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七つの迷宮  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化
第一章 寮振り分け試験〈シャッフルポーカー〉

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第二十話 カメラアイ

 背後に1人、正面に1人、木の上に1人。

 俺はページを捲り、脚力強化(フードタイン)護符紙(マーカー)が貼りついたページを開く。


風錬成(パーシャル)ッ!」 

脚力強化(フードタイン)!」


 木の上の女子が風を発射する。荒れ狂う豪風を、横っ飛びで躱す。


「うおっ!?」


 バキッ!!


 力加減をミスった。勢い余って木にぶつかってしまった。

 これが脚力強化(フードタイン)……! 今の俺は、27歳の俺よりも脚力がある!


白鉄大槌(テッサバンク)ッ!」


 背後から魔法名を唱える声が聞こえた。


「おっと!」


 俺は振り返り、振り下ろされた鉄のハンマーをバックステップで避ける。


 攻撃を躱しながら白鉄槍(テッサリード)のページを開く。


白鉄槍(テッサリード)


 護法魔導書(ピカトリクス)は槍へと変化する。


「「氷錬成(グラッセ)ッ!!」」


「――ッ!」


 マリンと女子の氷球による交差射撃(クロスファイア)

 風錬成(パーシャル)で俺を動かし、動いた先に白鉄大槌(テッサバンク)で追撃。追撃が避けられても体勢崩した俺に氷球か。将来有望だな。しかし、


「ふっ――!」


 俺は浴びせられた6個の氷を全て、槍でたたき落す。


「なっ!?」

「あの速度の氷を――」

「撃ち落とすなんて……!」


「ラフコーラのやつに比べると、だいぶと遅いぜ」


 ハンマーを持った男子は臆せず、俺に突っ込んでくる。


「そら!」


 俺は槍の矛先でハンマーの柄をカチ上げる。


「くっ!?」


 天を舞うハンマーが地に落ちる前に、石突で正面の緑髪の男子のみぞおちを穿つ。


「がはっ!?」


 男子が地面に伏すのを確認して、俺はマリンに視線を移す。

 マリンは護法魔導書(ピカトリクス)のページを捲っていた。


(狙うは……)


 俺は、昨日の記憶を呼び起こす。

 昨夜、荷物の準備をした後、俺はエイトより魔法の授業を受けていた。


『えっとね、魔法使いを無力化する時は護法魔導書(ピカトリクス)を狙うといいよ!』

『なんで?』

護法魔導書(ピカトリクス)を破壊されると、数時間は護法魔導書(ピカトリクス)を出せなくなるんだ』


 俺は一瞬でマリンとの距離を詰める。


「はやっ!?」


 コイツらはいま、俺の動きに対応できない。


強化(バフ)魔法は重ね掛けできないよ。だからね、同じ強化(バフ)魔法をいくら掛けても効果が増えたりしないし、異なる強化(バフ)魔法を掛けても上書きされるだけなんだ』


 奴らは嗅覚強化(ビーズタイン)のおかげでこの暗闇で戦えている。だから、俺の脚力強化(フードタイン)に対抗して強化(バフ)を上書きすることはできない。

 槍を突き出し、マリンの護法魔導書(ピカトリクス)を貫く。


「しまった……!」


 マリンの護法魔導書(ピカトリクス)は光の粒となって消えた。


「これで後は……」


風錬成(パーシャル)ッ!!」


 男子2人が戦闘不能となっても、木の上の女子は諦めず、風を撃ってくる。俺は風を躱しつつ、「リヴルド」と唱え、槍を護法魔導書(ピカトリクス)に戻し、投石銃(レッジシュルド)のページを開く。


投石銃(レッジシュルド)


 護法魔導書(ピカトリクス)をスリングショットに変化させ、足元の小石を蹴り上げ、右手でキャッチする。


『あとね、気を付けてほしいのは魔法の冷却時間(クールタイム)


 魔法は、一度使用すると次に使用できるまでに時間がかかる。


『強い魔法ほど、クールタイムは長いよ。弱い魔法……使用ページ20ぐらいの魔法なら、5秒~10秒ぐらいで再使用できるようになるかな。クールタイムの時はその魔法の護符紙(マーカー)から色が抜けて、時間が経つにつれ色が戻っていく。色が戻り切ったら再使用OKの合図だよ』


 あの女子の護符紙(マーカー)は3枚。

 1枚は嗅覚強化(ビーズタイン)。後の2枚は風錬成(パーシャル)氷錬成(グラッセ)

