第二十一話 海王 リヴァイアサン
「り、リヴァイアサン……」
乗組員の誰かが、ぽつりと呟いた。
「リヴァイアサン……! これが……!」
龍のようなカッコいいフォルムのリヴァイアサンが、物言わぬ死体となったメガロドンを飲み込む。
太さ二十メートルを超える胴体が、二十メートル以上も海上に姿を現した。
海が荒れ狂い、船が揺れる。
けど、まだリヴァイアサンの全長に終わりは見えない。
「どんだけ長いの……」
「巨体にもほどがあるでしょ……。ちなみにSSランク200Lv。私たちの攻撃じゃほとんどダメージは与えられないくらいステータスに開きがあるよ」
「え!? 私のバフ込みでも?」
「うん。さっき封印した魔弾砲なら多少はダメージを与えられるだろうけど、体力を三分の一以上削る前に魔石の魔力が尽きるね」
「イリスちゃん、なんでこの状況でそんなに落ち着いてるの? 死ぬ覚悟ができたからとかじゃないよね?」
どうやっても勝てない魔物の出現。
どうしようもない状況の打開策を必死に考えていると、リヴァイアサンがゆっくりとこちらに頭を向けてきた。
結構ホラー的で怖い演出だったけど、リヴァイアサンがこちらに敵意を向けていないことが分かった。
『ん? おお、すまんな。ワシのせいで荒波ができてしもうた。ほれ、これでどうかの?』
リヴァイアサンがそう言った瞬間、さっきまで荒れ狂っていた波が嘘のように穏やかになった。
クラーケンやシーサーペント、メガロドンのような人間殺す的な雰囲気は一切感じられない。
むしろ好々爺といった感じだ。
『そう緊張なさんな。別に取って食ったりせんから安心するといい』
よくわからないけど、私たちは助かったみたい。
このリヴァイアサンがいい人で良かった。人じゃないけど。
『ワシはリヴァイアサン。この辺の海を守護してる者じゃ』
「どうも。シズです」
「イリスだよ」
私たちも自己紹介しておく。
『ほっほっほ。二人とも強いのぅ。クラーケンとシーサーペントを倒してなおピンピンしとるような人間に合うのは久しぶりじゃわい。お腹すいてたから食べちゃったメガロドンも、おぬしらであれば簡単に倒せたじゃろうな。シーサーペントよりほんのちょっと強いくらいじゃし。あ、少しお願いがあるんじゃが、クラーケンの頭部くれんかの? メガロドンだけじゃ、ちと足りなくてなぁ』
「全然いいですよ」
クラーケンを倒したのは私たち。
だからクラーケンの使い道は自分たちで決めていい。
ギルドで売り払う義務はない。
依頼内容は討伐であって、納品は含まれていないから。
だから即答した。
私たちはクラーケンの足が一本もあれば充分だからね。
頭部とかタコスミはいらないし。
お金には困ってないから、売り払うのは残った足だけでいい。
富と力はもうあるから、海賊王になるために必要なのは名声だけなんだよね。
『感謝感謝』
リヴァイアサンはあっという間に海面に浮かぶクラーケンの死体のそばに移動した。
リヴァイアサンの魔法か、波は全然発生しない。
『それじゃあ、いただくとするかの』
リヴァイアサンが大きく口を開き、クラーケンの頭部を一口で食べてしまった。
頭部を失ってバラバラになった八本の足はイリスちゃんが回収。
その間に私は、シーサーペントの死体を回収した。
リヴァイアサンが現れた時の荒波で遠くまで流されていたけど、闇魔法で足場を作ってササっと回収してきたよ。
『ふぅ。満足満足。して、おぬしらに聞きたいことがあるんじゃが、最近魔物が異常発生したりはしていないかの? あ、今回のクラーケンたちを除いてじゃ』
一息ついたところで、リヴァイアサンがそう聞いてきた。
「私が見た限りでは、魔狼王や雷九尾が本来いない場所に急に現れたりしましたね」
『やっぱりかの……』
「今回のクラーケンやシーサーペント、メガロドンも含めた一連の異常発生だけど、リヴァイアサンさんは心当たりがあるの?」
