序章:ねらわれたまち
新連載です。いでっち51号さまの劇団になろうフェス作品です。
夜の大都会。高層ビルが立ち並び、繁華街は不夜城のようであった。しかし公園などは暗闇が広がっており、街の明かりも届かない。田舎の闇と同じように得体のしれない何かが潜んでいるようであった。
そこに一組のカップルが腕を組んで歩いていた。一人はブランド物のスーツを着た、陰険そうな男で、女は赤いボディコン服に肩まで伸びたソバージュにけばい化粧をしていた。
二人は周りの迷惑など顧みず、大きな声で他人の悪口を楽しそうにしゃべっていた。ベンチには新聞紙を布団代わりに寝ている浮浪者がいたが、二人の目には入っていない。
前方にはもじゃもじゃ頭の黒服の男がふらふら歩いている。カップルは男など見えていないのか、カップルの男と肩がぶつかった。黒服の男は地面に尻もちをつく。
「ああん? 何、道の真ん中、歩いてるんだよ!!」
カップルの男は黒服の男の胸を蹴った。女はそれを見てげらげら笑う。
「あはは、チョー受ける~。こんなごみほっとこうよ~」
「そうだな。こんなくず今すぐ自殺しろよ。ひゃっはっは!!」
カップルは近くのホテルに入っていった。黒服の男は無表情である。まるで死人のようであった。
男はホテルを見上げている。そして七階の部屋にぱっと窓に明かりがついた。
すると男は走り出すと、ビルに飛びついた。まるでやもりのようにぺたぺたと張り付き、明かりがついた部屋に向かっていく。
そして部屋の中には先ほどのカップルがベッドの上ではしゃいでいた。
男は両目を赤く光らせると、窓ガラスを左こぶしで叩き壊す。
穴が開くと、にょろにょろと蛇のように部屋に入った。
カップルは突然の出来事に混乱していた。
「なんだてめぇ!! 俺のお楽しみを邪魔するんじゃねぇ!!」
カップルの男は吼えた。普通窓ガラスを粉砕して闖入してきた相手に言う言葉ではない。自分がこの世で一番偉いと思っているのだ。
黒服の男はすたすたと男の方に歩いていく。そして右手を男の額に突き出すと、緑色に光った。
カップルの男の顔は苦痛でゆがみ、後頭部がボンッと破裂した。口をパクパクさせながら、後ろに倒れる。
女はあまりのショックに声が出ない。怯えてベッドの隅に逃げていた。
「なによ、なんなのよ!! なんであたしらにひどいことすんのよ!!」
「おまえだからさ」
女はヒステリックに叫ぶが、黒服の男は冷静なままである。
「お前らのように天下が自分の方に回っていると思い込む奴らが一番なのさ。自分は一生幸福で、不幸など一切起きないと思い込む馬鹿ほど、死んだ後の魂は腐ったものになる。悪魔どもの死が一歩近づくというわけだ」
「なにいってんのよぉ!!」
女は男の話を一切理解していないようであった。男はやれやれとため息をつく。
「せっかく死ぬ前に説明してやったのにな。もっとも理解されても困るしな。では死んでもらおう。俺に出会った幸福を味わえるんだ。神に感謝しろよ」
男は女の腹に右手を突き出す。すると、一瞬で女の腹部を貫通した。右手には背骨が握られている。
女は絶叫を上げ、目をむき出し、大きな口を開ける。舌をれろれろ動かした後、女は糸が切れたように倒れた。
黒服の男は窓の穴から抜け出た。目の前には公園が広がっている。真っ黒なプールに見えた。そして男はムササビのように飛び出して、公園の上空を飛んで行ったのだ。
その様子をベンチに寝ていた男が見ていた。
見た目は一八歳くらいで金髪の美男子であった。Tシャツにジーンズ、スニーカーを履いている。
少年は空を見上げていた。
「都会の人って、すごいな」
青年は感心していた。するとホテルの周りにパトカーと救急車がやってきた。
パトカーから一人の女性が下りた。黒髪で黒い肌の女性だ。黒いスーツを着ている。
黒人の血が入っているのだろうか?
彼女は少年を見つけると声をかけた。
「私は警視庁の榎本健美と申します。現在あちらのホテルで殺人事件が起きました。あなたは何か目撃していませんか?」
榎本は丁寧な口調で青年に話しかける。
「見かけました」
青年が言った。
「こちらも詳しくは調査しないとわかりません。なので今回は名前と住所だけ聞かせてもらいます。あなたの名前と住所は?」
「ん~大安喜頓だよ。住所はなし。親戚の叔母さんを頼りに来たんです」
それが榎本健美と大安喜頓との初めての出会いであった。
そして彼らが壮絶なる戦いに巻き込まれるなど、この時点で夢にも思わなかったのである。
大安喜頓:如月湊。
榎本健美:倉木理亜奈。
黒服の男:フェニックス大。
カップル男:京千春。
カップル女:鳳みゆき。
名前はなんとなくです。喜頓のモデルは増田喜頓で、榎本健美は榎本健一ですね。