第八話 地上へ
「連携奥儀――竜墜天撃!!」
私たちの最高の一撃が、修行の成果が、戦ってきたすべてを吸収した拳が!
ドラゴンの頭部に炸裂した!
「グゥォ……」
ドラゴンの頭が地面に叩きつけられる。
その衝撃だけで地面が砕け、隆起した。
砂埃が晴れるが、ドラゴンが動き出す気配はない。
「やったか……?」
「なんでフラグ建てたの?」
「特級フラグ建築士認定試験の合格者だもん、私」
「グゥ……」
ドラゴンの体がピクリと動き、瞼がゆっくりと持ち上げられた。
『見事だ。強き人間たちよ。我がこうも簡単にやられるとはな……。ちょっと悲しい……じゃなくて、誇るがよい。我は仮初めの生を与えられただけの存在だが、強さは闇竜王をも凌ぐ。つまり、お前たちはそれ以上の存在ということだ』
ドラゴンが【念話】で語りかけてくる。
『我はもうじきドロップアイテムに変わってしまうだろう。だが、それまでまだ少し時間がある。餞別として我の加護をくれてやろう』
私はその言葉に目を丸くした。
竜王が加護を授けられるという話は有名だったけど(桃太郎みたいなこの世界のおとぎ話でそういうシーンがあるため)、まさか私たちがその立場になるなんて思ってもいなかった。
『竜王クラスの竜になれば、加護を授けることができる。だが、残念なことに加護を授けられるのは一人だけだ。我が正式な竜王であれば、お前たち二人に加護を授けることもできたのだが……』
ドラゴンが言いよどむ。
やっぱこの人、すごくいい人だ。あ、いい竜か。
「その加護なんだけど、シズちゃんに授けてくれないかな?」
「いいの? イリスちゃんだって授かる権利はあるよ?」
「加護を授かったら、魔法が使えるようになるんでしょ?」
『そうだ。我の加護だと、闇魔法が使えるようになる。それから闇属性に対する耐性スキルも獲得できるな。と、まあ、こんなところだ。加護を授けるのは今回が初だから、これ以上は我でもわからん』
「私の動力源であるコアは魔力で動いてるから、その魔力を使わないと発動できない魔法は私とは相性が悪い。それに、私はもう精霊魔法があるからね。ゴーレムだからもともと魔法や物理攻撃に耐性があるし、加護はシズちゃんに譲るよ」
「じゃあ、私が加護をもらうよ。ホントにいいんだね?」
「どうぞどうぞ」
というわけで、加護を授かるのは私になった。
物語だと加護を授かる時に大掛かりな儀式をしていたんだけど、実際はどうなんだろう?
と、思っていたら。
『……終わったぞ』
私の体が一瞬光ったかと思ったら、ドラゴンからそう告げられた。
「最速レジエ〇キにスカーフ巻いたくらい早かったけど、もう儀式終わったの?」
加護を授かったという実感があまり湧かなかったけど、イリスちゃんが私を【鑑定】してくれた。
「スキル欄に【超級闇属性魔法】と【闇属性耐性】っていうのが増えてるよ。やったね、シズちゃん。これでシズちゃんもちゃんとした魔法が使えるようになったんだよ」
「そう。うれしいよ」
仲間から外れスキル持ちとまで言われた私が、とうとう魔法を使えるようになった。
その事実に喜びがあふれてきたけど、先にお礼を言わなくちゃいけない。
「加護、ありがとうございました!」
頭を下げた私に、ドラゴンが笑いながら話しかけてきた。
『フッ。お前たちがどこまで強くなるのか楽しみだ。……もし、ダンジョンの魔物ではなく命ある生き物に生まれ変わることができたら……もう一度会おう』
「私からも餞別を。良かったらこれ食べて。私、料理には自信あるから!」
『これは?』
私が差し出した食べ物を見て首をかしげるドラゴン。
「これはメンチカツサンドだよ! 食べてみな。飛ぶぞ。少なくとも私は飛んだよ」
イリスちゃんが早口でまくし立てた。
サクサクに揚げたメンチカツを、レタスと一緒にパンにはさんでソースをかけた。
ただそれだけの料理だけど、味は絶品。
一度食べたら病みつきになること間違いなしと胸を張って言える逸品だ。
私、貧乳だから張れる胸がないんだけれども。
『ふむ。いい匂いだな。いただこう』
ドラゴンが口を開ける。
私がメンチカツサンドを放り込んだら、すぐにモグモグしだした。
『うむ。肉がうまいな。濃い目の味がマッチしている。このパン? とかいうやつとの相性もバッチリだ』
「でしょ~。シズちゃんの料理は最高なんだよ」
『我も同意だ』
そう言ってうんうん頷くドラゴンの体が、ちょっとずつ光の粒子に変わりだした。
『む? そろそろ限界のようだな。熱い戦いにうまい飯。お前たちと出会えたことに感謝だ』
「私たちもだよ。さっきのまたいつか会おうという約束守ってね。絶対だよ!」
『ああ。再会した暁には、たくさん飯をたかるとしよう』
「その時にはもっとおいしい料理作れるようになってるから!」
「今よりも何倍も強くなってるぜ!」
『フッ。そうか。では、さらばだ。楽しみにしておく』
そう言い残して、ドラゴンは完全に消え去った。
さっきまでドラゴンがいた場所には、大きな牙と爪、たくさんの鱗、それから特大サイズの魔石が落ちていた。
