第三十三話 鮮血薔薇のヴァイス (聖炎鳥の翼視点)
「……ぇ……ぁ……?」
スカーレットがダメージを認知するより先に、謎の植物がスカーレットを絡めとる。
茎から生えたトゲが、スカーレットの体に突き刺さる。
飛び散った血が、フレイの頬に付着した。
「よくやった。戻ってこい」
教会の奥から、知らない男の声がした。
「誰だ!?」
フレイがそう叫びつつも、スカーレットを助け出そうと謎の植物を斬ろうとするが――
「残念だったな」
それよりも早く、謎の植物がものすごい速さで縮んで教会の奥に戻っていく。
「しっかし、お前らホントにSランク冒険者相当の実力者なのか? 蒼龍を倒せたのに、この程度の不意打ちにすら気づけねェとは呆れたぜ」
連れ去られたスカーレットのほうを見るフレイたち。
血濡れのスカーレットの傍に、スキンヘッドの筋肉男が立っていた。
「お前は誰だ? スカーレットを返しやがれ! さもないと……」
「さもないと俺を倒すってか? 冗談はほどほどにしろよ」
筋肉男が吐き捨てる。
「まあいい。自己紹介といこうか。俺はヴァイス。鮮血薔薇のヴァイスだ」
ヴァイスと名乗った男。
彼に向かって、スカーレットが弱弱しい声で魔法を唱えた。
「プロミネンス……ノヴァ……! ……!?」
スカーレットが絶望に染まるかのような、驚愕を顔に浮かべた。
「その植物は死の薔薇って言ってな。血や生命力、魔力を糧に成長する。お前はもう、魔法を使うことすらできねェぜ。あ、そうそう。この女はあえて心臓は外してある。死ぬのはまだ先だが、回復魔法を使おうと思わねェことだ。中途半端に回復しちまったら、死の薔薇の成長速度が速くなるだけだぜ。もちろん、その分この女の砂時計の減りも早くなる」
フレイたちが周りのアンデッドを倒そうとするが、それよりも先にヴァイスがアンデッドに向かって命令を出した。
「テメェらは引っ込んでろ。俺がやる」
その一言で、アンデッドたちがヴァイスのほうを睨みながら後ろに下がった。
「テメェらの不満なんざどうだっていい。肉壁の分際で偉そうにするんじゃねェよ。まだ自分たちのほうが上のつもりなのか?」
ヴァイスからとてつもない濃さのオーラが放たれる。
絶対的強者の威圧にあてられ、フレイたちは一歩を踏み出すことができない。
「お前たちに一つチャンスをやろう」
「なんのつもりだ……?」
ヴァイスが話を続ける。
「お前たちが俺の選別に合格したら、この女は解放してやる。ついでにお前らも見逃してやるよ」
ヴァイスの自分が勝つことを疑わない発言。
それを言えるほどヴァイスが強者であることを、フレイたちは嫌というほど肌で感じていた。
「俺は相手の目を見ればそいつがどんな人間なのかわかる。お前の答えを聞かせてみろ!」
ヴァイスに問われたスカーレットの口から出たのは、
「フレイ……! こいつをぶっ殺しなさいよ……!」
そんな言葉だった。
わずかな沈黙。
判決が下る。
「不合格!」
ヴァイスの無情な声が響いた。
「俺は、俺たちはな、お前みたいな人間が一番嫌いなんだよ!」
ヴァイスが吠える。
「自己中心的で、自分が一番。他者を見下し、他者を道具としか思っていない。テメェの目を見ればわかるぜ。テメェがほしいのは、あの赤髪赤眼の男と金と名声だ。他の二人は使い捨ての道具としか思っちゃいねェ」
「な!? スカーレットは――」
「黙れ。お前らも似たようなもんだろ。目を見りゃわかるぜ。この女と同じ曇った眼だ。おおかたSランク冒険者でも目指してるってところか? お前らは英雄には相応しくねェだろ。ちょっと強ェだけのクズ野郎だ」
フレイたちの視線が一瞬泳ぐ。
脳裏によぎったのはシズの殺害未遂。
そんな彼らを、ヴァイスは見逃さなかった。
「心当たりはあるようだな。テメェらみてェな奴を見てると反吐が出るんだよ。そこのクソアンデッドどもとテメェらは同類だ」
