第七話 奈落の主
私たちの視線の先で鎮座しているのは、五メートルを優に超える巨大な漆黒の西洋竜だ。
全身を覆う純黒の鱗。筋肉質で強靭な足の先には禍々しい爪が生えている。
人間なんて一瞬で細切れにされちゃいそうなほど鋭い。
背中からは二対四枚の翼が生えている。
「あれはSランクの魔物、アークナイトドラゴンだよ。レベルは121」
「え、Sランク、それも高レベル……」
ここまで来る道中、Sランクの魔物は一匹だけ倒した。
けど、あれはレベルが低かったから大したことなかった。
そこらのAランクモンスターのほうがよっぽど強かったよ。
だけど、今回は違う。
正真正銘、Sランクにふさわしい本物の化け物だ。
「転移の魔法陣は一方通行だから、戻ることはできない。あいつを倒してここを切り抜けるしかないよ」
「……そうだね。私頑張る。最強の冒険者を目指すんだから、ここで負けるわけにはいかないよ!」
「じゃ、フォーメーションAで頑張ろうね」
その時、ドラゴンがおもむろに頭を持ち上げてこちらを見た。
そして、口を開いた。
うわ、鋭い牙がびっしり生えてるよ……。
噛まれたら一瞬でミンチになれそう。
『よく来たな、強き人間よ』
うわ!? ドラゴンが喋った!?
……いや、頭の中に直接声が響いてくるこの感じは【念話】スキルだ。
声を出さずとも、言葉を伝えられるという。
『ここまでやって来た人間はお前たちが初めてだ』
「ど、どうも。というか、てっきり矮小な人間とか言われると思ったんだけど……」
ラノベとかのドラゴンって、人間は下等種族とか思ってることがほとんどじゃん?
『確かに人間は弱き種族だ。だが、奈落の最深部であるここまでやって来れたのだ。お前たちが弱いわけがあるまい?』
「一応聞きますが、戦わずに通してもらえませんかね?」
このドラゴン、コミュ力がかなり高い。
向こうが戦う気がないなら、無理に争う必要はない。
だから、一応聞いてみたけど――
『それは無理な話だ。我は迷宮の意思によって生み出された存在。ここを守るのが我に与えられた役割だ。ならば、その役割を放棄するわけにもいくまい?』
「ですよね」
やはり戦わないといけないみたいだ。
『さあ、どこからでもかかってくるがよい。我が本気で相手してやろう』
ドラゴンが戦闘態勢に入った。
「では、お言葉に甘えて雷撃砲!」
イリスちゃんが砲撃を放つ。
無数の雷の砲弾がドラゴンに迫る。
だが、ドラゴンの一手によってすべてかき消されてしまった。
何あの闇? ドラゴンの足元から出てきたと思ったら、軽く払うだけで砲弾をすべてかき消したんだけど!?
「雷撃砲!」
もう一度、砲弾が放たれる。
『【ファイアーブレス】!』
だが、灼熱の息吹が砲弾を呑み込んだ。
「低火力の攻撃じゃ通じないか」
イリスちゃんが横に跳ぶ。
直後、イリスちゃんの真横を炎が突き抜けていく。
『かなり素早いな。だが、これならどうだ?』
ドラゴンが首をブンブン動かす。
首の動きに合わせて、灼熱の息吹の軌道が変わる。
「追尾されるのは怖いねぇ」
変声機能で黄〇ルの声真似してる場合じゃないでしょ、イリスちゃん! ちょっとだけ和んだけれども。
まだ被弾していないとはいえ、かなりきつそう。
だから――
「私の存在を忘れてるよ!」
『ム!?』
イリスちゃんが囮になっている間に死角からドラゴンに接近した私は、彼の頭の上に飛び乗った。
「水流撃!」
ドラゴンの上顎に渾身のパンチを叩き込む。
痛っ!? どんだけ鱗固いの!?
殴るだけで私の拳にもダメージ入ったんだけど!
強制的に閉じられたドラゴンの口。
行き場を失った炎が、口内で爆発を起こす。
「~~~~~~~ッ!?」
ドラゴンが声にならない悲鳴を上げた。
ドラゴンが吹いた炎は、スキルの力で生み出されたものだ。
このドラゴンに炎を生み出す器官があるわけではない。
当然Sランクのドラゴンのスキルによって生み出された炎が、弱いわけがない。
行き場を失った炎。
口外に出られないのであれば、代わりとなる行き先は一つしかない。
超火力の炎が、勢い良くドラゴンの気管や消化管へ流れ込んだ。
高位の魔物になれば、属性に対する耐性がつくスキルを所持していることが多い。
このドラゴンも属性耐性を何個か持っているけど、炎に対する耐性はもっていない(イリスちゃん情報)。
体内を内側から焼かれたドラゴンは、凄まじい痛みを味わっただろう。
かなりのダメージになったはずだ。
「これがホントの口内炎ってね」
「うまい! 座布団一枚!」
なんなら、逆流性食道炎とか肺炎とか胃炎にもなってる。
「シズちゃんが作ってくれたチャンスを無駄にはしないよ」
イリスちゃんが両手を合わせて構える。
掌の先にエネルギーが集まり――
「ハイボルテージカノン!」
炎と雷の合わさった、極太のビームが放たれた。
「超級精霊魔法に匹敵する威力の攻撃だよ。バフもあるから、いくらSランクのドラゴンといえども大ダメージは免れないぜ!」
口内炎(物理)してる最中のドラゴンに、極太のビームが直撃した。
「ギュァァァァアアアアアアアアァァァァアアア!?」
衝撃で砂埃が舞う。
その向こう側から、ドラゴンの絶叫が聞こえてくる。
「畳みかけるよ!」
「うん!」
腐ってもSランクドラゴンだ。
大ダメージは負えども、この程度でやられるほど脆くはない。
だから、私たちは砂埃の中へ突貫した。
大ダメージを負って怯んでいる今が、最大のチャンスだ。
『讃えよう! やはりお前たちは強い!』
砂埃の中から【念話】が聞こえてきた。
ダメージを一切感じさせない威厳のある声だった。
それとともに、空を切り裂いてドラゴンの尾が迫る。
闇のコーティング付きだ。
「よっと!」
「うわっと!」
鞭のように超速で迫ったそれを、私たちはギリギリのところでしゃがんで回避した。
スイングの余波で砂埃が晴れる。
『まだだ!』
ドラゴンがスイングの回転エネルギーを利用して、強靭な腕で薙ぎ払いを繰り出す。
腕の先を闇で覆ったようで、リーチが倍以上になっていた。
「さすが最強種。強いね」
私たちはジャンプしてそれを躱す。
「だけど――」
躱しざまにドラゴンの腕を蹴ることで、さらに上に跳ぶ。
「雷撃砲!」
イリスちゃんの放った砲撃が、ドラゴンの両目にヒット!
『ぐ……!』
それによってわずかな隙ができる。
「私たちのほうが強い!」
「いくぜ!」
「うん!」
私たちは空中で態勢を整える。
「「連携奥儀――」」
繰り出すのは鍛え続けた己の拳!
イリスちゃんもこぶしを握り締めた。
私たちはこの拳で夢を掴んで見せる!
「「――竜墜天撃!」」
私たちの最高の一撃が、修行の成果が、戦ってきたすべてを吸収した拳が!
ドラゴンの頭部に炸裂した!
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