 いま風錬成(パーシャル)はクールタイム。ならば、やつが撃てる魔法は1つ。


氷錬成(グラッセ)ッ!!」


 氷錬成(グラッセ)は撃つまでに2秒弱のタメが必要だ。奴が氷を撃つ前に、俺が小石を撃つ方が速い。

 ゴム紐に小石を乗せて引っ張り、放つ。この間、約1.5秒。

 小石は彼女の右手に当たり、彼女は護法魔導書(ピカトリクス)を手から落とした。宙に浮いていた氷は霧散する。


「リヴルド……白鉄槍(テッサリード)


 護法魔導書(ピカトリクス)を槍に変え、落ちてきた女子の護法魔導書(ピカトリクス)を槍で貫く。

 これで、3人全員戦闘不能だ。


「なっ――」


 マリンは信じられないという目で、俺を見ていた。


「チュートリアル終了! お疲れさん」


 俺はマリンに対して手を出す。マリンは苦い顔で、4枚のトランプのカードを俺に渡した。


「まさか3対1で負けるなんて……」

「ガキにしては悪くない連携だったぞ」

「上から言ってくれますね。1つ、聞きたいことがあります」

「ん?」

「どうしてあなたは、この暗闇で僕達が見えていた? 暗闇で敵の位置を把握するためには嗅覚強化(ビーズタイン)暗視補助(ダグマミット)などの強化(バフ)が必要。だけどあなたは脚力強化(フードタイン)を使っていたから、他の強化(バフ)は使っていなかったはず。一体どんなトリックを使ったのですか?」

「トリック? そんなモンじゃないよ。生憎、暗視(それ)は標準装備してるもんでね」

「どういう意味です?」

「悪いがこれ以上は喋れない。じゃあな。試験、諦めず頑張れよ~」


 俺は手を振りながら、その場を離れた。

 


 ◆◆◆



 FBI本部オフィス。

 ブレイヴが所属するチーム“特殊事件捜査班”、通称“スペシャル”のリーダーであるリーラは、書類の山を片付けていた。


「ボス」


 リーラに、青髪ロングの男性が声を掛ける。男性の腰には鞘に収まった刀が差さっており、刀の柄にはアニメキャラクターのキーホルダーが吊るされている。


「どうした? ロンウェル捜査官」

「どうして、重要特務任務にブレイヴ捜査官を行かせたのですか?」


 ブレイヴの任務について、一般の捜査官には『重要な潜入任務』ということだけ伝えられている。詳しい内容は知らされていない。


「僕に任せてくだされば、必ず期待に応えてみせました」

「ブレイヴだって期待に応えてくれるはずだ」

「無理ですよ。やつは殺人鬼の弟だ。ロクな人間じゃない……僕は、やつがFBIにいることも許せないというのにっ……!!」


 ロンウェルは歯を軋ませる。


「ボスは、なぜそこまでやつを贔屓するのですか?」

「別に私情で今回の任務の担当にブレイヴを選んだわけじゃないさ。アイツが今回の任務に選ばれたのも、アイツがFBIになれたのも、アイツが優秀だからだ。お前も知っているだろう? ブレイヴには特別な目がある」

「“カメラアイ”――ですか」


 リーラは椅子を回し、ロンウェルの方に体を向ける。


「そうだ。アイツの目にはカメラの機能である自動焦点(オートフォーカス)遠視(ズーム)絶対記録(シャッター)暗所透視(ナイトビジョン)、の4つが備わっている。ま、絶対記録(シャッター)は目というより脳の機能か。今回の潜入先はかなり特殊だ。だから一番()()()()()()()を持つアイツを行かせた」


 リーラが理論的に説明しても、ロンウェルは眉をひそめる。


「私の判断は不服か?」

「不服です」

「……本当にブレイヴが嫌いなんだな、お前は」


 リーラは渋い顔をする部下を見て、心の内で溜息をつく。


(しかし、あんな能力を持っているせいで……アイツの頭の中にはいつだって焼け焦げる両親の姿が残っている。何年経っても燃やすことのできない写真(記憶)殺人鬼の娘(ラフコーラ)ならば、アイツのトラウマを少しは忘れさせることができるだろうか)


 リーラは口から溜息を吐き、作業に戻った。

ブクマ1つ、評価1つ増えました!

いと感謝です!

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― 新着の感想 ―
[一言] うわ、瞬間記憶能力者! そりゃFBI向いてますね。
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