第三十二話 神龍との戦い (聖炎鳥の翼視点)
翌日。
野営の後片付けをしたフレイたちは、ダンジョン攻略を再開した。
「私の魔法をぶつけるのが楽しみだわ」
「油断はするなよ」
「わかってるわよ。そんなことくらい」
昨日のトマトビームのバフ効果がいまだ続いているスカーレット。
フレイたちは彼女の態度に一抹の不安を覚えながらも、セーフポイントを出た。
通路を奥に進むこと数分。
彼らの前にぞろぞろとアンデッドの群れが現れた。
その数、十体。どれもB+ランク以上の高位アンデッドだ。
「アンデッドは厄介だが……それよりも気になるな」
彼らが目をつけたのは、アンデッドたちの服装。
のちのシズたちと同じように、消えた村人たちがアンデッドになっていたことに驚いているようだ。
「ダンジョンが出現したとたん村人が一人もいなくなったと聞いていましたが、まさか殺されてアンデッドになって使役されているとは思いませんでしたね……」
「別にどうだっていいじゃない。知らない人間たちがどう死のうと」
スカーレットが興味なさげにそう言い放った。
「私が炎魔法をぶち込んでダメージを与えるから、さっさとあの死にぞこないたちを浄化しなさい」
スカーレットの物言いに、ニトロは渋々といった感じで首を縦に振った。
「敵を食い止めるのは俺たちに任せろ」
フレイとグレンがアンデッドの攻撃を受け止めていく。
アンデッドたちは通路の前方から現れたのと、二人との実力の差もあって後衛の二人の元には一匹たりともアンデッドは通さない。
「フレイムノヴァ!」
スカーレットの炎魔法が炸裂。
数匹のアンデッドが火だるまになる。
アンデッドは共通して聖属性と光属性に弱い。が、中には炎魔法にも弱い種族もいる。
火だるまになった数匹のアンデッドのうち、何体かは今の一撃で瀕死にまでHPが削られていた。
「やっぱり魔法の威力が上がってるわ!」
トマトビームのバフ効果を実感したスカーレットが、嬉しそうに口元を緩ませる。
フレイに油断しないように忠告されたことなどすっかり忘れて、万能感に浸っているようだ。
「ホーリー!」
ニトロがそんな様子のスカーレットを気にしつつ、【上級回復魔法】の一つであるホーリーを唱えた。
この魔法は呪いを解くことに使われがちだが、聖属性の魔法であるが故にアンデッドにダメージを与えることもできる。
レベルが100に差し掛かったニトロであれば、高位アンデッドにも充分すぎるダメージを与えることができた。
「高位アンデッドでも、問題なく勝てたな」
ドロップアイテムを拾いながら、フレイがそう呟いた。
このまま順調に進んでここを踏破できたら、俺たちは一気にSランクに近づく。
口には出さないが、フレイ以外のメンバーたちもみなそう考えていた。
「結局、この建物に入ってからあまり魔物は出てこなかったな」
教会の最奥部、美しい花々の模様が施されている巨大な扉の前までやって来たフレイが、そう呟いた。
「出てきたのはアンデッドが数体だけ。ダンジョンの広さに対して魔物の出現数がかなり少ないのは気がかりですが……この先がボス部屋みたいですから大丈夫そうですね」
「ああ。この先にいるボスを倒せば終わりだ」
「ボスだろうとなんだろうと関係ないわ。私の魔法でブチ殺してやるわよ!」
セーフエリアを出た先でアンデッドの群れと戦って以降、彼らはなぜか魔物にほとんど遭遇することなく最奥部までやって来た。
のちにシズたちが白虎と戦うことになる中ボスの間。そこも素通りできた。
もちろん彼らが疑問を抱かなかったわけではない。
が、考えてても結論が出ない以上、今はダンジョンボスに集中するほうが大事だと彼らは判断した。
ダンジョンボスを倒せば、ダンジョンの心臓部であるダンジョンコアを破壊できる。
つまりこのダンジョンを消滅させることができるのだから、何も問題ない。
問題ないはずなのだ。
「この難易度だ。どう考えてもボスはSランク台。心してかかるぞ」
「おう!」
「ええ。もちろんです」
「私に任せなさい!」
ダンジョンボスの間に入った彼らは、神聖なオーラを放つその魔物を見上げた。
長い胴体。蒼く輝く鱗。口元から伸びる真っ白い髭。
頭から伸びる二本のねじれた角。鋭い牙と爪。
異世界で“四神”と呼ばれている神獣の一角、蒼龍を。
「これは……龍ですか……」
「確か竜種の一種ではあるが、竜とは全く別の生物などと言われているアレか?」
「まあ、どっちにしろ強敵なのは変わらない」
