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七つの迷宮  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
序章 殺人鬼の弟と殺人鬼の娘
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第五話 空港

 どうも、ブレイヴです。

 今日は魔法使いの里、ルーランディア州に行く日です。


「はやく来なさい! 下僕!」

「待てって! まだこの体に慣れてねぇんだからよ!」


 いまは魔法使い専用の空港に向かって街道を歩いている。

 手にはアタッシュケースを持っている。


 体は軽く、周囲の建物はいつもより高く見える。

 身長150cm、体重45kg。それが今の俺の体だ。


 なぜ俺がこんな体になっているか、それを説明するには今日の朝まで遡る。



 ◆



 朝、俺が目を覚ますと、


「おはようございます。下僕」


 ソファーで眠る俺に、馬乗りになって手にハンマーを持つ少女が1人。プリティーなお尻がおへその上に乗っている。


「……なにしてんの?」

「叩き起こそうと思いまして」

「方法が野蛮すぎる!!」


 ラフコーラを振り落としながら体を起こし、距離をとって身構える。


「冗談ですよ。このハンマーはわたしの天賦魔術(ギフトマジック)逆帰りの小槌(ゴール・バンク)です。物理的なダメージは与えられません」

「なに?」


 ハンマーはピンク色で、装飾もファンシーだ。市販されている物とは思えない。


「これで頭を叩くと肉体年齢を下げられるのです」

「それがボスの言ってた若返りの魔法か。なんで俺が寝ている間にやろうとした?」

「物理的なダメージはないんですけど、痛みはあるのです、本当にハンマーで殴られたような痛みが。寝ている間にやった方があなたのためかなと」


 頭をハンマーで殴られる痛み? それってめちゃくちゃ痛いのではありませんこと?


「ま、麻酔とかないんですかね……?」

「ますい? 聞いたことないですね」

「じゃ、じゃあ俺が用意するからそれまで待っててくれるか?」

「もう! めんどくさいのでさっさと済ませますよ! 痛みは一瞬です!」

「一瞬でも怖いモンは怖いんだよ!」

「仕方ないですね……リヴルド!」


 ハンマーが本に変化した。魔法を使うための本だ。


「おい……まさか」

「気絶してれば痛くないでしょう?」

「雷撃は雷撃で痛いだろうが!」

「つべこべ言わない! ――雷錬成(アマン)ッ!!」

「おわあああああああああっ!!?」


 雷撃を受け気を失い、目が覚めた時には子供の体になっていた。

 


 ◆



 歩幅は小さい。目線は低い。筋肉もまだ未熟だ。

 子供の体はこんなにも不便なものだったのか。ただ胃痛も腰痛もなくなっている部分は感謝する。


「到着しました。空港です」

「ここが?」


 ラフコーラに案内された場所は洋館だ。それもお化けでもでそうなボロボロ具合である。


「いらっしゃい、まーせ!」


 クルクルとワルツを踊りながら、洋館から人影が飛び出した。

 丸眼鏡を掛けた男だ。口髭と顎鬚を生やしていて、細身だ。高そうなスーツを着ている。


「坊ちゃん、お嬢ちゃん。ご予約はとられてまーすか?」


 独特なテンポで話すやつだな……。


「はい。8時半の便に予約しているラフコーラです!」

「2名様でご予約ですーね。いま、ご案内しまーす!」


 話し方は変だけど、物腰は柔らかいな。

 おっさんについて中に入る。洋館の一階には多くのガラスケースが並べてあった。

 ガラスケースの中には、色んな種類の()飛行機が入っている。 


「ほう……今日の飛行機は完成度の高い物が多いですね」

「ありがたき、おことーばです」


 紙飛行機の良し悪しなんてさっぱりわからん。全部同じに見える。


「おいラフコーラ。俺達はルーランディア州とやらに行くんじゃないのか?」

「そうですよ」

「そうですよって……こんな紙飛行機見てる場合じゃないだろ!」

「なにを言っているのですか! この紙飛行機に乗ってルーランディアに行くのです! しっかり見て選ばないでどうするのですか!」

「はぁ? 紙飛行機に乗っていく? なに言ってんだお前」


 ラフコーラは「黙っていなさい! 下僕!」と強めの声で言ってきた。

 はいはい、もう知りません。僕は黙ってます。


 いじけること10分。

 ようやくラフコーラは紙飛行機を選んだ。


「それでは滑走路()でお待ちくださーい」


 俺とラフコーラは洋館の庭に案内される。庭はとくになにも置いていない。だけどかなり広い。公園ぐらいは広い。しかも――


「なんか、すげぇ風の音が聞こえないか?」

「目には見えませんが、この庭には竜巻が設置されています」

「竜巻って設置するモンだっけ?」


 庭に落ちた桜の葉が、風に巻かれていく。

 桜の葉は風に巻かれるとその姿を消した。


「竜巻の中に入った物体も全て、外部からは見えなくなります」

「これも魔法か……」

「上を見てください。雲がありますよね?」

「あるな」

「あの雲はステーションクラウド。あのステーションクラウドに入るとルーランディア州の真上のステーションクラウドに移動(ワープ)します」


 雲から雲へワープするのか。

 凄いことなのに、段々魔法に慣れて驚きが少なくなっている俺であった。


「どうやってあの雲まで行くんだよ?」

「紙飛行機に乗っていきます」

「飛行機じゃなくて?」

()飛行機です!」


 紙飛行機はどれも踏みつぶせるぐらいの大きさだった。乗れるわけがない。

 ツッコミを入れようと思ったら、さっきの髭男爵が「お待たせしましーた」と庭に出てきた。

 髭男爵は手に紙飛行機を持っている。先ほどラフコーラが選んだ紙飛行機だ。


「それでは準備はよろしいですーか?」

「準備?」

「下僕! 荷物を持ってください! 乗り遅れますよ!」


 ちょっと言ってる意味がわからないのですが。


「では、離陸しまーす!」


 そう言って、髭男爵は不可視竜巻に向かって紙飛行機を飛ばした。紙飛行機が手から離れた瞬間――紙飛行機が巨大化した。トラックと同じぐらいの大きさだ!


「飛び乗ります!」

「ちょ、マジかよ!」


 俺はアタッシュケースを持って空飛ぶ紙飛行機の羽に掴まる。ラフコーラは俺と反対側の羽にしがみついた。


「うおぉ!?」


 なんとか紙飛行機の上に乗ってしがみついた。すると状態が安定した。


 同時に、紙飛行機は竜巻に突入する。

 ブォン! と紙飛行機は急上昇を始めた。竜巻に乗ったのだろう。真上に向かって飛び上がり、ステーションクラウドまで一直線だ。風の音で耳がふさがっているため、なにも聞こえない。そして雲に入ったから視界も真っ白だ。




 うるさい風の音。

 視界を支配する雲。




 そのどちらも晴れた時――俺は島を見た。




「見えました! アレが――」

「ルーランディア州か!!」

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