第四話 ラビットシチュー
今回はグルメ回です。シズちゃんが無双するのは次回から。
イリスちゃんの目の前に、ドロップアイテムの肉塊が落ちていた。
「イリスちゃん強すぎ」
「五年もここに住んでるからね」
イリスちゃんが肉塊を【アイテムボックス】に仕舞ってから戻ってきた。
「さ、帰ろうか」
「エクスポーションのお礼もあるし、夜ご飯は私が作るよ。おいしさには自信があるもん。前世でいっぱい作ってたからさ」
「シズちゃんみたいなかわいい子に手料理を作ってもらえてうれしいよ」
「えへへ。料理好きのプライドにかけて、絶対においしいものを作ってあげるから!」
「期待してるよ。実は私、まともなご飯一度も食べたことなかったから」
「どういうこと?」
「私ってゴーレムだから食事は必要ないんだけど、たまには何か食べたくなるじゃん? だけど、ここにはまともな食材や調味料が一つもないわけで。大毛玉ウサギみたいな魔物から手に入った肉を焼いて食べるのがせいぜいだったんだよね。だから楽しみにしてるよ」
イリスちゃんの家に戻ってきた私は、さっそく料理に取り掛かった。
まともな料理を食べたことがないという彼女のためにも、とびきりおいしい料理を作ってあげなくちゃ!
「ウサギ肉を使った料理……。見た感じお肉がちょっと固そうだし、ビーフシチューならぬラビットシチューにしよっと」
作る料理を決めた私は、先に野菜や調味料類を【通販】で買ってから、さっそく調理にとりかかった。
【通販】の強みは、お金さえあればいろいろな地球産の商品を買えることだ。
それも地球の価格で。
使い方を間違えれば、経済破壊を簡単に引き起こせるほどだ。
だから、これまで人前で使ったことはない。
まずは野菜の下ごしらえから。
じゃがいもは皮をむいてから一口大に。
ブロッコリーは小房に分ける。
玉ねぎはくし切りに。
いつもだったらニンジンは乱切りにするけど、今回は見栄え重視の切り方をしてみた。
「かわいいね、それ」
イリスちゃんが、私の切ったニンジンを覗き込みながら話しかけてきた。
まな板の上には、ハート形にカットされたニンジンが乗っている。
「ニンジンは崩れにくいから、こんな感じで切ると料理の見栄えが良くなるよ」
「なるほど。料理って面白いね」
このままだと火を通すのも一苦労だけど、そこは大丈夫!
ラップして電子レンジで三、四分チンすれば問題ない。
ちなみに電子レンジは、元家主の転生者(この人も一応日本人らしい)が作ったものを使わせてもらった。
【通販】で買うこともできるけど(ただし私の財産がかなり吹き飛ぶ)、大きな出費をしなくて済んだから良かったよ。
「これで下準備は終わりかな」
鍋にバターを入れて熱し、一口大に切っておいたウサギ肉を投入。
しっかりと火が通るまで炒めていく。
ウサギ肉の香ばしい香りとバターの芳醇な香りが混ざって、濃厚な匂いが部屋の中を漂う。
味を想像したのか、イリスちゃんがそわそわしだした。
お肉に完全に火が通ったら、玉ねぎとニンジンをそこに投入。
玉ねぎに完全に火が通るまで炒めていく。
玉ねぎがしんなりとしたら、水と赤ワインを加えて沸騰するまで待つ。
沸騰したらアクを取ってから、フタをして一時間半ほど煮込んでいく。
煮込み終わるまでの暇な時間を使って、私はイリスちゃんにいろいろ聞いてみた。
「イリスちゃんのギフトって何?」
「私のギフトは二つあるんだけど、そのうちの一つが【機械工学クラフト】って言って、魔力を消費して錬金する魔法だよ。知性が宿った私が自分のパーツを作れたのは、このギフトがあったからだよ。シズちゃんが目を覚ました時に作ってた腕もそうだけど、金属や魔物素材などの材料を使って自由に鍛冶・錬金できるよ」
