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七つの迷宮  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第一章 寮振り分け試験〈シャッフルポーカー〉

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最終話

 破壊された槍は護法魔導書(ピカトリクス)に戻る。

 俺はすぐに護法魔導書(ピカトリクス)を手元から消した。出していても無駄だと判断したからだ。


(こいつ、いまたしかに……)


 ネフィスト=オストリッチ。

 間違いなく、兄貴の名前だ。


 こいつ……兄貴と面識があるのか?


雷錬成(アマン)ッ!」


 ラフコーラの叫び声で我に返る。

 ラフコーラが放った雷撃は、アルヴィスの手元の護法魔導書(ピカトリクス)に伸びていく。


「なるほどねぇ」


 アルヴィスは簡単に雷撃を躱す。


本体(ぼく)に雷撃が効かないから護法魔導書(ピカトリクス)を狙う、か。僕が先生なら、君に花丸をあげてるよ。さすがマサムネの娘だ、良いセンスをしている」


 アルヴィスは護法魔導書(ピカトリクス)を手元から消した。


「君たちなら肉体強化だけで十ぶ――」


 俺は飛び蹴りをアルヴィスの顔面にくらわせる。


「……話してる途中だよ?」

「やっぱ無傷か。無理無理、俺達が敵う相手じゃない」


 地面に着地し、ラフコーラに指示を飛ばす。


「ラフコーラ! 助けを呼んできてくれ。俺が時間を稼ぐ」

「ですが……」

「いいから行け! 2人固まってても意味はない!」


 ラフコーラは頷き、場を離れた。

 アルヴィスはラフコーラを追わない。


「追わなくていいのか?」

「うん。彼女より、君に興味が湧いてきた」


 アルヴィスは足を引き、拳を握り、構えを取る。

 構えを見ればわかる。この男は武術にも()けていると……!


「ふっ!」


 アルヴィスは小さく息を吐き、拳を突き出す。

 俺は横に移動して躱す。

 続いて回し蹴りが顔面目掛けて飛んでくる。それも俺は足を曲げて回避する。

 地面から砂をすくい、アルヴィスの顔に投げる。アルヴィスは容易く砂を躱して、俺の背後に回った。


(速すぎるっての!)


 すぐに振り向くが、もう拳が目の前まできていた。

 咄嗟に右腕でガードする。ボキッ! と綺麗に骨が折れる音が鳴った。


(ハイ腕逝った!)


 すぐさま後ろへ退く。


「君のその目……すごくいいね。僕の拳を完璧に見切っている、その目に体が追い付いたら、君に攻撃を与えるのは困難になりそうだ。それに腕を折られても悲鳴1つあげない精神力……どこか熟練さを感じる姿勢。なぜだろうね」


 アルヴィスの声が、急に近くなった。

 耳元で、アルヴィスの声が響く。


「君からは、僕と同じ匂いがする。君……本当に子供?」


 すぐ目の前に、アルヴィスはいた。 

 気づいたら、腹に張り手をくらい、7メートルほど吹っ飛ばされていた。


(息が……!?)


 体の中の物、全部吐き出した気分だ。

 呼吸が、整わない……!!


(強すぎるこいつ……! 機転とかでどうにかなるレベルじゃねぇ!!)


「迷うなぁ。ここで殺しておいた方が良さそうな気もするし、でも生かした方が後々僕のためになる気もする」


(どうにかして、時間を稼ごう)


 体は動かない。動くのは口だけ。

 ならば、


「なぁ、ずっと気になってたんだけどよ」

「なんだい?」

「お前ら殺人鬼は人を殺すことをなんとも思わないか? 罪悪感とかないのかよ?」


 このアルヴィスという男、けっこうおしゃべりだ。

 なんとか会話で時間を稼ぐ。もうできることはそれしかねぇ。


「罪悪感か。0ではないよ。昔は罪悪感(それ)が怖くて、歪な欲求を抑え込んでいた」


――のってきた!


「いつ道を踏み外した?」

「サラリーマン2年目さ」

「そのままサラリーマンを続けていた方が、幸せだったんじゃないか? なんだって、殺人鬼なんていう鬼の道を選んだ?」


 少しだけ、本音混じりの質問だ。


「君はさ、人生の勝ち組ってどういう人間を言うと思う?」


 勝ち組? そりゃ……、


「いっぱいお金を稼いだ人? 多くの人に尊敬された人? いっぱいセックスした人? それとも夢を叶えた人? 僕はね、全部正解だと思うんだ」

「……どういう意味だ?」

「人生の勝者とは、『多くの欲求を満たした人』さ。欲望を抑え、上司にペコペコして地位を築き、結婚して子供を作って平凡に生きた自分と、こうして欲求のまま女の子を殺し、血を吸って生きている自分。勝ち組なのは後者さ」


 アルヴィスは無邪気な顔をする。


「うん。そういう意味だと『道を踏み外した』って言い方は違うね。逆さ。あの日、はじめて女の子を殺した日に、僕はようやく、『道を歩き出したんだ』。『人生』という名の道をね」


 上っ面で話を合わせるつもりだった。

 でも、無理だこれは。

 こんな自分勝手なセリフを、ぶちぎれずに聞くことはできなかった。


「今の台詞でわかった。テメェは罪悪感なんて一切抱いてねぇよ。

――クズが。とっととくたばれ」

「酷いこと言うね」


 アルヴィスの歩みが、再開する。

 瞬間、風を切る音が聞こえた。


「そらっ!!」


 槍を持った少年が、木の影から飛び出てアルヴィスの額を刺した。


「うげ、無傷かよ!?」


 俺の前に、3人の子供が現れる。


「お前らは!?」


 槍使い、斧使い、剣使い。

 ランスのチームだ。


「とびっきりに強そうなやつだな。燃えてきたぜ」

「ランス! お前……」

「お助けに来たぜ。レイヴン」


 助けに来てくれたのはありがたいが、生徒レベルが来てもどうにもならねぇ!


「馬鹿! お前らじゃそいつには勝てねぇ! 俺を見捨てて早く逃げろ!!」

「そうはいかねぇよ。お前とはエロ本を取り返す約束をしているからな。……ハイネがいま、教員を呼びに行っている。先生方ご到着まで、なんとか()()()()!」


 遅れて、ラフコーラが現れる。


「助けを、呼んできました!」

(馬鹿野郎……! こいつら呼んだところで死体が増えるだけだろうがよ!!)


 やれやれ、とアルヴィスは溜息をつく。


「君達が、僕の足止めできると思ってるの?」

「ああ、できると思ってるぜ」

「リヴルド」


 アルヴィスは護法魔導書(ピカトリクス)を出し、ページをめくる。


(やべぇ、なにかデカいのがくる!)


 護法魔導書(ピカトリクス)が光り輝く。


「レイヴン君とラフコーラちゃんを残して、まとめて消えるといいよ。轟覇(グラン)――」


 アルヴィスが魔法名を口にしようとした、


――その時だった。




炎錬成(フレート)ッ!!」




 どこからか聞こえたテオの言葉と共に、

 アルヴィスの護法魔導書(ピカトリクス)が――燃えた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ド打ち切りですねえ。俺たちの戦いはここからですらないという。入学試験以降とこのバトルは面白かったので残念です。しかしまあ、賽の河原状態だから仕方ないとは思います。 [一言] 前にメッセ…
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