第九話 シーマルのペットショップ
橋を渡り、シーマルのペットショップの前に行く。
ここにはバッグアニマルなる物が売ってるらしい。
つーか、バッグアニマルってなんぞ? 入ればわかるか。
「こんちはー」
店に入ると、往来のペットショップと同じくケースに動物が入れられて、並べられていた。店は賑わっており、俺(12歳)と同じくらいの歳の子供が大勢いる。
「いらっしゃませー」
エプロンをつけたやる気のなさそうなおばさん店員が挨拶してきた。俺はおばさん店員に声をかける。
「あの、バッグアニマルってのが欲しいんですけど」
「そこら中に居るでしょ。好きなの買いなさいな」
ひでぇ接客態度だ。面倒くさい、離れろ、と態度で表している。
でもここでおとなしく退くほどお利口さんではないのでね。
「俺、バッグアニマルについてなにも知らないんですけど、説明してもらってもいいですか?」
「……はぁ。仕方ないわね」
おばさんはケースの中から可愛らしい白毛の子猫を出した。
「バッグアニマルはバッグに変化する動物のことよ。ほら」
おばさんが猫を撫でると、ネコは丸まり、毛玉になり、そして猫毛皮の手提げバッグになった。
思わず「すごっ!」と素の感想が漏れてしまった。
「バッグの中は異空間に繋がっていて、見た目以上に多くの物が入るわ。この猫ちゃんバッグならタンスぐらいの容量はあるわね」
バッグからまた子猫に戻る。
「生物以外はなに入れても大丈夫よ。魔法使いはルーランディア州の外に行く時以外、大体このバッグアニマルを連れてるわ」
「ここにいる動物は全員、バッグになれるんですか?」
「なれるわよ。リュックだったり、ポーチだったり、形はそれぞれだけどね」
「おすすめとかあります?」
「あなた遠慮ってものを知らないわね……」
おばさんは嫌々ながらも案内してくれる。
「人気があるのは小動物系ね。食費も少なく済むし、肩に乗せたりもできるから。あとは鳥系も人気ね。引っ越しの時とか鳥系バッグアニマルの中に荷物詰めて、空に飛ばして予め引っ越し先に運べたりするから。これらはみんな高めよ」
安くて金貨3~4枚、真ん中が10枚、高いと20枚を超える。
俺の手持ちはいま金貨11枚だから、5~6枚で済むといいかな。
「ん?」
俺はある動物に目が行った。
カラスだ。カァー、カァーとか細い声で鳴いている。まだ小さいカラスだ。
人気のはずの鳥系バッグアニマル。なのに値段がたったの金貨2枚。
「これは、なんでこんなに安いんですか?」
「ああ、それは血統が悪いからね」
「血統?」
「バッグアニマルは父親と母親が優秀だと子も優秀になることが多い。バッグアニマルの優秀さは気性・容量・種族から決まる。その子は種類こそ人気な鳥系だけど、母親は容量が狭くて、父親は気性が荒かった」
「……だから子供も容量狭くて気性も荒くなる。そういうわけか」
「そうよ。売っといてなんだけどおすすめしないわ。ビギナーなら、安定した能力を持つ猫系や犬系がおすすめ――」
「いいや、俺こいつにするよ」
おばさんは、せっかく親切に教えてあげたのにーってな顔をする。
「血統って言葉は大嫌いなんだ。家族が不出来だからって、コイツもそうなると決めつけたくはない」
俺が言うと、背後で誰かが鼻を鳴らした。
「……魔法使いの言葉とは思えないな」
振り向いて声の主を見る。
紫の長髪、高そうな服を着た同世代の少年だ。見るからに貴族って感じだな。
「親が優秀なら子も優秀、親がゴミなら子もゴミだ。生物は血のつながりから逃れることはできない」
「……なんだと?」
子供の台詞だ。聞き流すべきだとはわかっているが――
「血統と運命は同じさ。血で全ては決まる。私の父も母も高名な魔法使い。だから私も素晴らしい魔法使いになると血で、運命で決まっているのだ」
反論しようとも思ったが、大人の自制が働いた。ここで肩を震わせて反論したところで、説得できるような相手には思わない。凝り固まった思想が今の発言から見えた。
「婦人。私はこの素晴らしき血統の猫を頂こう。気高く伸びた体毛も気に入った。……少々肥満気味なのが気になるがな」
少年が買おうとしているのは太めの茶毛猫。値段はなんと金貨32枚。
「あいよ。いま会計してあげる。アンタはこの子の後ね」
「はーい」
少年は猫を買い、出て行った。少年が会計を済ませた後で、俺はカラスを買った。
カラスはケースから出してやると肩に乗った。つんつんと、優しくほっぺをつついてくる。ほれ見ろ、気性が荒いなんて嘘じゃないか。
「頭を撫でるとバッグに変わるよ」
おばさんの助言を受け、カラスの頭を撫でるとカラスは黒毛のショルダーバッグに変わった。
「うーん、容量はアタッシュケース2個分ぐらいかねー」
おばさんはショルダーバッグに手を突っ込み、そう言った。
俺は制服を紙袋から出して、中に入れていく。バッグの口に荷物の端を入れるだけで吸い込んでくれる。アタッシュケースも入れて、俺の荷物はバッグアニマルだけになった。
「名前はどうする?」
「……名前かぁ」
数秒考え、
「うん、クロウリーにしよう」
なんとなく、パッと出た名前だった。
思い返してみれば昔、兄貴が飼っていたハトの名前がクロウリーだったっけな。
「これからよろしくな、クロウリー」
クロウリーはカァーッと鳴いて返事した。