「もう一つは?」
「【ネットサーフィン】って言って、簡単に言えば地球のインターネットにアクセスできる能力だね。ネット上にあるデータなら全部調べられるから、暇をつぶすのには困らなかったよ」
「イリスちゃんって、これまでの五年間どんな生活してたの?」
「散歩がてら魔物狩りしてレベル上げて、疲れたらマンガ読んだり小説見たりアニメ見たりしてダラダラしてたよ」
どう考えても、七割くらい後者だよね。
「自墜落な生活してたんだね」
「せめて自由な生活って言って」
「自由な生活してたんだね」
好きなラノベの話とか過去の話で盛り上がっていたら、あっという間に時間が経った。
そろそろ煮込みもいい具合になってきたから、次の段階に移るべきかな。
鍋にジャガイモ、茹でたブロッコリー、ウズラの卵(合いそうだから入れてみた)、デミグラスソース、トマトケチャップを入れて、弱火で煮込んでいく。
この時、フタをせずに時々かき混ぜるのがポイントだ。
二十分も煮込んでいれば、ジャガイモも充分に柔らかくなった。
「これがデミグラスの匂いか」
席について待機しているイリスちゃんのもとに、ラビットシチュー、パン、サラダを運ぶ。
「シズちゃん、すごくおいしそうだよ!」
いつもは(まだ数時間の付き合いだけど)私よりも背が高いのもあってクールなお姉さんって感じなのに、子供みたいにはしゃぐイリスちゃんがなんだか可愛い。
ギャップ萌えってやつかな?
私の分もテーブルに運んだら、いただきますの挨拶をしてすぐに食べ始めた。
「おいしい! すっごくおいしいよ! シズちゃんの料理最高!」
さっきからイリスちゃんはずっとこんな感じだ。
初めての料理で感動したらしい。
幸せそうな顔で、何度もおいしいおいしいと連呼している。
……こんな風に私の料理を喜んでもらえたのは何年ぶりだろ?
うれしさのあまり涙が出そうになってきたので、考えるのをやめて私もラビットシチューを食べることにした。
主張の強い濃厚な香りを放つシチューをすくって食べる。
味にコクがあり、それでいてクドくない。
濃厚な旨みが口の中に広がっていく。
これならいくらでも食べられそう。
次は野菜を食べてみる。
噛むと口の中でほろりととけるほど柔らかい。
ルーの濃厚な味にも負けない、野菜の旨みがしっかりと感じられた。
うん。煮込みはバッチリ大成功。
「シズちゃん、肉がすっごくおいしいよ! 私が焼いて食べた時は固いだけだった大毛玉ウサギの肉がこんなにもおいしくなるなんて……!」
イリスちゃんが絶賛するウサギ肉を口に入れる。
肉は溶けるように柔らかく口の中に広がり、その旨みを余すことなく伝えてくる。
ルーにプロデュースされたお肉の味は、まさに絶品だった。
「ん~、パンにも合うね。最高」
「パンをルーにつけて肉や野菜と一緒に食べると絶品だよね」
私たちは、ラビットシチューを余すことなく堪能するのだった。
「ふぅ。ごちそうさまでした」
口の周りに着いたルーをペロリとなめとったイリスちゃん。
「シズちゃんの手料理最高だったよ」
「私も料理を絶賛してもらえてうれしかったよ。これからもおいしい料理をいっぱい作ってあげるからね。イリスちゃんの喜ぶ顔がもっと見たいから」
「それって告白?」
「ち、違うよ! イリスちゃんの幸せそうな表情が可愛かったからもっと見たくなっただけだよ! からかわないで!」
「ツンデレかな?」
私のほっぺをツンツン触ってくるイリスちゃん。
私はむ~と頬を膨らませるのだった。
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