表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

判決


「これより判決を言い渡す」


 一段上に設えられた法檀から、司祭裁判長が口を開いた。


「被告人、シズク・ヒミを死刑に処す」


 その瞬間、シズクは僅かに身動ぎした。

 彼女は微かに目を伏せ、肩を揺らした。

 どうやら笑っているようだった。

 次の瞬間、傍聴席から怒声が響いた。

 今すぐ殺せと誰かが怒鳴った。

 法廷内は忽ち騒然となった。

 カンカンカンと司祭が槌を打ってもしばらくは収まらなかった。

 幾人かの退場者を以て、ようやく場が収まった。

 

「なにか言いたいことはありますか。あなたには、発言の権利があります。当裁判に於いて、これがあなたの最後の言葉となります」

 

 裁判長に促され、シズクは目を上げた。

 真鍮製の鎖がじゃらりと鳴った。

 彼女はその場にずらりと並んだ裁判官どもを、そして詰めかけた傍聴人どもをゆっくりと眺めてから、口を開いた。


「私がここにいるのは、私自身がここにいたいと望んだからなの」


 裁判長は目を細めて「どういう意味ですか」と問うた。

 シズクは口を歪めて微笑んだ。


「直きに分かるわ、裁判長。愚かなあなたにも、きっとね。死刑になるのは私じゃないって」


 裁判長はゆっくりと首を振った。


「死刑になるのはあなたです。死を以て罪を償うのです」


 裁判長は教戒師のようにそう諭した。

 シズクはいよいよ口の端を吊り上げた。


「どうしてそう思うの? ねえ、どうして? あなたはどうして私が死ぬと思うの? 私が鎖に繋がれてるから? ここにはたくさんの衛兵がいるから? この国にはそういう仕組みがあるから? ()()()()()()()()()、ど()()()()()()()


 裁判長は眉根を寄せた。

 そして、異常者を見るような目でシズクを見た。

 シズクは真っ直ぐ司祭を見返しながら、言った。


「死刑になるのはあなたたち。罪状は殺人よ。ヴィクトリアを殺したこと。私は絶対に許さない。明るくて。真面目で。無垢で。何の罪も無かった彼女を、よってたかってあなたたちが罪人にして殺した。あなたが。傍聴人が。この国が。可愛くて憐れだった彼女を殺したの」 


 彼女は、もう笑っていなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