第三十五話 化け物兄弟
「化け物と恐れられ、蔑まれ、虐げられてきた俺たち兄弟の――いや、“化け物兄弟”の力を見せてやる」
「覚悟してね、お姉さんたち」
イリスちゃんが、ヴァイスとウィル君のコンビに対抗して一言。
「ヴァイスとウィルっちが化け物兄弟なら、私たちは変態姉妹とでも名乗っとく?」
「嫌だよ。変に対抗意識燃やさなくていいんだよ?」
ヴァイスとウィル君から、魔力が一気にあふれ出す。
【身体強化】か。
出力はジョーノウチのギルマス並み……いや、それ以上だ。
「二人ともS+ランク150Lv。種族は魔人だって」
「ほう。イリスは【鑑定】持ちか。だが、俺たちのスキルまでは見えないだろ?」
「うん。二人とも【鑑定偽装】持ってるんだね」
「正解だ」
相手は強敵。
それも元人間だ。
身体スペックはもちろん、頭で考えて攻撃してくる。
戦いたくないとか、そんなことを考えていたら負ける。
本気で勝ちにいくしかないんだ。
「さて、始めるか」
「だね、兄ちゃん」
ヴァイスが床を殴る。
ウィル君はその場で腕を横なぎに振るった。
「【次元断】!」
私たちはとっさにしゃがんだ。
直後、私たちの真上の空間が真っ二つになった。
「ウィル君が使えるのは、間合いを無視して直接空間を操作して攻撃する【空間魔法】か」
「正解だよ、お姉さん。ご褒美にもう一発あげるね」
「気持ちだけ受け取っとくよ!」
今度は縦に飛んできた【次元断】を横に飛んで躱す。
魔力消費はそこそこ多いだろうけど、間合いの外から一方的に撃たれるのはきつい。
ウィル君が乱雑に腕を振るうだけで、私たちは近づくのすら困難になる。
「ナイスだ、ウィル! 次は俺の番だ!」
「兄ちゃん、頑張って!」
「おう、任せとけ! 槍タケノコラッシュ!」
刹那、足元から音がした。
私たちが飛び退いた瞬間、槍みたいに鋭いタケノコが床を突き破って昇った。
それもたくさん。
タケノコに突き刺されて死亡とかいう死因だけは嫌だね。
だから全部躱す。
「【次元断】!」
床に着地する瞬間を狙った一撃。
躱すのはちょっときつそう。
ここはガードに徹して被ダメージを最小限に――
「シズちゃん、もっと相棒に頼ってもいいんだよ」
イリスちゃんが私の前に割り込んできて、【次元断】を正面から受け止めた。
「ふぅ。やっぱり思った通り」
作り物の皮膚が消えて、機械ボディが露になったイリスちゃん。
次元断を喰らった彼女のボディには、一切の傷がついていなかった。
「まさかイリスも人じゃなかったとはな。面白れェ」
「カッコいいね、お姉さん」
「ありがとね、ウィルっち。【次元断】は発動の速さ、射程距離、攻撃範囲がずば抜けている。いわゆるぶっ壊れなわけだけど、弱点が一つだけある」
「弱点?」
ウィル君が可愛らしく首を傾げた。
「それは、攻撃力が低いことだよ。まあ、S+ランク150Lvのウィル君が使えばそのデメリットはないようなもんだけど、それは私以外に限っての話だよ。私はゴーレムだから耐久力が高い。おまけに耐性も充実している。次元断くらいじゃ、私のボディは断てないぜ」
イリスちゃんが私のほうに向きなおって。
「だから、ウィルっちの相手は私に任せて。シズちゃんはヴァイスの相手をお願いね」
私は力強く頷いた。
相棒が任せてって言ってるんだ。イリスちゃんの強さは、誰よりも私が知ってる。
そんなイリスちゃんに頼まれたんだ。
「タイマンか。いいぜ」
「本気でいくよ」
だから、私はヴァイスを見据えた。
相棒の期待に応えるために!
私が駆け出すのと、ヴァイスが次の一手を出してくるのは同時だった。
「出てこい! リュウクイソウ!」
床を突き破って、ヒトクイソウとそっくりな植物が現れる。
「こいつはお前たちが庭園エリアで戦っただろうヒトクイソウの最終進化形態だ! 竜すらも食い殺すぜ!」
ガキンッ! と牙を打ち鳴らしたリュウクイソウが、凄まじい勢いで噛みついてくる。
次々と降ってくる頭。
噛み砕かれて抉り取られる床。
響く轟音。
だけど、私には当たらない。
私のほうが速いから。
「竜より強いお前には、リュウクイソウは敵にもならねェか」
猛攻を躱した私は、リュウクイソウの茎をまとめて恐ろしく速い手刀で斬り飛ばした。
「身のこなしをみりゃわかるが、お前は体術の使い手だな?」
「うん」
「なら、正々堂々拳で戦おうぜ。体術なら俺も多少の自信はあるからな」
ヴァイスが構えをとる。
私は正面から飛び込む。
お互いがお互いの間合いに入った瞬間、殴り合いの激戦が始まった。
「オラオラオラオラオラオラァ!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!」
ジョ〇ョ味のある叫び声をあげながら、ヴァイスが連撃を繰り出してくる。
つい私もジョ〇ョ味のある叫び声をあげながら、ヴァイスの攻撃をいなし、躱し、受け流していく。
お互いに蹴りも混ぜた動きで、一進一退の攻防を繰り返す!
