第十三話 エロ本没収の巻
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1、キーハート魔法学園に辿り着いた順にポイントが配られる。(レースポイント)
2、チーム3人でゴールすること。
3、チームには予め3枚のトランプが配られる。
4、トランプで役を作る。高い役を作るほど高いポイントが配られる。(ポーカーポイント)。ちなみに重複したカードは無視される(♡3が2枚、とかの場合は♡3が1枚と変わらない)。
5、樹海内でのみ他チームからトランプを奪うことが可能。カードの交換など、協力することも許可する。
6、2日後の試験開始まで他チームとの接触禁止。樹海外で他チームとの接触禁止。
7、チームの資金は金貨8枚。この手持ち金で樹海を越える備えをする。他人に援助金を求めたり、衣服などを売ったりと手持ち金を増やす行為は禁ずる。
8、レースポイントとポーカーポイントの合計値が高いほど、良い寮に入れる。
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「つまり他チームからトランプを奪いつつ、樹海を越えればいいんだろ。面白そうだな」
運、実力、戦略。全部必要なゲームだ。
他にもサバイバル能力や限られた資金での運用力、連携力も測れる。……よく考えられているな。しかし、12歳にやらせる試験ではないけどな。せめて18歳だろ、最低ラインは。
「ふ、不安だなぁ」
エイトは体を震わせている。
テオも同様に体を震わせていた。
「キーハート魔法学園までは直線距離で80㎞あるのだぞ……! い、1日で越えられるだろうか!?」
「無理だろ。樹海だぞ? 途中川とかで道が分断されていたら迂回しないといけないし、しかも他チームとバトりながら進むんだ。暗くなったら動くのは危険だから動けるのは夕方まで……3日は最低でもかかるだろ」
「3日!? その間宿はどうする? じゅ、樹海の途中に宿屋はあるだろうか……?」
「あるわけねぇだろ! 野宿に決まってる」
「無理だぁ! 私にはできん!」
貴族の坊ちゃんにはきついだろうな。
「おトイレは、どうするのかなぁ? 途中に、トイレとかあるのかな?」
「あるわけねぇだろ。外でするに決まってる」
エイトはもじもじしながら顔を赤くする。
「そ、そっかぁ……はずかしいなぁ」
そうだ、コイツらはまだ12歳だった。俺だって肉体年齢は12歳だ。
3日で行けるってのは甘い予測だったかもな。
「うーし、次はお前らの番だ」
鼻ピアスの教員だ。
「荷物を出せ」
俺達は衣服とバッグアニマル、リヴルドネックレスを除いた全ての荷物を差し出した。
「アタッシュケースの中を見ていいか?」
「どうぞ」
大丈夫。身元がバレるような物は入ってない。
ラフコーラに厳しく荷物チェックされたしな。入ってるのは私服ぐらいだ。
教員はアタッシュケースの中を探り始める。
「……おい」
教員はある一冊の本を出して、俺に見せる。
「あ」
忘れていた。たった1つだけ、ラフコーラには内緒で持ち込んだ宝物がある。
――18禁のアダルト本だ!!
「わわっ!」
エイトはアダルト本の表紙を見た瞬間、両目を手で隠した。
「ほーう」
テオは表紙の裸体に釘付けになっている。
「お前、なにを持ち込んでんだアホ」
「いやー、あはは……」
「これ年齢制限のあるやつだろ? お前はまだ読んじゃダメだろうが。まったく……へぇ、これが外のエロ本かぁ……」
教員は本の中を見る。
鼻の下を伸ばしながら本をさーっと読んだ後、教員は咳払いし、
「こいつは俺が永久没収する」
「永久!? おい、コラ。テメェまさか自分の物にするつもりじゃねぇだろうな! エロ教師!!」
「教師になんて口の利き方しやがる! とにかく、これは俺が所有する。お前にはまだ早いんだよ、エロガキ!」
俺の宝物は没収された。
すまん、いつか取り返すから待っていてくれ……!
「ほれ、金貨8枚が入った財布だ」
テオが財布を受け取る。
「質問いいですか?」
俺が聞くと、教員は「どうぞ」と返す。
「もしも樹海の中で熱出したりして、試験続行不可能になったらどうすればいいんですか?」
「さっきも言ったが常に監視員が1チーム1人ついて、お前らの見えない所から見張っている。監視員が続行不可能だと判断したら監視員が試験管理本部に合図を送る。そうしたら本部がお前らの回収に動く。もちろん、続行不可能と判断された時点で失格! 一番下の寮に入ってもらう」
「あと1つだけ、質問があります」
「なんだよ」
「吸血魔の対策はしてるんですか?」
吸血魔アルヴィス。
奴がキーハート魔法学園で殺人を犯しているのなら、その近辺である樹海に潜んでいる可能性は高い。
奴は12歳から14歳の少女をターゲットにする。そして試験に参加するのは12から13歳の少年少女。
この試験は危険すぎる。なんの対策もしていないのなら、なんとかして止めないと――
「吸血魔? あぁ、この前の学園の女生徒が殺された件について言ってんのか。あの全身の血が抜かれてたやつね」
なんだ、この能天気な反応……。
「あれの犯人ならもうとっくに捕まえたぞ? 新聞にも記事が出ていたはずだ」
「はい!?」
吸血魔が捕まっていた?
じゃあ俺はなにしに来たんですか!?
「どっちみち監視員がついてるから暴漢とかに襲われる心配はいらねー。話は終わりか?」
「は、はい」
「そんじゃ、これから準備に入ってくれ」
話が終わった瞬間、俺はラフコーラを探した。
ラフコーラを噴水の前に発見! 吸血魔について聞かねば!
「ここに2日後に集合! それのなにが悪いのよ!?」
ラフコーラに怒声を浴びせる少女が1人。あのツインテは……ハイネちゃんではありませんか。
もしかして、アイツとラフコーラがチームになったの? 最悪じゃねぇか?
「で、でも、一緒に行動した方がいいと……わたしは思います」
「だ、か、ら! 2日後からは一緒に行動するわよ!」
「買う物は相談して決めた方がいいかと思います。それに、お金がないと泊まる場所が……」
「じゃあ、はい! 金貨2枚あげる! これで大丈夫でしょ?」
ハイネは金貨を2枚、ラフコーラに投げつけた。
「行きましょう。ピースクリフ」
「うん。わかった」
ピースクリフと呼ばれたやつは、このチームの3人目なんだろう。女みたいな容姿をしているが、制服が男のやつだから男か。
ラフコーラは地面に転がった金貨を拾う。その姿からは直視できないぐらいに悲痛なものを感じた。
「おい、ラフ――うお!?」
ラフコーラに話しかけようとした時、右腕をテオに、左腕をエイトに引っ張られた。
「なにをしている貴様! 他チームとの接触は禁止だと言われたばかりだろうに!」
「そ、そうだよレイヴン君……!」
「あ、わりぃ。頭から抜けてた」
つーか、そうなると、試験が終わるまでラフコーラに吸血魔のことを聞けないな。
ラフコーラは1人、とぼとぼと歩いて行った。
「……」
小さくなっていく背中を、ただ見送る事しかできなかった。