ヴァイスの両手の掌を、闇のオーラが包み込んだ。
「女神からの贈り物だったか? それ、俺も授けることができるぜ」
ヴァイスのその一言に、フレイたちは驚愕した。
「ただし、邪神の贈り物だがな」
ヴァイスからとてつもない量の魔力があふれる。
フレイたちの足元に、ドス黒い魔法陣が現れた。
「ヤバい! 逃げ――」
「間に合わねェよ。贖罪の呪い!」
魔法陣から発生したドス黒い光が、フレイたちを包み込んだ。
「テメェらの出番だクソアンデッドども」
光の中から出て来たフレイたちを、再びアンデッドたちが取り囲んだ。
「くッ……! 俺とグレンでどうにかアンデッドを止める。スカーレットがいなくて苦しいだろうが、任せたぞ」
「有利をとれるのはお前しかいないんだ。頼む……!」
「ええ。こんなところで私たちの英雄譚を止める気はありませんよ」
フレイたちがそれぞれの武器を構える。
「英雄譚、ねェ……。現実をわからせてやれ。ただし、殺さねェようにな。ここで死ぬのは面白くなェ。懺悔する時間を与えてやらねェとな」
ヴァイスの命令によって、アンデッドたちが一斉に襲い掛かった。
「【魔法剣・炎】……何!? ごほぉ……!?」
フレイがスキルを発動できず殴りぬかれる。
「なっ!? 弾けない!?」
あっという間にアンデッドたちがグレンにまとわりつく。
グレンは抵抗できずに押し倒され、馬乗り状態からタコ殴りにされた。
「フレイ!? グレン!? エクストラヒール!」
ニトロが【超級回復魔法】を使おうとしたが、発生したのは弱弱しい光だった。
希望などないとでも言うかのように、そのか細い光は消えた。
ニトロのすぐ近くまでアンデッドの大群が押し寄せる。
「ッ!? ホーリー! アンチパワー! スロウ!」
彼の自慢の魔法は発動しない。
抗うこともできずに、ニトロはアンデッドに嬲られた。
「贖罪の呪いの効果がわかったか?」
一分後。
赤く染まった教会の床の上に、フレイたちが転がっていた。
傷口から流れ出る血。霞む意識。
死んではいないが、無事というわけでもない。
もう動くことすらままならない。
できるのは、ヴァイスの言葉をただ聞くのみ。
「贖罪の呪い。お前らが代償として失ったのは、これまで必死に培ってきた強さだ」
フレイたちは全てを理解した。
スキルが使えなくなったのも。
身体能力が著しく低下したのも。
最初は善戦できていたアンデッドに、たったの一ダメージも与えられなくなったのも。
全て、この邪神の贈り物の効果なのだと。
「テメェらは永久的にスキルを使えない。レベルも上がらない。ステータスも一般人以下だ。アンデッドに軽く小突かれただけで致命傷。輝かしかった未来が暗く染まっていくのが分かっただろ。この呪いを解くには、本人から許しをいただくしかねェ。でなきゃ、一生弱いままだぜ」
フレイたちが歯噛みする。
ヴァイスはそんな彼らを、つまらなそうに見下していた。
と、その時。
「私が……悪かったわ……。ごめん……なさい……。許して……助けてください……」
スカーレットが、屈辱、怒り、恐怖。いろいろな感情がごちゃ混ぜになりながらそう言った。
「今更許しを求めても、もう遅い。運命は変わらねェよ」
だが、ヴァイスは無情だった。
「ふざけんじゃ……ないわよ……!」
「城よりも高いプライドを無理やり捨てて命乞いしたのも、すべては自分が可愛いからだろ? テメェの人間性は何も変わらなかった。はっきりと分かったぜ」
その時。
ギィィィという重低音が入り口のほうから聞こえてきた。
「新たな客人が来たみたいだな」
なんとか入り口のほうを見たフレイたち。
彼らの視界に映ったのは、のちに英雄となる人物たちの姿だった。
「パーティーが盛り上がって来たぜ」
ピンク髪の美少女が、一つの魔法を唱えた。
「【超級闇魔法】――死者よ、安らかに眠れ」
いよいよクライマックス!
続きは六時過ぎに投稿します!




