第二十八話 Sランクダンジョン攻略
「シズちゃん、覚悟はいい?」
翌朝。
料理の作り置きをしてたっぷり体を休めた私たちは、Sランクダンジョンへとやって来た。
「転移の魔石がない以上、一度入ったら踏破か帰還してもう一度最初から挑むかの二択しかない。だけど、簡単に踏破できるほど甘くはないだろうし、死ぬかもしれない」
私たちが受けた依頼は、このダンジョンの踏破及びダンジョンコアの破壊。
死ぬ可能性があることなんて、最初からわかってる。
全部わかってる上での決断なんだから――
「相手がなんだろうと、どんとこい! だよ」
「それでこそだよ」
イリスちゃんが笑う。
「気を引き締めていこーぜ!」
「おー!」
イリスちゃんが庭園の門に手をかけて、勢いよく押した。
「うおりゃあああああ開かないんだけど……」
「イリスちゃん、それ引き戸だよ」
「見なかったことにして」
門がギィィィと低い音を鳴らしながら開く。
こうしてダンジョン攻略が始まった。
全然締まらなかったけど。
「うっ……」
門をくぐったとたん、周囲に漂う魔力の密度が急に増したのが分かった。
それと同時に景色が一変した。
「夜の帳に包まれたね……。さっきまで朝で太陽が出ていたのに。しかもなんか広くなってる」
「ほとんどのダンジョン内は異空間だからね」
外から見た時は、教会みたいな建物があってその手前の庭にきれいな花や植物が植えられていだけだった。
それが今では、いろんな植物が植えられた庭がかなり遠くまで続いている。
数キロ以上にわたって植物園が続く様は、まさに庭園といった感じだった。
ただ一つ違う点を挙げれば、外から見た時はきれいな花を咲かせた植物など見栄えがいい植物が植えられていたのが、変わっていることくらいか。
なんか物騒な見た目の植物がたくさん植えられている。
レイナさんから最初は植物系の魔物が出てくるって聞いてるから、たぶんこの植物たちが襲ってくるのだろう。
いかにも人を襲いますみたいな見た目してるし。
そんなことを考えていると、右前方に植えられていたハエトリソウみたいな草が動き出した。
それを皮切りに、他の植物たちも動き出す。
虹色の光が流動する花を咲かせた背丈の高い草や、土管のようなものから生えたパ〇クンフラワーもどきなど様々だ。
「手厚い歓迎だね」
「VIPになった気分。【鑑定】お願い」
「B+ランクのヒトクイソウ。B-ランクだけど、状態異常を引き起こす花粉を飛ばすレインボーフラワー。A-ランクのパクパクフラワーって感じ」
「あとは地中にも何かいるっぽいね」
「たぶんここぞというときに下から奇襲するんでしょ」
「おっと。もうこれ以上待ってはくれないみたいだよ」
目の前の植物たちから殺気があふれ出る。
すぐにでも攻撃してきそう。
「私はレインボーフラワーを相手にするから、シズちゃんは他のをお願い」
「了解!」
私は短く返すと同時に、さっと横に飛び退いた。
刹那、さっきまで私がいたところにヒトクイソウの雨が降り注いだ。
頭に噛み砕かれた地面が抉れる。
茎が伸縮自在のようで、リーチが長い。頭が多いから手数も多い。
そして高い攻撃力。
そんなヒトクイソウが、ざっと数えただけで十本は生えている。
……なるほど。
普通の冒険者なら苦戦するだろうね。
これに加えて、状態異常を引き起こす花の妨害やコンプラヤバヤバフラワーの攻撃。
さらには地中からの奇襲まであるのだから。
「よっ、ほっ、とっ!」
ヒトクイソウの絶え間ない攻撃の間を潜り抜けて躱す。
私の後ろで地面が抉れる音が絶え間なく聞こえてくる。
「根元の茎が集合してるところをまとめて斬ったら一発でしょ」
拳に水をまとう。
猛撃を掻い潜り、ヒトクイソウの根元に迫る。
そして、茎が束になってくっついているところを手刀で切り飛ばした。
「一体除草完了!」
だが、ほかのヒトクイソウは怯むことなく襲いかかってくる。
その攻撃を躱した瞬間、前方でボッという音がした。
明るくなるとともに熱が伝わってくる。
そちらを見れば、コンプラヤバヤバフラワーが巨大な火球を自分の真上に浮かべていた。
炎を吐くとかもうパ〇クンフラワーそのものじゃん。
危険を察知したヒトクイソウが頭を引っ込める。
その瞬間火球が放たれた。
「巨大ファイアーボールか。当たったらただでは済まなそうだね。当たったらだけど」
火球に手の甲をそっと当て、弾いた。
「うわ! 水まとってるのにちょっと熱っ!」
弾かれた火球は、別のコンプラヤバヤバフラワーに直撃した。
草タイプに炎タイプは効果抜群。
火球がぶち当たったそのコンプラヤバヤバフラワーは、燃え死んでしまった。
炎を吐くくせに炎を当てられたら死ぬとか、もっとパ〇クンフラワーじゃん。
「次は何? コンプラ的に危なくない攻撃してください。お願いします」
コンプラヤバヤバフラワーが首をぐっと引っ込めた。
正確には首じゃなくて、茎だけど。
次の瞬間、コンプラヤバヤバフラワーの頭(花の部分)が発射された。
「お前も茎伸びるんかい!」
コンプラヤバヤバフラワーの頭が迫る。
ギザギザの歯が並んだ口が開かれる。
「横スマ決めようとしないで! コンプラ超ヤバヤバフラワーじゃん!」
私は横にずれて攻撃を躱した瞬間、手刀で茎の部分を切り飛ばした。
コンプラ超ヤバヤバフラワーの頭が地面に落ち、動かなくなった。
「残りのコンプラ超ヤバヤバフラワーは一体か」
そいつのほうを向くと、なぜか口を膨らませていた。
さすがに毒霧とかはしないよね? あと鉄球吐き出すのもやめてね?
