第二十九話 魔の庭園攻略
植物魔物との激戦を終えた私たちは、庭園の奥へ進んだ。
道中何度か植物魔物と交戦になったけど、問題なく進めている。
体感で二キロほど進んだところで、庭園内を流れる川に差し掛かった。
「橋の上に明らかに中ボスっぽいのがいるね」
横幅が五メートルはある橋の上に、鎧を着こんだ騎士が立っていた。
人型だけど、鎧以外の部分は闇一色。
明らかに人ではなかった。
「あれはAランクのダークナイトだよ。弱点は人と同じだからね」
「りょーかい!」
私たちが橋に踏み込むと、じっと立っていた騎士が動き出した。
石造りの橋に突き刺さっていた漆黒の剣を引き抜いて、こちらを威圧する。
自分と戦うのに相応しい相手なのか見定めているって感じだ。
「どう? 私たちはお眼鏡にかなったかな?」
イリスちゃんがニヤリと笑うと、騎士が軽く笑うような動作をしてから構えた。
「敵として見てくれたようだね」
「シズちゃん、ここは私にやらせてくれないかな?」
イリスちゃんのほうを見れば、いつの間にか闇のオーラをまとう剣を持っていた。
「イリスちゃん、その剣は?」
「奈落の底で出会ったあのドラゴンの爪と牙と鱗で作った常闇の剣だよ」
「わー、厨二的でカッコいいね」
「シズちゃんにもこの良さがわかるか」
「超わかる」
「この剣を使ってみたいから、私に相手させて」
「そういうことなら任せたよ」
イリスちゃんが騎士の前に歩み出る。
騎士のほうはかかってこいとでも言わんばかりの態度だった。
「ふぅ」
イリスちゃんが小さく息を吐く。
お互いに睨み合う。
先に動いたのは騎士のほうだった。
緩急を混ぜて捉えにくくした走りで、イリスちゃんに迫る。
「実際より速く走っているように見せる走り方。攻め方はいいけど、私には通じないよ」
騎士が連続で剣を振るうが、イリスちゃんもそれに合わせて常闇の剣を振るう。
「その動き参考にさせてもらうよ」
イリスちゃんの動きが、剣筋が、騎士と全く同じものになった。
騎士はわずかに驚いた様子を見せたが、隙を晒すことなく冷静に攻め続けている。
暫く互角の剣戟が続いていたが――
「そろそろ私の番だよ。動きは学ばしてもらったからね」
イリスちゃんの剣の振り方は、騎士と全く同じ。
だけど、剣速や威力はイリスちゃんのほうが圧倒的に上だ。
基礎スペックが騎士よりも上なんだから当然か。
「ほらほらほら! まだまだいくよ!」
だんだん上がっていくイリスちゃんの剣速と威力。
騎士が被弾する回数が徐々に増えていく。
「せいッ!」
イリスちゃんの剣が上段から斜めに振り下ろされる。
いわゆる袈裟斬りってやつだよ。剣道の。
騎士が左腕を上段に持ち上げ、肉で受けることで常闇の剣を止めた。
右手に握られた剣の切っ先がイリスちゃんの胸を捉える。
そして――
「当たるわけにはいかないね。まあ、当たってもコアまでは届かないだろうけど」
騎士が放ったのは、研ぎ澄まされた突きの一撃。
刃がイリスちゃんの左胸……コアへと迫る。
が、イリスちゃんには当たらなかった。
「遅い」
横にずれて突きを躱したイリスちゃんが、常闇の剣を手元に引き寄せる。
「躱した瞬間に投げるなり蹴るなりしてもよかったけど、アンタは剣での勝負を望んでいるみたいだから望み通り剣で決めてあげる」
イリスちゃんが騎士と同じ構えをとった。
「しっかり覚えたぜ。今の突き」
攻撃が空ぶって隙だらけの騎士。
その胸部を、常闇の剣の切っ先が捉えた。
常闇の剣が紫色に光り輝く。
「お返しするよ。ノワールショット!」
イリスちゃんが、騎士が放ったのと全く同じ突きを放った。
騎士のとは比べ物にならない速度で突きが迫る。
切っ先が騎士の胸部に吸い込まれてゆき、鎧の上から貫いた。
「ありがとね。アンタのおかげで剣術の勉強ができたよ」
パチパチパチ――
崩れ落ちてゆっくりと光の粒子に変わっていくダークナイトが、残った力を振り絞ってイリスちゃんに拍手を送った。
見事だと言うように。
いや、そう言っているのだろう。
「ホントに、ありがとね」
ダークナイトが消え去った跡には、彼が使っていた剣が落ちていた。
「ダークナイト。騎士道精神あふれるナイト系の魔物の中で唯一姑息な手を使ってくる。眷属を生み出して敵の背後から攻撃させたり、闇魔法を用いた搦め手を駆使して戦う、か」
「それって【鑑定】で書かれてた文章?」
イリスちゃんがダークナイトの剣を見つめながら頷いた。
「騎士道精神に手足が生えたような人だったね。人じゃないけど」
「剣技に拘らず闇魔法とか使えばもう少し善戦できただろうに。この剣は常闇の剣と合成強化して使わせてもらうよ」
イリスちゃんがドロップアイテムの剣を拾い上げた。
「さ、行こうか」
「うん」
橋を渡り終えた私たちは、すぐに次の魔物に遭遇した。
おそらくは橋の下を流れている川に棲んでいるのだろう。
庭園の中を流れる川にしてはやけに大きいなと思ったけど、あんなのが棲んでいるのなら納得だ。
「でっかいワニだね。十メートルは超えてるかな?」
橋の先で月光浴していたのは、軽自動車くらいなら軽く丸呑みにできそうなほど大きいワニだった。
しかも双頭。
植物の魔物は庭園だからわかるよ? 別におかしくはないじゃん?
