表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/33

第9話 グロ注意

 夜の公園を、大安喜頓おおやす きーとん川田美晴かわだ みはる、そして山茶花玖子さざんか きゅうこが歩いていた。美晴が喜頓の右側を、玖子が左側を挟むようにしている。

 太陽はすっかり沈んでおり、ビルの灯が星のように見えた。周りは街頭の光で照らされており、生暖かい風が吹いている。


「ふぅ。今日もよく働いたなぁ!!」


 喜頓は両手を天に伸ばした。喫茶店の仕事は重労働だが、喜頓は真面目にこなした。


「今日はなんか勘が鋭かったな。お客様の注文を聞いた時、お客様が間違って注文したことに気づけたんだよ」


「そう、それはよかったわね」


 喜頓は興奮しているが、美晴は冷めた目で見ていた。玖子は病院の勤務が終わり、一緒に帰宅したのである。


「でもお客様はなんかひそひそ話をしていたな。俺が気持ち悪いって。俺の顔ってそうなのかな?」


「たぶん、別の意味で言ったと思いますよ」


 玖子が言った。彼女も浮かない表情を浮かべている。


「喜頓、あんたはリバスに変身した後遺症が出ているのよ」


「後遺症って?」


「やぁ」


 喜頓が美晴に尋ねようとしたら、前方に男が立っていた。中年男性でどこかすごみがある。

挿絵(By みてみん)

「大安喜頓君だね? 私は天使ワスレル、君を殺しに来たよ」


「おお、わざわざ会いに来てくれたんだ!! ありがとうございます!!」


 喜頓は頭を下げて礼を言った。美晴は呆然としている。


「何よあいつ。人に幻術を見せる力を持っているのに、堂々と出てくるなんて信じられない!!」


「あいつはああいう性質なのですよ。人に幻覚を見せるのは腐魂弾を効率よく製造したいだけです。本人は割と武闘派なんですよ」


 玖子が説明した。彼女の中身は天使長ミカエルであり、天使たちに事情に詳しいのだろう。


「でも3体になるな。ちょっと卑怯かも」


 喜頓は敵を前にしながら、頓珍漢なことを言っていた。ワスレルは喜劇を見たように笑っている。


「おいおい、そこの悪魔は天使と戦えないから、お前さんをリバスにしたんじゃないか。ちなみに天使長も戦えないよ。受肉した天使同士は触れると爆発しちまうからな」


 ワスレルは説明した。今のように人間の姿なら触っても問題ないが、天使の状態だと触れただけで爆発するのだ。天使同士が争えないように神が細工したのである。受肉していない天使同士なら触れても平気だ。


「よくわからないけど、リバスに変身だ!! こないだ玖子さんとやったから、今日は美晴さんにお願いします!!」


「誤解されるいい方はやめてよね!!」


 美晴はそう言いつつも悪魔に変身した。褐色肌に黒くきわどいレオタードを着ている。ヤギのような角に、蝙蝠の羽、悪魔のしっぽが出てきた。

 そして手から髑髏のペンを取り出す。これは天使から取り出した頭蓋骨と舌で作られたものだ。

 リバスの変身に必要なアイテムを、悪魔に渡したのである。


 喜頓は髑髏のペンを右のこめかみに突き刺した。


「ブレイン、プルプル、ピッカンコー!! あなたも、わたしも、くりゃりんこー!!」


 ペンはこめかみの中へ入っていった。そこから喜頓の身体が裏返っていくのである。

 人体模型のような姿になり、目は白く濁っている。吐く息は氷のように冷たい。

 今この瞬間、リバスは人間の目に映らなくなったのだ。彼は身体だけでなく、世のことわりからも裏返ったのである!!


「るぅぅぅぅらぁぁぁぁぁぁ!!」


 リバスは吼えた。彼の五感はすべて裏返っている。目も見えないし、耳も聞こえない。匂いすら嗅げないのだ。だが彼は直感で物を見ている。爬虫類などが持っているピット器官のようなものだ。

 相手の体温を読み取り、攻撃を仕掛けるのである。もちろん天使と悪魔の温度差は違う。

 天使は青く、悪魔は赤いのだ。人間の温度はわからない。戦う意味がないからだ。


「では、俺も行くぞ!!」


 ワスレルの体が光った。全身は白いが、鶏のとさかのようなものが生えている。口元もくちばしで鶏のようだ。手は鳥のあしゆびのように鋭い。背中には翼が生えていた。


 ワスレルはリバスに近寄った。そして人差し指と中指を立てて、リバスの右手にしっぺをした。

 激痛は走らない。リバスにとって暴力は癒しに過ぎない。例え目をナイフでえぐられてもすぐに再生するだろうし、腕や足を切断されても、すぐにくっつくことができる。

 しかし健康的な状態でリバスを癒すのは問題があった。リバスの右手はかゆくなる。治癒の力が働いたためだ。


 するとワスレルはリバスの背後に回った。リバスはかゆい手をぺしぺしと叩いている。何が起きたのだろうか。

 ワスレルはリバスの肩をもみもみと揉んだ。すると両肩から煙が立ち上がり、リバスの腕はもげた。

 

「るるるるるるるるるぅらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 リバスは絶叫を上げた。後ろを振り返ってもワスレルはいない。

 いや、すでに背後に回っており、リバスの太ももを揉んだのだ。

 するとふとももから煙が上がり、リバスの両足がもげた。

 リバスは芋虫のように地面に転がった。


「うわぁぁぁ!! グロい、グロいよ、グロすぎる!!」


 美晴は絶叫を上げた。悪魔でもスプラッターなシーンは嫌いなのだ。


「悪魔のあなたがうろたえてどうするのです。リバスは四肢がもがれたくらいで倒れませんよ」


 玖子が言った。リバスはあおむけになり、ごろごろ転がった。

 ワスレルはしゃがみ、リバスを撫でようとしたが、リバスはバッタのように高く飛んだ。

 うつ伏せになり腹筋の力で、飛んだのだ。リバスにとって四肢切断は危機ではない。逆にチャンスとなるのだ。


 リバスは天高く飛ぶと、肋骨を翼のように広げた。リバスは鳥のように飛ぶと、ワスレルめがけて突進した。

 リバスはワスレルを忘れていない。今まで何が起きたかは理解していないが、ワスレルを一気に倒すことだけは本能で感じ取っていた。


 そしてリバスはワスレルのほっぺにキスをした。するとキスされた部分が溶けだしていく。

 リバスの優しい接吻は、天使の肉を溶かすのだ。

 これでワスレルはおしまいかと思われた。


「困るなぁワスレル。お前が死んだら腐魂弾を作るの、面倒になるじゃないか」


 それは一人の男だった。フードコートで、頭をすっぽり包んでおり、顔は見えない。ただ金髪がちらりと見えた。身長は164センチほどでどこか優男のように見える。

 男はワスレルの溶けた頬に右手を当てると、べりっと引きはがした。ワスレルの頬はきれいになっている。

 逆に男の右の手の平がドロドロに溶けていた。男はそれも引きはがし、地面に捨てる。それは煙を上げて消えていった。


「なっ、あんたは誰よ!!」


「天使ルシファーだよ」


 美晴が叫ぶと、男はあっさりと自分の正体を明かした。

 天使ルシファーは革新派のリーダーのはずだ。それが堂々と自分たちの前に現れるとはどういうことだろう?

 玖子は四肢を失ったリバスの傷口に、木の枝を突き刺した。木の枝はやがてリバスの手足となり、再生したのだ。

 玖子はルシファーを自称する男の方を見た。


「……ルシファー。相変わらずね」


「そうかな? こいつが死ぬと純度の高い腐魂弾が作れないんだよ。効率化を無視するわけはいかないだろう?」


 玖子の問いにルシファーはどこか緊張感の抜けたしゃべりかたをしていた。この男が諸悪の根源と思えなかった。

 

「悪魔アスモデウス。今すぐこいつを首にして、別な奴をリバスにしろ。これは命令だ」


「はぁ? なんで私があんたの命令を聞かなきゃいけないのよ!!」


「俺が困るんだよ。俺はこいつと戦いたくないんだ。まったく人の気持ちがわからないから、男にモテないんだよ」


 ルシファーは美晴の問いに答えるも、どこか自分勝手であった。悪魔でもルシファーの考えは理解できなかった。


 ルシファーはリバスの方を向くと、くるりと背を向けた。ワスレルも後ろに続く。

 彼らの姿は闇の中へ消えていった。


「なんなのよ。わけがわからないわね、あいつ」


「あの男はいつもああですよ。でも自分のことより他者を優先する性格なのです」


「あれでそうなの? 信じられないわね」


 美晴と玖子が会話をしていると、リバスは喜頓の姿に戻った。地面の上に寝ている。


「四肢の再生には体力を使うわ。今日はこのまま目覚めないかもね」


「……こいつを私たちが運ばないといけないの?」


「私がタクシーを呼びますよ。どう見ても親子にしか見えないでしょう?」


 玖子がスマホを取り出すと、タクシーを呼んだ。


「ただ喜頓さんを寝かせるのに手間がかかると思いますが、お願いしますね」


 玖子が頭を下げると、美晴はやれやれとため息をついた。

 ワスレル:弥生双伍やよい そうご

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 確かにグロい。 絵では見たくないですね。 それとルシファーの登場。 色々と盛り上がってきましたね!
[良い点] ∀・)弥生双吾さんのワスレル、いいですねぇ。面白い感じありますねぇ。ここで退場じゃなくて良かった(笑)BLEACHのヤミー的な感じかな?とするとルシファーはウルキオラ(笑) [気になる点]…
[一言] 続々と個性的なキャラが出てきますね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