ず死ぬんですから!! それに結婚とは互いに支え合うものです!! 娘さんは俺と一緒に幸せになります」


「……喜頓君。感謝するぜ」


 輝海の頬に涙が一筋流れた。だが写真から声がした。


「あなたって不器用ですよね。自分の娘たちを守るために、あえて突き放すのですから。おかげで照代さんは何も知らずに死んだのですよ? 親としてはどうかと思いますけどね?」


「お前は生殺与奪を俺に握られているんだぞ? よくもまあ強気でいられるな」


「私がこうして照代さんの体に憑依したのは、お姉さんに別れの挨拶をしたかったからなのです。あなたのことなどみじんも思っていませんでしたよ」


 サカレルの言葉に輝海は何も言わなかった。図星を刺されたからだろう。

 真千代は輝海から写真をひったくった。そしてライターに火をつける。

 写真はメラメラと燃えていった。天使を殺すには映った写真を燃やすのだ。


「照代は死んだわ。あなたはただの偽物。私を惑わせた罪を悔やみながら消えなさい」


 そう言って真千代は写真を捨てた。写真は火に包まれていく。


「最後に、お姉ちゃんごめんなさいですって。これで私の役目も終わり。そして世界も一緒にね」


 写真は灰になって地面に落ちた。すると真千代はうずくまる。


「照代ぉぉぉ、てるよぉぉぉぉぉ!!」


 真千代の目から大粒の涙が零れ落ちた。それは滝のように流れていく。


「どうして死んだのよぉぉぉぉぉぉ!! なんであなたが殺されなくちゃいけないのよぉぉぉぉぉ!! わたしをひとりぼっちにしないでよぉぉぉぉぉ!!」


 真千代の絶叫が響き渡る。喜頓をはじめ、誰も彼女に声をかけれなかった。まるで母親を亡くした子供のように泣きじゃくった。

 しばらくして泣き止むと、彼女は涙を拭き立ち上がった。


「ふぅ、すっきりしたわ~。よし過ぎたことは仕方がない!! 喜頓君!! 私と結婚して幸せな家庭を築きましょう!! 差し当たりうちのパパを殺して組を乗っ取りましょう!!」


 彼女の顔は晴れやかであった。彼女は泣きわめいてすべてを決別したのである。美晴は唖然としていた。


「やっぱりこの人、リバスの才能があるわぁ」


「そうだ妻三郎。今世間では大騒ぎが起きているぞ。スマホで見たらどうだ?」


「会長は持ってないのですか?」


「俺は機械が苦手なんだよ!! ポラロイドが関の山なんだ!!」


 輝海は激怒した。利英が自分のスマホで見ると1300人殺しが起きたそうだ。

 羽磨輝海:小平透こだいら とおる。アビゲイルの所属する蒼井企画の大ベテラン。お笑いタレントとして設立当初から所属していた。現在はドラマと声優の仕事でひっぱりだこ。

 本来輝海は名前だけの予定にするつもりでしたが、きちんと登場させるべきだと思いました。


 若い頃の喜一は如月湊きさらぎ みなとが学生服を着て演じてます。

 敏恵はセーラー服を着た蒼月しずくです。

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― 新着の感想 ―
真千代、エシディシか! 思わず笑っちゃいました。 にしても急展開ですね。 いやあ、面白くなってきた。
また大きな事件が。
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