騎士はまあギリギリ許容範囲だよ? 中ボスみたいなやつだったし。
でもワニは違うでしょ。全く庭園味ないじゃん。
雰囲気ぶち壊しじゃん。
もっと風流のあるやつ出てきなよ。
「A-ランクのツインヘッドアリゲーターだよ。注意すべき点は地球のワニと変わらないよ」
「噛みつきとデスロールとシッポくらいか」
「うん。じゃ、私が先制攻撃するね。雷撃砲!」
地面に伏せて月光浴していたワニ。
砲撃に気づいた時にはもう遅い。
イリスちゃんの砲撃が炸裂した。
ワニが苦しげに呻いた。
「あれ? 思ったよりもダメージ入ってるね」
「巨体といっても、スペックがイリスちゃんとあのワニじゃ段違いだからね。レベルも奈落を脱出した時からさらに上がったしさ」
「もう少しくらいは手応えあると思ったんだけどね」
そう言って、イリスちゃんが跳躍する。
ワニの背中を捉えたイリスちゃんの右腕が、機械へと変化した。
刹那、右腕の肘関節部分からジェット噴射が起こり、イリスちゃんが空中で加速する。
そして、ワニの背中にパンチが放たれた。
「ギュゴ……」
ワニの真下の地面が、砕けてへこむ。
その衝撃で周りの地面が隆起する。
呻き声をあげたワニは、光の粒子となって消え去った。
「ドロップアイテムは鱗と牙か。よしよし、強化にはもってこいな素材だ」
私は散乱したドロップアイテムを集めているイリスちゃんのもとに向かった。
「お疲れサマ〇サ」
「このままあの建物目指そうぜ」
イリスちゃんの指さす先には、ダンジョンの外から見たあの教会っぽい建物が見える。
と言っても、まだソラマメくらいの大きさだけど。
どう考えてもあの中にダンジョンボスがいるだろう。
というわけで、私たちは進む。
見つけたセーフポイントで休憩をはさみつつ、植物魔物を倒しまくって進む。
たまに出てくる雰囲気ぶち壊し魔物も倒して進む。
魔物の数が多かったからそこそこ時間がかかったけど、昼過ぎ(ダンジョン内は相変わらず夜だけど、イリスちゃんの時計機能のおかげで時間は把握できる)には教会の近くまで来ることができた。
「こいつが庭園エリアのボスか」
「……植物っていうか野菜じゃん。なんで庭園にいるの? 畑に帰りなよ」
私たちは教会の前を陣取っているボスモンスターを見上げた。
なんか筋肉質な足の生えた大根の化け物を。
ちなみに大きさは五メートル以上。
「ダイコーン! ダイコォォォンッ!」
大根の化け物が雄たけびを上げる。
「A+ランクのキョダイコンだよ」
「巨大な大根でキョダイコンね。この魔物に関しては何にツッコめばいいかわからないよ」
私がそう言った時、キョダイコンがひときわ大きな雄たけびを上げた。
「アリルイソチオシアネートォォォオ!」
急に大根の辛み成分の名前叫んでどうしたの?
そう心の中でツッコミを入れた瞬間、キョダイコンの眼前に白い光が集まりだした。
「あれは大根の辛み成分であるアリルイソチオシアネートを超濃度で濃縮した大根ビーム! 触れたら強制的に失明するから気をつけて!」
「ナニソレ!? ネタみたいな技の癖に効果エグすぎるでしょ!?」
キョダイコンが雄たけびを上げ、大根ビームを発射した。
「私は左から攻めるから、シズちゃんは右お願い!」
「らじゃー!」
縦横無尽に放たれる大根ビームを躱しながら、距離を詰める。
視界の端では、大根ビームが直撃した植物たちがあっという間に萎れてしまっていた。
あんな立派な植物たちが一瞬で……。
……絶対に当たりたくはないね。
「焼却砲!」
「ダイゴォォォン゛ッ!?」
至近距離から放たれたイリスちゃんの砲撃が炸裂。
全身が炎で包まれたキョダイコンが悲鳴を上げる。
「いけー! シズちゃん!」
「任せて!」
大根ビームを撃つのをやめたキョダイコンに迫った私は、水をまとった拳でキョダイコンの体を殴り砕いた。
「ブリ……ダイコン……」
キョダイコンが断末魔を上げて倒れた。
あとには一本の大根が残されていた。
大きさは地球のものと大して変わらない。
それをイリスちゃんが拾い上げた。
「高品質でかなりおいしいみたいだよ、これ」
「そっか。じゃあ、今度それでブリ大根でも作ろうかな」
「いいね。おいしそうじゃん」
大根を仕舞った私たちは、教会の入り口にやって来た。
「よし、行くか」
イリスちゃんが扉に手をかけて、力いっぱい引っ張った。
「おりゃああああ開かないんだけど……」
「今度は引き戸じゃなくて押し戸みたいだよ」
「今回も見なかったことにして」
扉がギィィィと音を立てて開く。
私たちは教会の中へ足を踏み入れた。




