判決
「これより判決を言い渡す」
一段上に設えられた法檀から、司祭裁判長が口を開いた。
「被告人、シズク・ヒミを死刑に処す」
その瞬間、シズクは僅かに身動ぎした。
彼女は微かに目を伏せ、肩を揺らした。
どうやら笑っているようだった。
次の瞬間、傍聴席から怒声が響いた。
今すぐ殺せと誰かが怒鳴った。
法廷内は忽ち騒然となった。
カンカンカンと司祭が槌を打ってもしばらくは収まらなかった。
幾人かの退場者を以て、ようやく場が収まった。
「なにか言いたいことはありますか。あなたには、発言の権利があります。当裁判に於いて、これがあなたの最後の言葉となります」
裁判長に促され、シズクは目を上げた。
真鍮製の鎖がじゃらりと鳴った。
彼女はその場にずらりと並んだ裁判官どもを、そして詰めかけた傍聴人どもをゆっくりと眺めてから、口を開いた。
「私がここにいるのは、私自身がここにいたいと望んだからなの」
裁判長は目を細めて「どういう意味ですか」と問うた。
シズクは口を歪めて微笑んだ。
「直きに分かるわ、裁判長。愚かなあなたにも、きっとね。死刑になるのは私じゃないって」
裁判長はゆっくりと首を振った。
「死刑になるのはあなたです。死を以て罪を償うのです」
裁判長は教戒師のようにそう諭した。
シズクはいよいよ口の端を吊り上げた。
「どうしてそう思うの? ねえ、どうして? あなたはどうして私が死ぬと思うの? 私が鎖に繋がれてるから? ここにはたくさんの衛兵がいるから? この国にはそういう仕組みがあるから? それで私を殺せると、どうして思うの」
裁判長は眉根を寄せた。
そして、異常者を見るような目でシズクを見た。
シズクは真っ直ぐ司祭を見返しながら、言った。
「死刑になるのはあなたたち。罪状は殺人よ。ヴィクトリアを殺したこと。私は絶対に許さない。明るくて。真面目で。無垢で。何の罪も無かった彼女を、よってたかってあなたたちが罪人にして殺した。あなたが。傍聴人が。この国が。可愛くて憐れだった彼女を殺したの」
彼女は、もう笑っていなかった。