第三話 シズのギフトと大毛玉ウサギ
「それは【バフ盛り料理】と【収納】だよ」
「【バフ盛り料理】と【収納】……」
私がギフト名を反芻していたら、イリスちゃんが効果について教えてくれた。
「【収納】は【アイテムボックス】の上位互換だね。時間経過なしの異空間に物を仕舞えるよ。容量は
学校の体育館一個分くらいかな?」
「デカっ!」
思わずツッコんでしまった。
体育館一個分とか、【アイテムボックス】の何倍くらい広いんだろ?
「次がメインね。【バフ盛り料理】は、その名の通りシズちゃんが作った料理にバフ効果がつくというものだよ。最大で全ステータス二倍、HPと魔力の常時回復って感じ」
「強っ!」
「シズちゃんの話だと、前のパーティーでは毎回シズちゃんが料理を作ってたんでしょ?」
「うん。料理は前世でよく作ってて好きだったから」
「ということは?」
「……あ」
イリスちゃんの言おうとしていることが、うっすらと分かってきた。
私が所属していたパーティーは、たったの三年でAランクに昇級した。
こんなこと普通はありえない。
「もしかして私たちがすごい速さで昇級できたのって……」
「シズちゃんの料理で知らないうちにバフがかかって、そのおかげで魔物を楽に倒せてレベルアップ。この好循環が続いたおかげだろうね」
やっぱりそうだったんだ。
……あれ? ということは……。
「じゃあ、私が抜けた後のフレイたちは……」
「だいぶ弱体化するだろうね。だけど、自業自得だよ。名声に目がくらんで大事なものが見えなくなったんだからさ」
ちょっとだけ気の毒だけど、もうフレイたちのことを考えるのはやめよう。
今はもう、赤の他人なんだから。
私はもう、彼らとは別の道を歩むから。
「さっきの一緒に最強を目指すって話だけど、どう? 自分の中で答えは決まった?」
私はイリスちゃんの顔をしっかりと見据えてから口を開いた。
「決まったよ。これからよろしくね」
私は、イリスちゃんと一緒に歩むことにする。
夢を叶えるために。
「こちらこそよろしく! さて、そうと決まればさっそくしゅっぱーつ!」
「どこに?」
「魔物を倒しに」
イリスちゃんの後ろをついていく。
建物を出ると、景色は一転。
地面は岩場で、周りには鉱石や変な植物が生えている。
見慣れた巨大洞窟ダンジョンの景色が広がっていた。
「イリスちゃんの家ってホントに奈落の底にあったんだね」
「シズちゃんと同じ転生者が数十年前まであの家で隠居してたんだよ。結界が張ってあるから魔物は寄ってこない。奈落を下りてくるような冒険者もいない。隠れ家にするのにはぴったりだからね」
「その転生者は?」
「数十年前に寿命で死んでるよ」
「……そもそもイリスちゃんってなんでここに住んでるの?」
よくよく考えてみたら、ろくに探索もされていない奈落の底で美少女が一人で暮らしているほうがおかしい。
この奈落についてもやけに詳しいみたいだし。
「シズちゃんになら言ってもいいかな。パーティーを組んだわけだし」
そう言って、イリスちゃんは私のほうを見てきた。
「実は私、ゴーレムなんだ」
「ゴーレム!? イリスちゃんが!?」
「そう。正確にはサイボーグとかいろいろ混ぜた感じだけど」
ゴーレム。
それはコアにある魔力を動力源として動く魔物だ。
本来知性なんて持つはずがない魔物。
それがイリスちゃんだなんて……。
「私が魔物だと嫌?」
「そんなことないよ。ただ、私の知ってるゴーレムと全く違ってたからびっくりしただけ」
これは紛れもない本心。
イリスちゃんが人間じゃなかろうと、そんなことは関係ないよ。
「さっき言った転生者が、ここでゴーレムの研究をしていたんだよ。美少女型ゴーレムとかいう欲望の塊みたいな研究内容だったけど」
「イリスちゃんはその変態な人に作られたの?」
「いいや。その人がゴーレムを作ってる途中で死んじゃって、残されたゴーレムに偶然知性が宿ったのが私。それが五年前くらいかな?」
「ということは、イリスちゃんって五歳?」
「そだよ。で、誕生したのはいいものの未完成状態だったから、もらったギフトで自分のパーツを作って完成させたってわけ」
「そのきれいな肌とか金髪も作り物なの?」
「いえーす。きれいでしょ?」
「うん。すごく美しい」
「ありがとね。さ、あの魔物を倒すのが先だよ」
イリスちゃんが一匹の魔物を指さす。
私はそいつを見上げた。
「しゃあああ!」
大きさは五メートルくらいか。
純白の毛に覆われたでっかい毛玉ボールみたいなウサギが、私のほうを見て涎をたらしながら低く唸る。