魔石は魔物が一定の確率で体内に保有している石だ。
その中には魔力がため込まれており、いろいろな使い方ができる。
これだけ大きければ、使い道はいくらでもあるだろう。
「さ、行こうか。私たちの目的は地上に出ることだからね」
「うん。彼とはまたどこかで会えるといいね」
「だね」
ドロップアイテムを拾った私たちは、部屋の奥にある魔法陣に乗ってから起動した。
すぐに私たちを光が包み、気がついた時には再び洞窟の中に戻っていた。
が、景色が違う。
奈落ほど禍々しいオーラは感じないし、奈落の下層に当たり前のように生えていたレアな鉱石がここには一つもない。
つまり――
「奈落から脱出できたんだね」
「そういうこと。ここはもう奈落じゃなくて、ディアブル大迷宮だよ。私一人だと五年かけても奈落からは脱出できなかった。まあ、自由な生活を満喫してたのもあるけど……。だから、シズちゃんに出会えてよかったよ。私一人だったら、たぶんあと十年以上は自由な生活し続けてたはずだからさ」
「ん。私もイリスちゃんに出会えてよかった。自分の力に気づけず、絶望して死ぬところだったから。それにイリスちゃんと一緒に暮らしてる今の生活楽しいし」
たぶん、今の私顔真っ赤にしてる。
だからイリスちゃんから顔を逸らす。
いじられそうだから。
「え? 何? 全然聞こえなかった。私さ~、最近耳が遠いんだよね~。パーツが故障してるのかな? だから、大きい声でもう一回言ってよ」
イリスちゃんが私の肩に腕を回して、もう片方の手で私のほっぺをつつきながらそう言ってきた。
前言撤回。顔を逸らしてもいじられる運命には変わりないようです。
「そんなことよりも、ボスを倒すよ! あれを倒せば外に出られるんだから!」
私は前方にいる魔物を指さす。
奈落の最下層にあった転移の魔法陣を使うと、ディアブル大迷宮の百階層にワープできる。
そして、ディアブル大迷宮の百階層はダンジョンボスの間しかない。
つまり、私が指さす先にいるでっかいパンダが、ディアブル大迷宮で一番強いボスということになる。
「種族名はカニバリズムパンダで」
「恐!? 見た目は育ちすぎたシャン〇ャンなのに!」
人肉の食べ過ぎで五メートルくらいまで成長しちゃってるよ!
「レベルは100。で、ランクはA+」
「あれ? 思ったよりも強くないね」
「私たちがいたのは“奈落”だからね。例えるなら、ク〇パをボコしてからカメ〇クにたかりに行くようなもんだよ」
ク〇パを倒したマ〇オが、「お前んとこのボス倒したから、死にたくなければお前が乗ってるBMWよこせよ。俺は優しいから三秒だけ待ってやるよ」とか言ってカメ〇クに迫るのか。
「……そんなマ〇オは嫌だ。小学生が泣いちゃうよ」
私たちが部屋の奥に進むと、侵入者認定をした人喰いシャン〇ャ……殺されそうだからやめとこ。
人喰いパンダが雄たけびを上げながら迫ってきた。
やだ。超怖い。
「闇魔法を使ってみたいから、私一人で戦わせて」
「いいよ。私が戦わないといけないほど強くないし」
加護のおかげか、闇魔法の使い方のマニュアルは勝手に脳みそにインストールされている。
「ダークバインド!」
私は地面に手をつく。
地面からひょろ長い闇の腕が何本も出てきて、私のすぐ目の前にまで迫ったパンダを拘束した。
「グウェェェ!」
パンダが暴れて闇の腕を引き裂こうとする。
が、新たな闇の腕が次から次に生えてどんどん拘束していく。
あっという間に闇団子が出来上がった。
「ダークネスデスサイズ!」
私は次の魔法を唱える。
闇でできた巨大な死神の鎌が現れた。
私はそれを持って、空中に跳ぶ。
「デススラッシュ!」
空中で一回転し、パンダの頭を闇ごと切り裂いた。
「ウェ……」
断末魔が聞こえ、パンダが光になって消えていく。
「お疲れ。闇魔法を使いこなしたシズちゃんカッコ良かったよ」
「えへへ。それほどでもあるかな~」
ドロップアイテムの巨大な毛皮を仕舞った私たちは、部屋の最奥にあった一際巨大な魔法陣に乗った。
この魔法陣はダンジョンの外につながっている。
ダンジョンの入り口付近のどこかにランダムでワープされるから、これでとうとう長かったダンジョン生活は終わりだ。
いろいろあったけど、こうして振り返るととても楽しかった。
……しんみりするのはやめよう。
これからはもっと楽しくなるんだから。
「ダンジョンボスは倒した。ダンジョンボス撃破報酬の宝箱もちゃんと回収した。やり残したことはないね?」
「うん!」
「じゃあ、出ようか」
「地上に帰ったら……たくさん一緒に冒険しようね」
「そうだね。じゃ、起動!」
私たちを光が包んでいく。
こうして私たちは、ディアブル大迷宮だけでなく、人類未踏の奈落も踏破した。
イリスちゃんについて補足
通常時は美少女で、強敵との戦闘中や精霊魔法を使う時はサイボーグみたいな感じになります。
知名度のある人気キャラでいうと、ワンパ〇マンのジェ〇ス君みたいな外見になります。




