第二十五話 4日目
「降参だ。オイらの負けだよ」
ランスはあっさりと負けを認める。
「じゃ、トランプを渡してもらおうか」
「そいつはできねぇな」
「あぁん?」
「オイらは負けたが、他はこっちの勝ちだ」
ランスは目線を横に向ける。ランスの目線を追っていくと……、
「げっ」
エイトはソードに、テオはアックスに取り押さえられていた。
しまった……こいつとの戦いに集中していて、仲間のことを忘れていた。
「今回は引き分けにしようぜ」
「……しゃあねぇな」
俺はランスを放す。するとエイトとテオも解放された。
エイトとテオはこっちに帰ってくる。ランスも仲間たちの方へ帰った。
「ご、ごめん……レイヴン君」
「気にするな。俺も、お前らのことをすっかり忘れちまってたからな。俺のミスもある」
「まったくだ! 貴様がもっと連携を意識していれば、こんな醜態は晒さなかった!」
テオ君よ……今のところ、お前まったく良い所ないぞ。
初動でテオが魔法を外したせいでソードがフリーになり、距離を詰められた。あれはやっちゃいけないミスだ。
しかし指摘すればへそを曲げられるだけ。言うだけ無駄どころかマイナスだ。
「いや~、楽しい戦いだった。またやろうぜ、レイヴン」
そう言ってランスは去ろうとするが、
「待てよ」
俺はランスを呼び止める。
「お前の名前、聞かせてくれよ」
ランスは照れくさそうな顔をした。
「……ンス、……ト」
「は? 聞こえないぞ」
「ランスロットだ! ランスロット=ディアブロード!!」
ランスロット、と言えば、
「あの円卓の騎士と同じ名前なのか?」
ランスロット。
ヨーロッパに伝わる『アーサー王物語』に出てくる円卓の騎士の1人。湖の騎士と呼ばれている、伝説の騎士の名前だ。
「あーっ! 恥ずかしい! 騎士ってガラでもないのに、こんな名前つけられて本当迷惑だぜ! オイらのこと、間違ってもランスロットって言うなよ! ランスでいいからな!」
ランスロット=ディアブロード。
12歳にしてはすげぇ槍さばきだったなぁ。10年後が怖いぜ。
◆
ランス達との一戦の後、3キロメートルほど歩いて、野原にテントを張った。
まだ暗くはなっていないが、体力の限界だった。
正直、ランスとの戦いは体力も気力もかなりすり減らす結果になった。エイトやテオではなく、俺の限界がきた。
この日、見張りをエイトとテオに任せて、俺はテントで眠った。
4日目、天候雨。
道に斜度がついてきた。上り坂をゆく。
雨だから地面がぬかるんで進みにくい。
(雨の勢いが衰えない。こんな状態で他のチームに襲われたら最悪だな)
エイトとテオは昨夜見張りをやってもらったから眠そうだ。
今日は、あまり無理をしない方がよさそうだな。
『休憩しよう』、そう言おうと思った時、ズル……と足を滑らせる音がした。
「きゃっ!?」
振り向くと、後ろを歩いていたエイトが地面に転んでいた。
「大丈夫か?」
俺はエイトに近づき、傷がないか確認する。
テオがエイトの膝を指さし、
「膝をすりむいているな」
エイトの膝に赤い血が滴っている。そこまで出血量は多くないけど、痛そうだな。
「だ、大丈夫だよ。先に進もう」
「無理するな。一度休憩して、手当てしよう」
ザッ、ザッ、ザッ。と、耳に足音が飛び込んできた。
最悪だ……。
「リヴルド!」
俺は護法魔導書を出すも、魔法を唱える気が起きなかった。
なぜなら、相手の数が多すぎた。
1チームじゃない。
雨具を着た6人……2チーム分の人数が、俺達を取り囲んだ。