「何この人肉食べたいみたいな顔をした凶悪ウサギは……?」
「こいつが大毛玉ウサギだよ」
こ、これが私がクッションにしちゃった大毛玉ウサギなのか……。
種族名からして、もふもふのもっとかわいらしいウサギかと思ってた。
こんなんただのバケモンじゃん。
巨大もふもふが顔のせいで台無しだよ。
「シズちゃんの通常時の実力が知りたいから、一人で頑張ってね。あ、こいつのランクはB+だよ」
「さいですか……」
「さいですよ」
「グルゥゥゥウウウァァァアアアア!」
化け物ウサギが、草食動物とは思えない獰猛な咆哮を上げながら跳びかかってきた。
あ、こいつは肉食か。
人肉最高みたいな顔してるし。
「シャアア!」
大毛玉ウサギが大口を開きながら跳びかかってくる。
私はそれを横に跳んで回避する。
刹那、さっきまで私がいたところで甲高い音が響き渡った。
避ける前に見たけど、大毛玉ウサギの口の中には鋭い牙がびっしりと生えていた。
あれに噛まれたら、たぶん秒で人合いびき肉にされて出荷されちゃう。
「【水生成】!」
空中に発生した二つの水球が、私の拳を包み込んだ。
このスキルは一度に二リットル程度の水しか出せない。
しかも、生成した水を操作している間は新たな水を生成することもできない。
大量の水を生み出して窒息死を狙うことはおろか、指向性を持たせて攻撃魔法に昇華することすら不可能。
それなのにわざわざ水を拳にまとう理由。
それは……なんかカッコいいから!
頑張れば、鬼〇の生〇流転とか再現できるよ!
……ショボいとか言わないで。
【水生成】を攻撃に転用しようとしたけど、これが限界だったの!
「せいッ!」
大毛玉ウサギの首の付け根辺りに正拳突きを叩き込む。
「グルゥ……」
一発じゃ大して効かないのであれば、十発……いや、百発殴ってやればいい。
大毛玉ウサギの攻撃を躱し、いなし、カウンターを叩き込む。
「私は攻撃を躱したり受け流したりするのが得意なんだよ! 前世は空手部に入ってたし!」
追放される前は前衛担当だったし。
「……あれ? もしかして私って肉壁だった……?」
よくよく思い出してみると、確かに途中から肉盾みたいな扱いされてたかも……。
これ以上考えるのはやめよう。
精神的に良くない。
私は好きで前衛をやっていた。いいね?
「シャアッ!」
大毛玉ウサギが前足を振り下ろしてきた。
毛玉の中にあるからわかりづらいけど、筋肉質な足も驚異的だ。
鋭くて長い爪も生えてるし。
「おっと」
大毛玉ウサギの攻撃を躱し、反撃で蹴りを叩き込む。
私はその反動を利用して、大毛玉ウサギから距離をとった。
「百六十二発殴ったのに全然効いてなさそうなんだけど……。あと蹴りも一発」
「【鑑定】してみたけど、一割くらいしか体力減ってないね。レベルが高いのもあるんだろうけど、巨体故のタフさもあるかな」
「イリスちゃんの【鑑定】ってどのくらいまで見れるの?」
「種族名と名前、状態異常、レベル、ランク、ギフト、スキルが見れるよ。ちなみに目の前の大毛玉ウサギは61Lv、シズちゃんは40Lvだよ」
再び襲いかかってきた大毛玉ウサギの攻撃を躱して反撃しながら、イリスちゃんと会話をする。
「イリスちゃんは?」
「私は89Lvだよ」
「高!?」
「ここには私よりも強いやつはいっぱいいるよ」
89Lvよりも上がたくさんいるのか。
さすが奈落と呼ばれているだけあるね。
……それにしても私のレベルは40か。
フレイは確か77Lvくらいだったはず……。
ここまで差が開いたのは、私が敵をあまり倒してこなかったからかな。
私はみんなと違って強力な決定打がなかった。
ただ殴るだけなんて、威力はたかが知れている。
敵を倒すことよりも、敵を引きつけ攻撃を躱し受け流しダメージを与えるのを優先していた私には、フレイや他の元仲間たちほどの経験値は流れてこなかったのだろう。
「シズちゃんの課題はわかったから、あとは私がやるよ」
イリスちゃんがそう言って、私よりも前に出る。
「グル……?」
大毛玉ウサギは、自分の前に歩み出てきたイリスちゃんを見て困惑した。
が、すぐに攻撃に移る。
「グルゥァア!」
迫る大毛玉ウサギ。
イリスちゃんが掌を前につきだす。
イリスちゃんの腕から皮膚が消え、機械チックなものに変化し――
「焼却砲!」
イリスちゃんの掌の先で爆発が起こった。
砂埃が晴れる。
イリスちゃんの目の前には、ドロップアイテムの肉塊が落ちていた。




