第二十六話 降参
潔く諦め、護法魔導書を消す。
とてもじゃないが、勝ち目が見えない。
「トランプは渡す。だから見逃してくれ」
ゴリラ顔の少年が前に出る。
「いや、その必要はない」
少年はエイトを見る。
「仲間が怪我をしているようだな。……よし、すぐに手当てをしよう!」
「なに?」
「この先に洞窟がある。そこで休もう」
俺とテオは頭にハテナを浮かべ、目を合わせる。
お言葉に甘えて、俺達は奴らについていった。
◆
大木より背の高い巨大な岩壁。その岩壁に空いた洞穴に、俺達は入った。
「自動修復」
エイトの膝の傷に、女子が魔法をかける。
「これは強化魔法の1つで、自然治癒力を強化するわ」
「あ、ありがとう」
それからエイトは膝に包帯を巻いてもらった。
「俺からも感謝する。だが、どうして俺達をもてなすんだ?」
ゴリラ顔の少年――恐らくはこの一団のリーダーに聞く。
「手を組もう」
ま、そうくるよな。
「俺の名前はランディ。この集団を取りしきっている。俺達は3チームで協力し、試験に臨んでいる。いま、1チームは他のチームを追跡していていないがな。俺達は4チームで活動しようと思っている。お前達を入れてちょうど4チームだ」
「その4チーム間でカードのトレードをしたり、他チームを囲んでカードを奪って、役を作ろうってわけだな?」
「そうだ」
「1つ気になるのは、どうして、そのマークしているチームじゃなくて俺達に協力を申し込んだ?」
「信用の問題だ。いま俺達がマークしてるチームは信用できる相手ではない。お前も知っているだろ? ラフコーラという名前を」
「ラフコーラ!?」
「殺人鬼の娘だ。やつは信用できない。だからマークしていたもう1方のチーム、つまりお前達に声をかけたわけだ」
「……あっそ」
コイツらが追っているチームってのは、ラフコーラ、ハイネ、ピースクリフのチームか。
「どうだ? 悪くない話だと思うが」
「そうだな……10分、チームで話し合う時間をくれ」
「構わない」
俺とエイトとテオはランディ達から距離を取って話し合いする。
「どうする?」
俺が聞くと、エイトは、
「い、いっぱいのチームで1つのチームを襲うのは……あまり、好きじゃないかな」
次にテオが口を開く。
「私は入っていいと思うぞ。カードも揃えやすくなるし、キャンプ道具の交換などもできるからな。不足している食料だって分けてくれるかもしれん。利点が多い」
「レイヴン君は、どう考えてるの?」
「そうだな……俺は一度入ってすぐ抜けるのがいいと思う」
「え?」「はぁ?」
「まず、ここで『入らない』って選択肢はない。そんなこと言った瞬間、奴らはカードを奪いにくるだろうからな」
「そ、そうだね……」
「だからと言ってずっと手を組んでいても、いずれトランプの配分とか、役割への不満とかでもめると思う。うまく立ち回れるリーダーが仕切ってるなら別だが、俺はあのランディって男にそこまでの器量を感じない」
つーかアイツ嫌い。
「で、でも、入った後どうやって抜けるの?」
「そうだ! 一度手を組めばずっと行動を共にすることになる。逃げ出すのは難しいだろ!」
「大丈夫だよ。ランディ達はあいつが倒してくれるさ」
「「あいつ?」」
「とにかく、一旦俺に任せてほしい」
俺はランディに近寄る。
「ランディ」
「結論は出たのか?」
「ああ、お前らの集団に入ってもいい。けど、条件がある」
「条件?」
「ラフコーラのチームをお前ら3チームだけで倒してくれ。3チームもいて、1チームを倒せない奴らとはさすがに組んでられないからな」
「ふっ、舐められたものだ。いいだろう、その代わり、ラフコーラチームから奪ったトランプはお前らに分配しないからな」
「構わないさ」
交渉が成立したところで、小竜が一匹、洞穴に入ってきた。
「ヴァンのチームの召喚獣だ。俺達をラフコーラチームのところへ案内してくれる」
雨の勢いが段々と弱くなってきたな……。
「雨もじきに止みそうだ。全員、準備しろ!」
ランディの一声で、他の連中はダラダラと立ち上がる。
(幸運だったな。ラフコーラとは会いたかったところだ)
吸血魔について聞かないといけない。
小竜の案内の元、俺達は森を進む。
(さてさて、何秒で決着がつくかな)




