第十話 シャルロット宝石店
ペットショップから出て右にずっと進み、グランマ書店へ。
魔法用語の書かれた教科書(金貨2枚)を買い、クロウリーに詰め込んで、隣のシャルロット宝石店に入った。
宝石店……なのに、宝石に縁の無さそうな少年少女が多くいる。
商品を軽く見まわしてみる。あるのはネックレスだけで、指輪などはなかった。
店員を探すが、どの店員も他の客の相手で手がいっぱいで話しかけられない。
(仕方ない)
他の客にリヴルドネックレスについて聞いてみよう。どうせなら俺と同じ新入生がいいな。と思ったら、すぐ隣にボサ髪の女の子を発見。身長はラフコーラより少し低いぐらいだ。背中を丸めて、下を向いて歩いている。
「なあ」
俺は少女に声を掛けるが、少女は肩をビクッと震わせるだけで返事しない。
「おーい」
俺は少女の背中をポンと叩く。
「ひっ!?」
俺は背中を叩いただけだ。
なのに少女は凄い勢いでバックステップを踏み、俺から距離を取った。
「ななな、なんでしょうか!?」
甲高い声だ。耳がキンキンする。
「いや、ただリヴルドネックレスについて聞きたくて……」
「あ!」
少女は俺の顔をジーッと見て、歩み寄ってくる。
「あ、あの! もしかして、今日紙飛行機で来た人ですか!?」
「お、おう。そうだけど」
「わた、わたしね! 日本って国から来た、外部生なのっ! あなたも外部生、だよね!? 紙飛行機に乗ってるの、見た! 銀髪の女の子と一緒に……」
「もしかして、俺がこの州の空を紙飛行機で飛んでる時、上にいた奴か!」
少女はコクリコクリと頷く。
「俺はブレ……レイヴン=キッドって言うんだ」
「わたし! 古谷影兎って言うの! エイトってよ、よんでほしいな……!」
エイトは見るからに気が弱そうだ。
恐らく、ここに来てから知り合いもおらず、不安のままウロウロしていたのだろう。自分と同じ外部生である俺を見つけてとても嬉しそうだ。
「わかった。よろしくな、エイト」
「えへ、えへへへ……」
エイトは体を揺らしながら照れる。なんだこの可愛い生き物。
「あ、あの、銀髪の女の子は、一緒じゃないの?」
「アイツとははぐれちまってな。今は1人さ」
「そう、なんだ……わたしも、ひ、1人なんだ……」
「そうか。なら一緒に行動しようぜ」
「う、うん!」
「なぁエイト。リヴルドネックレスって、どれかわかるか?」
俺が聞くと、エイトはキョトンと表情を固めた。
「レイヴン君、キーハート魔法学園に入学するのに、リヴルドネックレス、知らないの?」
「知らない」
「す、凄いね。ある意味……」
「リヴルドってのは聞いたことあるけどな。みんなリヴルドって言って、なんか変な本出してた」
「変な本じゃなくて……あ、あれは護法魔導書って言うんだよ。魔法を出すための、発射台? 弓矢の、弓みたいな役割……かな?」
「へぇ、護法魔導書ねぇ。アレってどうやって出すんだ? 俺がリヴルドって言っても出てこないんだよ。――リヴルド!!」
気合を入れて声を出してみるも、なにも現れない。
「えっとね、ネックレスが必要、なの」
エイトは商品のネックレスを手に取る。
「おい、いいのか? 勝手に取って」
「し、試着は自由なんだよ?」
エイトはネックレスを両手に持ち、俺の目の前で「うー、うー」と背伸びする。
「あ」
ネックレスを掛けようとしてくれてるのか。
俺は頭を下げる。エイトは俺の首にネックレスを掛けてくれた。
「これで、本を出すイメージを浮かべて、リヴルドって言ってみて?」
「リヴルド!」
すると、手元にストンと本が落ちた。
「おおっ!」
出た! ラフコーラが出してたやつだ!
「ここにあるネックレスは全部、リヴルドネックレスって言ってね。それを掛けて、リヴルドって言うと護法魔導書が現れるの」
そうか。リヴルドネックレスをつけてない俺が言っても何も現れなかったわけだ。
これが護法魔導書……しかし、ラフコーラのやつに比べて、
「薄いなー」
「最初は60ページから100ページくらいって、おばあちゃんが言ってた。わたしは、最初から200ページくらい出て、才能あるって言われたんだぁ……」
俺の護法魔導書のページ数を数えてみる。
ざっと67ページだ。
「他にもリヴルドネックレスがあるけど、種類によってなにか変わるのか?」
「リヴルドネックレスを変えると、護法魔導書も変わるの。護法魔導書は性格があってね、水の魔法が得意な護法魔導書や、治癒魔法が得意な護法魔導書とかがあるんだ。でも、相性が悪いとページ数が減っちゃうの。逆に、相性がいいとページ数が増える」
「護法魔導書はどうやって消すんだ?」
「手元にある状態で、『消えて』って念じると消える。あ、あと、護法魔導書から100m離れても勝手に消える」
俺は頭の中で『消えろ』と念じる。すると護法魔導書は消えた。
「俺がいま出した護法魔導書はどういう性格なんだ?」
「す、好き嫌いがないやつだよ。相性も良いとか、悪いとかないんだ。だから、自分の基準ページを測れる」
「基準ページ?」
「いま出した護法魔導書のページ数、わかる?」
「67ページだ」
「そ、それが今のレイヴン君の基準ページ。他の護法魔導書を出してみて、それよりページ数が多ければ相性が良い。少なければ、相性が悪い」
「ふむふむ。そういうことね」
エイトの解説のおかげで大分飲み込めたぞ。
護法魔導書を出していって、ページ数の多い護法魔導書を出せたリヴルドネックレスを買えばいいわけか。
「そんじゃま、片っ端から試してみるかな」
◆◆◆
〈ネプトゥヌス街〉の街道をラフコーラは歩いていた。
ラフコーラは首に火傷跡のある少年を探している。
(さっきは勢いで離れてしまいましたが、わたしの解説がなければ今日中に物を揃えるのは難しいはず。バッグアニマルの説明もリヴルドネックレスの説明もしてませんからね……)
ラフコーラはメモに書いた店を訪ねていく。
洋服店、ペットショップ、書店、そして宝石店へ。
「……っ!?」
宝石店に入ってすぐ、ラフコーラはブレイヴに気づいた。
反射的に店から出てしまう。
「な、なにを隠れているんでしょう。わたしは……」
そーっと、店の窓からブレイヴを見る。
「なっ!?」
ブレイヴの隣、そこには見知らぬ黒髪の女子がいた。
「あ、あの人は……! わたしと離れてすぐにまた別の女の子と……!」
ラフコーラはプンスカと怒った後、寂しそうな目でブレイヴ達を見る。
「……いいですね。普通の人は、簡単に友達が作れて」
そう言って、ラフコーラはブレイヴに会わず、その場から去った。