第十四話 宿を決めよう
吸血魔が捕まったのなら俺はもうお役御免だ。
だけど、奴がどういう経緯で捕まって、いまはどうなっているのか、それを聞かなければ帰れまい。
聞く相手は決まっている。もう1人の協力者である、キーハートの学園長だ。学園長に会うためには試験を乗り越えなきゃな。
とりあえず、今は目の前の課題に全力で取り組もう。それしかやれることはない。
「テオ。財布を渡してくれ、金は俺が管理する」
「嫌だね。チームの金銭を管理するのはリーダーの役目だ!」
いつテメェがリーダーになったんだよ!
コイツは見るからに裕福な家庭で育った坊ちゃんだ(ペットショップでも高い猫買ってたしな)。コイツに金の管理は任せられない。
「じゃあ聞くが、お前、金貨8枚で最大何日暮らせる自信がある? 当然、俺とエイトとお前、3人でな」
テオは顎に手を添え、10秒間を置き、
「……は」
「は?」
「半日だ」
「金を渡せ! 今すぐ!」
テオは渋々財布を手渡す。
「まず今日と明日泊まる宿を探すぞ。必要な物は宿で話し合おう」
というわけで、俺達は宿を探し回った。
近辺で見つかった宿は4つ。その内、一番安い宿に入る。
3人でプラン表を見る。
「1部屋1日銀貨4枚か……」
ネズミの足音は聞こえるし、天井からほこりは降ってくるしで汚い宿だが、まぁこの安さならここで決まりだな。
「ふん! こんなボロい宿はご免だ! 私が推薦した宿にするべきだ!」
「それってさっきの一泊金貨2枚の店のことを言ってんのか?」
「わたしは全然、このボロ宿でも大丈夫だよ?」
「ここが一番安いんだから我慢しろ。俺だってこんなボロボロで今にも崩れそうな宿は嫌なんだからな」
「君たち~、よく店主の前でそんなこと言えるね~。まぁ安さしか良い所ないの、自覚してるからいいけどさぁ」
1人1部屋銀貨4枚。3人だから1日金貨1枚と銀貨2枚、2日で金貨2枚と銀貨4枚か。食事があと今日の昼と夜、明日の3食と明後日の朝食、計6回ある。1回の食事を銀貨2枚で済ませるとして、食費と宿泊費を合わせて金貨3枚と銀貨6枚が消える。
自由に使えるのは約金貨4枚か……少し心もとないかな。
「ん?」
俺はメニュー表のあるプランに目をとめる。
『ツインベッド ワンルーム 一泊銀貨7枚』
俺はメニュー表をもって店員に話しかける。
「すみません。この『ツインベッド ワンルーム』のプランなんですけど、この部屋に3人泊まるのって有りですか?」
男性店員は「うーん」と一瞬考え、
「大人ならダメだけど、子供3人だったらギリOKかな」
「よし! じゃあこのプランで……」
「ちょっと待てぇ!」
テオからストップがかかる。
「それはつまり、片方のベッドに2人寝るということではないのか!?」
「当然だろ」
「順当に考えれば、女性であるエイトが1人で1つのベッドを使う。そして、私と君が同じベッドに寝る」
「なにか問題あるか?」
「大有りだ! この宿で泊まることは認めよう。ただし、私は他人を横に据えて眠ることはできん!」
「わがまま言うなよ。1人1部屋で二泊すれば金貨2枚と銀貨4枚かかる。だけどこのプランなら二泊で金貨1枚と銀貨4枚だ。金貨1枚節約できるのは大きい」
「金貨1枚ぐらい、別にいいだろ!」
コイツ……この状況における金貨1枚がどれくらいの価値があるかわかってないのか? わかってないだろうなぁ……。
「あの、あのね!」
エイトがもじもじしながら上目遣いで見てくる。
「わたし、2人の方でもいいよ? わたしと、レイヴン君で1つのベッドでも……いいよ?」
エイトは金貨1枚の価値がわかっているようだ。
例え男の俺と同じベッドに寝ることになろうとも、金貨1枚を優先している。
「なぬ!?」
「でもさすがに男女でベッドを使うわけには……」
赤面するエイト、動揺するテオ。
俺の頭に1つの名案が浮かぶ。
「わかった、そうしよう。一緒に寝ようぜ。エイト」
「あっ、うん……!」
「なななっ!?」
「だって仕方ねぇよな? テオ君が2人でベッド使えないって言うんだもんなー」
テオは「ごほん」と咳払いし、
「仕方あるまい。私とレイヴンで1つのベッドを使おう」
こいつ、わかりやすい性格してんな。
「じゃあお兄さん、このプランでお願いします」