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七つの迷宮  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
序章 殺人鬼の弟と殺人鬼の娘
3/34

第二話 FBIvs魔法使い

 少女は俺を見て、ムッと唇を尖らせた。


「この人がブレイヴ=オストリッチ捜査官ですか?」

「そうだ。君の協力者ということになる」

「そうですか。聞いてたより使えなさそうなやつですね!」


 生意気な……! 

 見るからに12歳そこらだ。俺の守備範囲(20~50歳)の外だな。


「このガキは何者ですか?」

「魔法使いのラフコーラだ」

「魔法使い、ねぇ」


 俺が心の中で馬鹿にしたのがわかったのか、ラフコーラ殿はムッと眉間にしわを寄せた。


「ボス。俺だって暇じゃないんですよ? こんな茶番に付き合わせないでください」

「茶番かどうか、試してみますか?」

「なんだと?」

「実戦で、わたしの魔法を見せてあげますよ」


 ラフコーラは俺を指さし、


「わたしと一対一の決闘をしなさい! わたしが勝ったら魔法の存在を信じ、わたしに絶対服従……つまりわたしの()()になってもらいます!」

「アホらしい。誰がやるか」


 こんなガキ相手に拳を振るおうものならFBI中からバッシングをくらう。

 立ち去ろうとしたら、ボスに肩を掴まれた。


「待てブレイヴ。決闘を受けろ」

「いやいや、こんなガキボコるなんて、さすがに命令でも嫌ですよ」

「お前が彼女に勝利したら報酬をやろう」


 嫌だね、ぜ~ったい嫌だ。

 どんな報酬を出されようが、俺はコイツと決闘なんざする気はない。


「もしもお前が勝てたら……この一年、週休2日にしてやる」

「やろうじゃないか決闘。叩きのめしてやるぜ……!」


 この47連勤に終止符を打ってやる!



 ◆



「へぇ~、本部の地下にこんな施設があったんですね」


 決闘を受けた俺は本部地下の真っ白な部屋に案内された。

 真正面、20メートル距離をとってラフコーラが立っている。

 ボスは別部屋で見ている。ブオン、と音が響き、ボスの声がスピーカーから響く。


『ここは核シェルターを兼ねた訓練場だ。どんな衝撃にも耐えられるようにしている』


 こんなガキとの喧嘩で大げさだな。


『ところでブレイヴ。丸腰でいいのか?』


「え? 武器使ってもいいんですか?」

「銃でもナイフでも好きに使っていいですよ」


 本気で言ってるのかコイツ?


『いや、銃はダメだ。ナイフなら許可する』


「どっちもいりませんよ」


 舐められたもんだな。近接戦闘の訓練はちゃんと受けている。というか、こんなガキ相手に特別な技術も武器も必要ないだろ。


『双方、準備はいいか?』


「いつでもいいですよ」

「わたしも大丈夫です」


『では、よーい……はじめ!』


 スタートと同時に前に出る。


「お尻ぺんぺんしてやるぜ!」


「リヴルド」


 ラフコーラがなにかを呟いた。すると、ラフコーラの手元に本が出現した。


「は!?」


 あまりの異常な現象に足を止めてしまう。

 なにもない空間から本が現れた。本は分厚い。200ページ以上あるだろう。本には4枚栞が挟んでおり、青・黄・オレンジ・銀とカラフルな栞だ。ラフコーラは青の栞のページを開く。


氷錬成(グラッセ)


 ラフコーラがまたなにかを呟くと、3個の氷が彼女の周囲に形成された。


「氷!?」


 氷はボールの形を作り、俺に狙いを定めてる。


「冗談だろ……」


 本を出した時も、氷を出した時も、彼女はまるで呪文を唱えているようだった。


(いやいや違う、落ち着けブレイヴ。魔法なんてあるはずがないんだ。アレは手品だ手品!)


 ビュッ! という音が三連続で響いた。


 氷球が迫ってくる。めちゃくちゃに速い。

 俺は床を転がって3個の氷球を躱す。


「な、なんて速さだ……! ピストルの弾ぐらいの速度はあるぞ!」

「アレを魔法使い以外に避けられるとは思いませんでした。……なるほど。推薦されるだけの力はあるようですね」


 気を引き締め直す。

 アレをくらったら一発アウトだ。


 いまラフコーラは氷を形成している。


 呪文を唱えてからボールの形をとるまでの時間は2秒弱か。次の攻撃を避けてその2秒弱の隙をつく。


「今度はもっと速度をあげますよ」

「勘弁してほしいな……」


 発射される3個の氷球。前に走りながら最小限の動きで回避する。


「そんな……速度は上がってるはず!」


 一度目で手品の挙動は見ている。弾道も嘘がない。

 速度は上がってもそこさえ押さえれば避けられる。


 ラフコーラとの距離2メートル。

 ラフコーラは別の栞のページを開いた。



全身強化(ルースタイン)



 ラフコーラが呟くと、ラフコーラの体からオレンジ色の煙が湧きあがった。

 瞬間、ラフコーラの姿が目の前から消える。風圧が右を通ったのは感じ取れた。


「ちっ!」


 背中に気配を感じ、俺は咄嗟に回し蹴りを背後に向けて繰り出した。

 だが俺の蹴りはラフコーラの細い左腕にガードされた。


(ガキに俺の蹴りを受け止められた!?)


 コンクリートを蹴ったみたいだ。俺の脚の方が痛い……!


「やりますね」


 ラフコーラの顔を見ると、汗が一滴だけ頬を伝っていた。


「でもここまでです――雷錬成(アマン)

「うがっ!!」


 痺れが脳天から足先まで走った。


 まるで雷に打たれたよう――というか、本当に雷に打たれたのだろう。

 なにもない場所から本を出し、氷を出し、挙句には瞬間移動まがいのことをされたのだ。魔法……とやらの存在を認めざるを得ない。


 意識が暗く沈み、膝が崩れる。



「わたしの勝ちです。これであなたは……わたしの下僕です」



 こうして始まったのだ。

 面倒で怠くて面倒で厄介な任務が――

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