第二十六話 盗賊
私たちはアルクスの街に向けて街道を進んでいた。
フローラシティを出たのは今朝で、今の時刻は三時ごろ。
アルクスの街まで残り三分の二というくらいに差し掛かったころ、風に混じって血の匂いが漂ってきた。
「イリスちゃん」
「わかってる」
雷九尾の時みたいに、また人が魔物に襲われているのかもしれない。
そう思って進んでいると、金属音が聞こえてきだした。
剣と剣がぶつかり合う音……。
つまり戦っているのは人同士である可能性が高い。
となると、考えられるのは盗賊か。
そのまま進むと、遠目に馬車を守るように陣形を組んでいる冒険者と、相対する盗賊っぽい男たちの姿が見えた。
一、二、三……。数は八人か。
盗賊にしてはそこそこ多いほうかな。
「冒険者たちは……もう限界が近いみたいだね」
武器を構えている三人はみんな傷を負ってボロボロ。
彼らの仲間なのだろう。三人、地面に倒れている。
たぶんもう息はない。出血量が明らかに致命的だ。
「行くよ、イリスちゃん」
「こっちは準備オッケー。火力調整済みだよ」
「盗賊が死なないように気を付けてね」
盗賊が剣を振り上げて叫ぶ。
「これで死ねや! 大人しく降参して女を渡せばよかったんだよ! ぎゃはははは!」
盗賊が死んでも何も問題ない。
それでも死んでほしくはない。罪は償わないといけないから。
「威力は控えめに! 暗黒弾!」
私は指先から闇の弾を弾き出す。
闇の弾は高速で進み、今まさに振り下ろされている途中の剣に直撃した。
「なんだッ!?」
剣が吹き飛んでいく。
盗賊のボスには、何が起こったのかわからないようだった。
「もう一発! 暗黒弾!」
今度は暗黒弾を盗賊のボスの若ハゲマンに向かって撃つ。
「ぐふぅぁ……」
闇の弾は若ハゲマンの横腹に直撃した。
若ハゲマンは吐血しながら吹き飛んでいった。
「次は私の番だよ! 微力雷撃砲!」
イリスちゃんの掌から砲撃が飛んでいく。
いきなりボスが吹き飛んでいったことで硬直していた盗賊たちは、抵抗することなく砲撃の餌食になった。
「火力抑えたから死んではないけど、当分は体がしびれて動けないと思うよ。今のうちに拘束しようぜ」
盗賊たちを一ヶ所に集めて縄で縛る。
縛り終えたタイミングで、冒険者たちが話しかけてきた。
「あ、ありがとうございます! 本当にありがとうございます! おかげで助かりました! あなたたちが来ていなかったら僕たちはもう死んでいました。本当にありがとうございます!」
パーティーリーダーっぽい少年が何度も何度も頭を下げてきた。
「本当に……ありがとうございます!」
「あなたたちのおかげで助かりました……」
彼の仲間も頭を下げてきた。
彼らのランクはDってところか。
乗合馬車の護衛依頼をしたところ、運悪く盗賊たちに襲われたって感じかな。
この国は治安はそこまで悪くないから、盗賊はあまりいない。
でも、全くいないわけじゃない。
今回みたいに襲われることもある。
私は何度も頭を下げる彼の肩にポンっと手を置いた。
「よく頑張ったね。降伏すれば命は助かるのにそれをしなかったのは、馬車に乗ってるあの女の子を守るためなんでしょ?」
私が示す先には、馬車からこちらの様子をそ~ッと窺っている美少女がいた。
「でも、大事な仲間が三人も死んで……」
「その仲間は君たちと同じことを考えて盗賊たちに立ち向かったんでしょ?」
「うん……」
「あの子を守るんだって……」
「攻撃を喰らっても諦めなかった……」
彼のメンバーたちも暗い顔で俯いている。
「じゃあ、シャキッとしなさい。君たちが勇気を振り絞らなかったら、あの女の子は連れ去られて盗賊たちの行方は分からなくなったんだから。身を挺して守った。君たちのその優しさは間違ってなかったんだよ。死んだ仲間のためにもそれだけは否定しちゃいけない。胸を張って堂々としていいんだよ」
私がかけられる言葉はこれくらいしかない。
だけど、それは彼らが気持ちにけりをつけるのには充分だったようで。
「ありがとうございます。死んだ仲間たちの分も生きるようにしようと思います」
「君たちはさ、目標とかあるの? 冒険者としての」
「目標……叶う可能性は限りなく低いですが……Sランク冒険者です。みんなで一緒になろうって……」
リーダーの彼は、馬鹿らしい子供の夢とでも言うかのようにそう言った。
Sランク。やっぱり冒険者にとっては憧れだよね。
「ふーん。私たちと同じじゃん」
「え!? お姉さんたちも冒険者なんですか!?」
「そだよ。AランクでしかもSランクの推薦はもう二票!」
イリスちゃんが誇らしげに宣言した。
「す、すごい……! お姉さんたちなら絶対に成れますよ! ……僕たちはたぶん無理でしょうけど……」
そう言って、彼らは苦笑いを浮かべた。
「何言ってんの? 諦めてたら夢はかなわないぜ」
「でも……」
「君たちでも行けるよ、Sランク。外れスキルしかなかった私でもここまでこれたんだから」
私がそう言うと、彼らは驚いた顔をしていた。
「それに昔の私たちにそっくりだから。こっちのイリスちゃんと組む前に私が組んでいた人たちの昔にだけど……」
「……?」
「だから、その優しさは大切にするんだよ」
「そうそう。“本当に大事なもの”を見失わないように気をつけなよ。そうすれば、アンタたちは強くなれるぜ。夢は執念で掴み取れ!」
「死んだ仲間の分も頑張ってね」
言い終わった後に彼らを見ると、三人とも憑き物が落ちたような顔をしていた。
「じゃあね。頑張って強くなるんだよ」
「じゃ、盗賊を衛兵に引き渡すのよろしく」
私たちは、彼らや馬車に乗っていた人たちにたくさん感謝されながらその場を後にした。
いつかまた会ったら、彼らがどうなっているのか楽しみだよ。




