第六話 ルーランディア州 上陸?
紙飛行機は緩やかにルーランディア州の上を飛ぶ。
下に見える街並みはヴェネチアに近いかな。海から引いた水が街にまで通っていて、家と家の間が川になっている所もある。主な移動手段は船のようだ。その街の先には樹海が見える。
「ここは世界のどの辺なんだ?」
「北極と南極の間です」
「範囲が広すぎる……」
どうやら教えたくないらしい。
この紙飛行機は海沿い上空を飛んでいる。
見上げると、俺達が乗っている紙飛行機以外にも、紙飛行機が1つ空を舞っているのが見えた。
「あの紙飛行機は……」
「わたしたちとは別のステーションクラウドから来たのでしょう。このタイミングだと、あなたと同じ外部生かもしれませんね」
「外部生?」
「キーハート魔法学園には生まれた時からルーランディア州に住んでいる内部生と、ルーランディア州の外部から来た外部生が居るのです。あなたは外部生で、わたしは内部生です。割合としては内部生が9割、外部生が1割です」
「へぇ~。それなら数少ない外部生同士仲良くしたいもんだな」
「お好きにどうぞ。そろそろ空港に着きますよ」
「どの辺?」
「あそこです。海の側に大きな施設があるでしょう?」
到着地の空港は、俺の知る一般的な空港と同じような形をしていた。
飛行機の代わりに紙飛行機が滑走路にあることだけが相違点だ。
「ん?」
空港より離れた浜辺。そこに、3人組の少年少女が見えた。今の俺や、ラフコーラと同じぐらいの年頃の子供だ。
女子1人に男子2人。
3人は本を構え、俺達の紙飛行機の方を向いている。
「ラフコーラ。あれはお前の知り合いか?」
俺が言うと、ラフコーラは奴らを見て顔を青くした。
「ルーパス三姉弟……!?」
「「「風錬成ッ!!」」」
ルーパス三姉弟とやらは口を揃えてなにかを唱えた。
「下僕! 紙飛行機に掴まりなさい!!」
「どわっ!?」
時すでに遅し。
巨大な旋風が紙飛行機を煽った。
俺は風に飛ばされ、紙飛行機から落っこちた。
「下僕!!」
「うおおおおおおおっ!?」
ラフコーラは紙飛行機に乗ったまま、空港の方へ飛んでいった。俺と俺のアタッシュケースは海にどっぼーん!
「ったく、なんだってんだ!!」
俺はアタッシュケースをビート版代わりに海を泳ぎ、さっきの三姉弟が居た浜辺まで行く。
「やったぞ! 悪魔の子供を落としてやった!」
野太い少年の声が聞こえた。
「空港役員にアイツの紙飛行機の形を聞いてたからね! あたしの作戦勝ちよ!」
気の強そうな少女の声だ。
「で、でもなんか……いま落とした奴、銀髪じゃ無くて金髪じゃなかった?」
か細い少年の声。
俺は海から上がり、三姉弟に近づく。
「おい、ゴラ、ガキどもぉ……!」
俺はアタッシュケースを引き上げ、砂の上に置いた後、指を鳴らす。
全身水浸しだ。
うん、まぁ、頭にくるよね。大人げなく怒っても誰も責めまい。
「はぁ? なに、コイツ?」
「とりあえず、仕返しするけどOK? いま謝るならお尻ぺんぺんで許してやる」
ルーパス三姉弟は睨み返してきた。
OKOK。喧嘩だな。
肩を回しながら歩いて行くと、
「「「リヴルド」」」
「え?」
奴らはラフコーラが持っていた本に酷似した本を出した。魔法を出す本だ。
「……ちょっと待て。ルールを決めよう。魔法は禁止な! な!?」
「ははーん。もしかしてアンタ、魔法が使えないのね――雷錬成!」
雷が少女の本から飛び出し、向かってくる。
至近距離じゃないから大人の体ならワンチャン反応できたが、子供の体+泳ぎの疲労のせいで反応が遅れ、雷撃を受けた。
「うおおおお――――おお?」
雷撃を俺は受けた。
けれど、気は失っていない。ガードした腕が痙攣をおこす程度のダメージだった。
「はぁ!?」
驚きを口にする少女。
「ははーん。なるほどね。同じ魔法でも使う奴によって威力は変わるわけか」
つまり目の前の少女より、ラフコーラの方が魔法使いとして格上ということだ。
この程度の雷撃なら恐れることはない。
地面を蹴り、真っすぐ走り出す。
「姉ちゃんには手を出させないぞ!」
太めの少年が前に出てきた。
「白鉄棍棒ッ!」
太めの少年は本を鉄の棍棒へと変化させた。
少年は棍棒を振り回してくる。俺はそれをギリギリのところで躱していく。
「なんだ、棒術を習っているわけじゃないのか。いいか小僧、武器は武術とセットだぜ」
俺は裏拳で棍棒の勢いを殺し、そのまま棍棒を両手で掴んで棍棒ごと少年を海へと投げ飛ばした。
「うわあああっっ!!?」
「齧るだけでも全然違うから。マジで」
次に俺は細い方の少年に目を向ける。
「風錬――」
「よっと」
呪文の出初めで本を持つ手を蹴る。本は空を舞った。
「それが無きゃ魔法は使えまい」
少年の腕を引っ張り、また海へ投げる。
「わあああっ!!?」
「これで2人目!」
あと1人。
「な、なによ……アンタ……誰よ!」
「テメェらの魔法で、高度30メートルから海へ叩き落された可哀そうな少年です」
「アンタなんて知らないわよ! あたしが狙ったのはあの女……ラフコーラなんだから!」
「だろうな」
紙飛行機に乗ってたのは俺とラフコーラの2人だから、ターゲットが俺じゃないならラフコーラしかいない。
「どうしてアイツを狙った?」
「決まってんでしょ! だってアイツは――」
目の前のツインテ女子は涙を浮かべ、言葉を発する。
「アイツの父親は、殺人鬼なんだから!」
時同じくして、息を切らしたラフコーラが合流した。