第十七話 FBIの恩人
護符紙を買った夜。
宿のベッドの上で、俺は護法魔導書の1ページ目に白鉄槍の護符紙を貼った。
「おぉ!」
護符紙を貼った途端、水でとかした絵の具が染みていくみたいに、銀色で文字が刻まれていった。知らない文字なのに白鉄槍と読める。
1ページ目の印字が終わると、勝手にページが捲られ、2ページ目にも文字が刻まれ始めた。文字を刻むスピードは遅い。
「大体10ページ30分ぐらいで印字は終わるよ」とエイト。
この作業はインストールと呼ぶのか。
「白鉄槍は35ページだから……1時間45分か。85ページだと4時間15分。結構かかるな~」
「おい、残りは床でやれ! 私はもう眠る!」
テオはパジャマを着ている。今は夜の9時、子供は寝る時間だ。
俺は床に移動し、エイトと一緒に護法魔導書を見守る。
「……」
なんか、そわそわするな。
これで護法魔導書に護符紙が馴染んだら、いよいよ俺も魔法が使えるようになるわけだ。感覚としては、新作ゲームのケースに貼り付けられたビニールを破っている時の、あの落ち着かない感じだ。
「うぅ……」
横を見ると、エイトが寒そうに腕をさすっていた。
「夜は冷えるな」
「そうだね……お昼はあったかいんだけどね」
「別にお前が付き合う必要はないぞ?」
「ううん、わたしも見ていたいんだ。あ! 布団持ってくるね!」
この部屋に布団は2枚。片方はテオが使っている。
エイトは自分のベッドから布団を引きずり下ろし、俺に掛けてくれた。
「それじゃ、お前が寒いだろ。入れよ」
俺は布団を腕で上げて、エイトのスペースを作る。
「し、失礼しますぅ……」
エイトは俺の作ったスペースに体を入れた。
エイトの肩が俺の肩とぶつかる。エイトの体温が肩越しに伝わってくる。
「……あのさ」
エイトは視線を護法魔導書に固定したまま、話を始めた。
「わたしとレイヴン君って、この街で会うのが初めて……だよね?」
「もちろんだ。どうした? いきなり」
「その……ね」
エイトはちょっと迷う素振りを見せたが、恥ずかしそうに話を続ける。
「わたし、レイヴン君に似た人と会ったことがあるの」
「俺に似た人?」
「うん! レイヴン君よりずっと年上なんだけどね、本当によく似てた。首に火傷の跡もあったし」
おやぁ?
いや、まさかな……。
「わたしね、アメリカのニューヨークへ旅行に行ったことがあるの。でも、わたし迷子になっちゃって。お父さんとお母さんを探してウロウロしてたら、知らない人たちにトラックに連れ込まれたんだ」
「誘拐か……」
「うん。トラックの中は同世代の子供たちがいっぱいいてね。みんな泣いてた。わたしも、いっぱい泣いた。これから酷いことされるんだって、なんとなくわかってたから」
ニューヨーク、誘拐事件。
やばい、記憶にあるぞ……!
「泣き疲れて、泣くのをやめた時、トラックが急に止まったんだ。そして、わたしを誘拐した人たちを次々と倒して……あの人は現れた。あの人は、わたしたちに向かって、笑顔で『もう大丈夫だ』って言ってくれた。胸にFBIって書かれた服を着てて、首に火傷の跡があって、金色の髪で、すっごく笑顔が素敵な人。今でもよく覚える……本当にレイヴン君をそのまま大きくしたような人だった」
うん。つーかそれ俺だね。そのまま大きくした人だね。
思い出した。
外国人をターゲットにした人身売買業者を相手にしたことがあった。2年前、俺が25歳の時だ。しかし、あの子供たちの中にエイトがいたのか。子供の顔は全員覚えてるけどエイトの顔に覚えがない……人の顔は忘れないんだけどな。いや、そういや1人だけ、前髪が長くて顔が見えなかった女の子がいたな。あいつの髪は――黒髪だった。
アレか!!!
「レイヴン君の知ってる人だったりするのかな?」
「おぉ、ん」
動揺した心を落ち着ける。
「生憎、俺の知り合いに俺と同じ火傷の跡を持つやつはいないな」
嘘は言ってない。
「そ、そっかぁ」
「エイト、お前そいつに会いたいのか?」
「うん! だって、あの時はちゃんと言えなかったから、『ありがとう』って! それに、あの人はわたしの……」
「わたしの?」
「ううん! なんでもないっ!」
エイトは布団を深く被って表情を隠した。
「いつか会えたらいいな」
他人事のように俺は言う。
俺がそのFBI捜査官だとバレないよう気を付けないと……俺の素性を明かすわけにはいかないからな。
「そうだね」
エイトはそう言って、話を終えた。
待つこと1時間以上。
ようやく、インストールが終わった。
俺は護法魔導書を持って立ち上がり、ゴホンと咳払いする。
「えぇ~、それでは、レイヴン=キッド、生まれて初めての魔法を披露いたします!」
エイトがパチパチパチと拍手する。
「白鉄槍ッ!」
叫ぶと、手元の護法魔導書は鉄の感触になり、その姿を変え――槍となった。
「うし! できた!!」
「おめでとう~! これでレイヴン君も魔法使いになったね!」
「うるさいぞ君たち! 眠れないではないか!!」
それから残りの2枚の護符紙もインストールし、俺は3つの魔法を使えるようになった。
「面白い!」
「更新楽しみ!」
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