「ハッ。殺し甲斐がありそうじゃない」
蒼龍が眼下の人間たちを見下ろす。
見下すように。かかってこいとでもいうように。
「舐めてんじゃないわよ!」
その態度が気に食わなかったスカーレットが、氷魔法を蒼龍めがけて放った。
巨大な氷の槍が飛んでいくが、蒼龍は身をよじって難なく躱す。
「スロウ! アンチパワー! アンチ魔法!」
だが、躱した先に三つの黒い光が発生。
蒼龍の体に黒い光が三つとも吸い込まれる。
「デバフ決めました! 今です!」
ニトロの横で、グレンが盾を構えた。
空中にいる蒼龍に向けられた盾。
何をする気かと思えば、その盾の上にフレイが飛び乗った。
「シールドバッシュ!」
グレンが力強く盾を押し出す。
フレイが蒼龍にむかって勢いよく弾き飛ばされた。
シールドバッシュは本来、盾で相手を弾き飛ばすことによってダメージを与えつつ距離をとったり隙を作ったりするスキルだ。
だが、使い方によっては今回のようなこともできる。
「グロロロォォォォォオオオォォオオ!!!」
咆哮を上げる蒼龍の口元に水色の光が収束していく。
「【魔法剣・風】!」
フレイの剣を渦巻く風が包み込む。
フレイが空中で突きの構えをとった。
「ウォロロロロ!」
蒼龍の口から、ハイ〇ロカノンみたいな攻撃が放たれる。
同時にフレイが突きを放った。
「ボルテクスブラストショット!」
「グギャオ!?」
ジョーノウチのギルマスを参考にした突き。
剣先から発生した螺旋を描く爆風が、ハイ〇ロカノンを突き破って蒼龍にダメージを与える。
だが、フレイの攻撃はまだ終わらない。
「【魔法剣・炎】!」
構えなおした剣を、彼の代名詞である炎が包み込む。
そして――
「火炎十文字斬!」
フレイの二閃によって、蒼龍の胴体にバツ印の大きな傷が出来上がった。
「散りなさい! エクスプロージョン!」
スカーレットの持つ杖先から、拳大の火球が放たれる。
「ゲイル!」
スカーレットが続けて風魔法を放つ。
爆風に押された火球が、絶叫をあげる蒼龍の口の中に吸い込まれ。
「ウォルァアア!?」
大爆発を起こした。
蒼龍が地面に墜ちる。
だが、さすがは神獣の一角。
大ダメージを負い、命尽きかけようとしてなお、その瞳には闘志が宿っていた。
「ハッ。さすがはダンジョンボスなだけあるわね。今度こそ私の魔法で木っ端みじんに――」
「ゴルゥァァアアアアアアアアアアア!!!」
スカーレットの言葉を遮って、蒼龍が文字通り命を燃やした咆哮を上げた。
崩れ落ちていく中、蒼龍が笑みを浮かべる。
それはほんの一瞬。だが、紛れもなく悪意100%の凶悪な笑みだった。
神獣とは思えないほどの。
「なんだ……ッ!?」
蒼龍の死体が光の粒子となって消えた瞬間、フレイたちはアンデッドの群れに取り囲まれていた。
「嘘……だろ……」
死体となって動く村人たち。
そのランクはどれもA+だった。
怨念、憎悪、殺意といった負のエネルギーを身にまとうアンデッドたち。
彼らの瘴気を浴びただけで、フレイたちの全身がとてつもない倦怠感に襲われる。
呼吸がうまくできなくなる。
「ホーリー! これで呪いは解けたはずです!」
ニトロの魔法によって、なんとか危機は脱することができた。
が、脅威は依然去ってはいない。
「数分は呪い状態にならないはずです! 私がホーリーで攻撃しますから、それぞれの役割を果たしてください!」
「ああ!」
「敵は一体たりとも通さん。安心しろ」
「Sランクにすら通じる私の魔法なら、この程度の連中どうってことないわよ!」
フレイとグレンが近づいてくるアンデッドを弾き飛ばす。
スカーレットの炎魔法が炸裂する。
ニトロのホーリーによって、ダメージを負っていたアンデッドが祓われる。
どういうわけか、アンデッドたちはあまり攻撃してこない。大半が傍観している。
そのおかげもあって、フレイたちはそこまで不利になってはいなかった。
「所詮は死にぞこないね。ビビって攻撃してこないとか呆れるわ」
スカーレットは、自身の魔法に絶対の自信を持っていた。
トマトビームのバフで強くなったのを実感してからは、万能感という深い深い海に溺れていた。
Sランク台の蒼龍に大ダメージを与えられたことで、アンデッドなんて今更敵ではないと慢心していた。
だから気づかなかった。
意識のはるか外から、神速の勢いで迫る一本の植物に。
「……ぇ……?」
「スカー……レット……?」
意識外からの一撃。
鞭のようにしなるソレが、スカーレットの胸を貫いた。