放置してたらコンプラ的にヤバいから、早急に除草するために肉薄する。
その瞬間、毒々しい色をした煙が吐き出された。
「やめてって言ったでしょ!」
素早く後ろに回り込んで毒霧を回避。
手刀で頭を切り飛ばした。
「焼却砲!」
イリスちゃんの叫び声と、燃え盛る炎の音。
そちらを見れば、レインボーフラワーが炎の牢獄に捕らわれているところだった。
その付近には、ヒトクイソウのドロップアイテムらしきものが何個も転がっている。
「状態異常は私には効かないぜ」
「ナイス、イリスちゃん。めんどいやつ倒してくれてありがと」
「そっちも順調だね……っと!」
地面を突き破って無数の木の根が私たちに迫る。
人体を簡単に突き破れるほどの威力がある。
それが一目でわかった。
「ま、私たちにはちょっと強い程度の打撃にしかならないけどね」
木の根の連撃を躱す。
ここぞというばかりに残っているヒトクイソウも攻撃してくるけど、私たちに命中することはない。
「この木の根の主は……」
根っこを切っても大したダメージにはならない。
だから本体を探しつつ、ヒトクイソウを除草していく。
ボゴッ!
背後で何かが地面を突き破る音。
振り返ると、巨大な蔓が地面から伸びていた。
それが私たちに振り下ろされる。
蔓が直撃した地面が、大きく抉れた。
「威力250はありそうなツルのムチだ」
「だね。焼却砲!」
イリスちゃんの砲撃によって、蔓が燃えてなくなった。
「みーつけた」
イリスちゃんが不敵に笑う。
「見つけたって、本体?」
「そう。あれが本体だよ」
イリスちゃんが指さす。
その先には、「私は全然関係ないですよ」みたいな感じで一本の木が生えていた。
「トレントか」
「無関係を装ってチクチク攻撃とか性格悪いね。それとも正面から戦うのが怖くてビビってるのかな~?」
イリスちゃんが挑発する。
この程度の挑発に乗っかるのかな? なんて思ってると、木が震えだした。
幹の部分に憤怒の表情を浮かべた顔が浮かび上がった。
「トレントさんは煽り耐性低い人だったんだね。人じゃないけど」
「ほれほれ、チキンウッド君。攻撃してきなよ」
「キシャアアアアアアアッ!!!」
トレントが我を忘れてヤケクソに暴れる。
荒れ狂う根っこ。
何度も叩きつけられるツルのムチ。
口から吐き出される緑色のよくわからないビームまで。
私たちはそれらを躱して肉薄する。
「えいっ!」
「グギャアア!?」
ライダーキックをトレントの顔の部分に叩き込む。
怯んだトレントの動きが止まった。
私はトレントをもう一度蹴って距離を取る。
「イリスちゃん!」
「私に任せろ! おりゃああ!」
イリスちゃんの焼却砲が、トレントの顔面に炸裂した。
あっという間に炎がトレントの全身に燃え広がる。
轟轟と音を立てる炎の中でトレントは苦しんでいたが、すぐに光の粒子に変わっていった。
「うい、討伐完了!」
「いぇい!」
イリスちゃんとハイタッチ。
「幸先のいい出だしだね」
「このまま突き進むぜー!」
「らじゃー!」
ドロップアイテムを回収した私たちは、奥へと進むのだった。