イリスちゃんがリヴァイアサンにそう質問した。
リヴァイアサンが何か知っているのであれば、ぜひとも聞いておきたい。
最近の魔物異常発生には、絶対に何かあると思うからね。
『結論から言うと、心当たりはない。じゃが、確実に異変は起きている。それも、世界中でじゃ』
「世界中……?」
『ワシはこの付近の海の守護者をやっとるが、最近になって強い魔物の異常発生が急に起こり始めたんじゃ。普段はここから南にある別の大陸までの範囲を回遊しとるのじゃが、クラーケンなんて今回で二十六匹目じゃぞ? ほかにもシーサーペントやメガロドンはもちろん、ギガロドンとか水竜とかキョダイオウイカとかジゴクウミウシとかいっぱい見たぞい。そのどれもが、本来ワシの守護範囲には生息していない魔物なんじゃ』
「つまり、魔物の異常発生は局地的ではなく、いろんなところで起こっているということですね?」
『そうじゃ。はるか南にある別の大陸に国の守護神やっとる不死鳥の知り合いがいるんじゃが、あやつの話によると南の大陸でも魔物の異常発生が起こっているそうじゃ。あやつは【人化の術】で人間に化けて人間の作る料理を楽しむのが趣味なんじゃが、魔物の異常発生が多くて趣味に使う時間がないってぼやいていたぞい』
「そのフェニックスさんも原因はわかっていないんですか?」
『そうじゃ。退治しながら原因を探っているそうじゃが、何も手掛かりは見つかっていないそうじゃの。これはワシの憶測でしかないんじゃが、世界に何か異変が起きている可能性が高い』
「世界に、ですか……」
『そうじゃのう。世界中で異変が起こり始めたのであれば、これから何かが起きようとしていると考えるのが自然じゃろう。世界中を巻き込んだ大きな何かが、の。リヴァイアサン歴七千年以上のワシでもこんな出来事は初めてじゃから、はっきりとは言えんが……』
今回のクラーケン討伐は、Sランクの推薦以上の成果を得ることができた。
魔物の異常発生についてリヴァイアサンから詳しい話が聞けたのだから。
『それじゃあ、ワシはそろそろお暇しようかの。パトロールに行かないといけないからのぅ』
「いろいろと教えてくれてありがとうございました」
『ほっほっほ。これからも魔物の異常発生とか起こるじゃろうから、おぬしらも強くなるのじゃぞ。今よりも、もっともっと強くな。おぬしらなら問題ないじゃろう。昔ワシが加護を授けた人間に似とるからな』
「ありがとうございます」
「ありがとね。じゃ、バイバイ」
「さようなら」
『では、さらばじゃ』
海の中に戻っていくリヴァイアサンを見送る私たち。
まさか伝説のリヴァイアサンと話すことができるとは思ってもいなかったよ。
貴重な時間だった。
「ふぅ~。いろいろあったけど、これで一件落着かな?」
「そうだね。リヴァイアサンが来たくらいだから、もうクラーケンとかは残っていないだろうし。それじゃあフローラシティに戻ろうか」
「うん」
伝説のリヴァイアサンと話すことができるとは思わなかった。
それはこの船の乗組員たちも同じだったようで、後ろを振り向いたら全員石みたいに固まっていたのが視界に映った。
これ正気に戻すの大変な奴だ。
誰か千〇呼んできて。
結局、船員たちを全員正気に戻すのに一時間以上かかった。
叫んでも水ぶっかけても起きないんだもん。
何しても起きないから仕方なくビンタして無理やり正気に戻したんだけど、数人Mの扉開いちゃったから後悔してる。反省もしてる。ホントにしなきゃよかったよ。
ハァ……。ホントに。
補足
ギガロドン……メガロドンの上位種。S+ランク。
キョダイオウイカ……全長八十メートルほどの巨大なダイオウイカ
ジゴクウミウシ……深海にすむ巨大なウミウシ。高すぎる物理耐性と真っ二つにされたら分裂して二匹になるような自然治癒力。強力な毒をもつ。リヴァイアサンに丸のみにされて消化されたため、耐性とかが意味をなさなかった。毒? 効くわけないじゃん。




