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第三十七話 基本

 シズが目を開く。

 視界の先には、月光が輝く夜の空が広がっていた。

 螺旋龍蒼砲(らせんりゅうそうほう)によって、ダンジョンの壁と天井の一部が消し飛んだみたいだ。

 そこから美しい満月が顔をのぞかせていた。



「イリスちゃんは……」


 シズが周りを見渡す。

 すぐに彼女の横で倒れていたイリスに気づいた。


「イリスちゃん!」


 シズが慌ててイリスを抱き上げると、


「へへっ。私たちの愛が勝ったみたいだね」


「よかった……。イリスちゃんが無事で」


 シズがギュっとイリスを抱きしめた。


「動力源の魔力がすっからかんで動けないから、ヘルプよろ」


「わかったよ」



 シズがイリスを抱えて、ヴァイスとウィルのもとに向かう。

 二人は消し飛んだ壁の近くで倒れていた。

 兄弟合体が解除された二人の体が、月光に照らされている。



「やっぱ……お前たちは強ェな……」


「本気で攻撃したのに勝てなかった……」


 二人はシズを見るなり、そう言った。

 それに対してシズは、


「二人も強かったよ。ギリギリだったもん」


「ハッ。そうか……」


 シズが二人の傍に腰を下ろした。

 それから話しかける。


「一つ聞くけど……なんで二人は復讐を選んだの?」


 二人は少し間をおいて、



「……なんでだろうな……」


「……わからない」


 そう言った。


「二人は村人たちからひどい扱いをされた。それも十年以上。それでも『死』を選ばなかったのはなぜ? 逃げるのは簡単なのに、それでも生きることを選んだ理由は?」


 ヴァイスとウィルは、考えることなく即答した。



「「ウィル(兄ちゃん)がいたから」」



 そして、ハッとしたような顔になった。


「……そうだ。どんなにひどい目に合おうとつらい思いをしようと、ウィルがいるだけで俺はそれ以上に幸せだったんだ……」


「僕もだよ、兄ちゃん。兄ちゃんがいたから、生きることを諦めなかった。幸せだった」


「はは……。そんな大事なことに気づけないから……俺たちは邪神の思うようにされたってわけか……」


 ヴァイスとウィルの瞳から(しずく)(こぼ)れ落ちた。


「もしも来世があるんだったら……もう一度ウィルとともにありたい……」


「兄ちゃん……」


「ハッ。あるわけねェか。転生なんておとぎ話の中だけ――」


「あるよ! 絶対に!」


「……シズは優しいな」


 強く否定したシズ。

 ヴァイスは、シズがその持ち前の優しさから言ってくれてるのだと思ったが、


「だって、私は転生したもん。別の世界で死んで、そしてこの世界でシズとして生まれた。正確には、八歳くらいの時に前世の記憶を思い出しただけなんだけど。だから、ヴァイスとウィル君も絶対にまた一緒になれるよ!」



 シズの言葉だからこそ説得力があって。

 ヴァイスがわずかに目を見開いた。


「……そうか」



 シズが少し考えた後、口を開いた。


「ヴァイスとウィル君は十年以上まともなもの食べれてないんでしょ? だから、これあげる」


 シズが【収納】の中からサンドイッチを取り出した。


「これは?」


「私の作った料理だよ。私は料理が得意だから。ウィル君と一緒に食べて」


 サンドイッチを食べやすい大きさにちぎって、二人に渡すシズ。



「……ウメェな。過去最高レベルだ」


「おいしいよ、お姉さん」


「でしょ。シズちゃんの手料理は最高だからね」


「イリスちゃん、無理して喋らなくていいんだよ」


「大丈夫だよ。少し魔力が回復してきたからさ。喋るくらいは問題ないよ」



 その時、さっきまで気絶していたフレイが突然シズに話しかけた。


「シズ……。お前はなんでそこまで強くなったんだよ?」


「私が作った料理を食べるとバフがつくギフトのおかげもあるけど、一番はイリスちゃんに出会えたからだよ。だから……追放してくれてありがと」



 それを聞いたフレイが、土下座した。


「頼む、シズ! 俺たちのパーティーに戻って来てくれ……! 追放した俺たちが悪かった! ()()()()()()()()()()()あれば俺たちはSランクになれるんだ。……それにお前の許しを得ないと、俺たちはスキルが使えないんだ。その男たちに呪いをかけられたから……」


 ニトロとグレンも、フレイと同じくシズに土下座した。


「すまない……! 俺が悪かった」


「シズが戻って来てくれないと私たちは終わりなんです……」


 イリスとヴァイスとウィルが、静かにシズを見た。

 シズの返答は――



「ごめんね。もう戻る気はないよ。私がスカーレットに殺されそうになった時、みんなは止めようとしてくれなかった。それに、みんながほしいのは私じゃなくて、私のギフトとスキルだってわかったから……。だから、ごめん」


「勘違いしないでくれ! 俺たちはシズが――」


 イライラした様子のイリスが、フレイの言葉を遮った。


「しつこい! アンタたちにシズちゃんを渡す気はないよ。見えないものを見すぎて、ホントに大事なものが見えなくなってしまったアンタたちにはね」


「私はイリスちゃんと一緒に行くよ。……さよなら」


 なおも食い下がろうとするフレイに、シズは背を向けた。


 ヴァイスがそんなシズに向かって、


「やっぱりお前は優しさの塊みたいなやつだな。俺たちに同情してくれて、最後にはウメェ飯まで食わせてくれて……。そいつらにだって、もっと怒ってもいいんだぜ。それだけのことをされたんだからよ」


 ヴァイスの言葉を聞いて、シズが小さく笑った。



「基本は大事だからね。料理の基本は、“優しさ”だから」



「ハッ、そうか。お前らしいな」


 ヴァイスが笑ってから、


「シズ、人生をもっと楽しめよ。それとこれは俺からのアドバイスだが、もう少し他人に厳しくすることも大事だぜ。その優しさを捨てない範囲で、だがな」


「お姉さんたちは……僕たちみたいにならないでね」


「お前たちに出会えてよかったぜ。大事なことに気づかせてくれてありがとよ……」




 光の粒子となって消えていくヴァイスとウィル。

 鮮血薔薇(ブラッディローズ)が輝きを失って、腐って消えた。



「彼らにいい来世がありますように」


「今度は幸せになってほしいね」



 消えゆく二人に手を合わせたシズとイリス。

 彼女たちは、ダンジョンコアを破壊した。

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タイトル「実家を追放されてから早三年。気がついたら私は最強の吸血鬼になっていた。あと、気がついたら百合ハーレムができてた」

青文字をクリックすると作品に飛べるので、ぜひ読んでみてください! 面白いですよ!
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