「ごッ……!」
カウンターで放った私のパンチが、ヴァイスの顎に直撃!
最初は互角だったけど、ちょっとずつ私のほうが有利になってきだした。
「だんだんヴァイスの動きが分かってきたよ」
「成長が早ェなァ」
「これまで武術一筋でやってきたからね」
ヴァイスの動きを先読みし、攻撃を受け流して隙を作り、反撃する。
ちょっとずつ。
ちょっとずつダメージを稼いでいく。
「どうよ。俺の筋肉は?」
「硬すぎ。全然ダメージを稼げないんだけど」
「だろ? 俺には【筋肉の鎧】っつーパッシブスキルがあるからな」
「効果消してよ」
「パッシブだから無理だ」
「そこは気合で無理やり消していただいて」
胴体じゃほとんどダメージは与えられない。
だから、比較的防御力が低い顎などを狙っていく。
数発ヒットしたところで、ウィル君の叫び声が聞こえた。
ちらりと横を見る。
ウィル君が炎をまとった腕でイリスちゃんの攻撃を防ぎながら、三つある瞳の一つで私を見ていた。
「時間の魔眼!」
「ッ!?」
私の体が止まった。
指一本、瞼すら動かすことができない。
それはほんのわずかな一瞬だったが、この戦いではその程度の時間が戦況を左右する。
硬直が解けた瞬間――
「ぐっ……!」
「うがッ……!」
お互いのパンチが、お互いの顔に炸裂した。
なんとか反撃はできたけど、結構キツイ……!
殴られた衝撃を利用して、私は後ろに下がる。
それに合わせて後ろに下がったイリスちゃん。
ドラゴニックアームを装着した片手を前に突き出した。
「ドラゴンブレス・カノン!」
竜の咢から放たれる、竜のブレスを模した光線。
ヴァイスたちめがけて一直線に進むが、
「ウィル! 俺の傍に来い!」
「頼むよ、兄ちゃん」
「おう! ウィルには当てさせねェぜ! プラントウォール!」
ヴァイスたちの目の前の床から、大量の植物が上に伸びる。
木や謎の植物やきれいな花々まで。
それらが壁になり、ドラゴンブレス・カノンを受け止めた。
「シズちゃん、大丈夫?」
「うん。へーきへーき。ちょっと痛いけど」
「じゃあ、痛いの痛いの飛んでけ~!」
イリスちゃんが私の頭を優しくナデナデしてくれた。
「わ~い飛んでった~!」
煙が晴れ、ボロボロになった植物の壁が露になる。
「ふぅ。俺はちょっと喰らっちまったが、ウィルに当たるのは防げたぜ」
「ありがと、兄ちゃん」
崩れ落ちた壁の向こうから、二人が姿を現した。
ウィル君は無傷。
ヴァイスは体から血を流していたが、そこまでダメージを負っているようには見えない。
やっぱり硬いね。
「このまま戦ってたんじゃ、俺たちが勝つのは厳しそうだな」
「だね。お姉さんたち強い」
「ついこの間まで奴隷だった俺たちとは違って、お前らはたくさん鍛えてきたんだろ?」
ヴァイスが問いかけてきた。
「そだよ。奈落の底でビシバシ鍛えたからね」
「うん。イリスちゃんに特訓してもらって、そこから強い魔物といっぱい戦ってきたからね」
私たちのその言葉を聞いて、静かに成り行きを見守っていたフレイたちがわずかに目を見開いていた。
「そうか……。力を手にしたばかりの俺たちじゃ、“戦い”の覚悟も経験もねェからな」
「やっぱりこのままだと勝てそうにないね、兄ちゃん」
「ああ。そうみてェだな。戦えば戦うほど成長するのはあっちだ。そのうちスキルとステータスのゴリ押しは通じなくなっちまうだろうな」
ヴァイスとウィル君が、お互いの顔を見た。
「俺たちにも成すべきことがある。だから……アレいくぞ」
「わかった。覚悟しなよ、お姉さんたち。僕と兄ちゃんはもっと強くなるから」
「ああ! 見せてやろうぜ! 俺たち兄弟の絆を!」
ヴァイスとウィル君が、同時に深く息を吸った。
そして、言葉を紡ぐ!
「「俺(僕)たちは一心同体だ。連携奥儀――兄弟合体!!」
この日、この時。最強の兄弟が誕生した。
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明日の午前中に一章が完結する予定です!




