第十一話 イリスの冒険者登録
フェンリルの死体をポンっと出した私たちは、強制的にギルドマスターの部屋に連れてこられた。
「お前たちがなぜフェンリルの死体を所持していたのか説明してほしい」
そう問いかけてきたのは、三十代前半のイケメンなおじさん。
彼がここのギルマス(ギルドマスターの略)だ。
「ディアブル大迷宮を踏破したんですけど、帰還用の転移の魔法陣でワープした先にフェンリルがいたんです。それで問答無用で交戦になったから、仕方なく倒したわけです」
「A+ランクを仕方なくで倒すなよ……。まあいい。状況の把握はできた。危機は去ったから解散だと、集まっている冒険者たちに伝えてきてくれ」
ギルマスがそう言うと、ギルマスの傍で待機していた受付のお姉さんが返事をしてから部屋を出ていった。
「この街を救ってくれたこと感謝する。俺たちがフェンリルの討伐に出向いていれば、倒せはするだろうが少なくともケガ人は出たはずだ」
ギルマスが頭を下げてきた
「たまたま転移先がフェンリルの目の前だっただけですよ。ギルマス、顔を上げてください」
「……それじゃあ、本題に入るか」
顔を上げたギルマスの表情が真剣そのものになった。
もちろんさっきも真剣だったけど、それ以上にってことだよ。
フェンリルよりも重大なことでもあるのかな? 想像できないけど。
「お前……聖炎鳥の翼メンバーだったろ? 確か、名前はシズだったよな?」
「……覚えてましたか」
「三か月ちょっと前にお前たちの昇級試験に立ち会って以降は、一度も会うことはなかったからな。Sランク冒険者なんて数えるほどしかいない。だから、実質的にトップであるAランク冒険者は、少なくとも今この街にいる者は全員把握している」
ギルマスが一呼吸おいてから、口を開いた。
「……単刀直入に聞く。なぜ生きている? それに隣の女性は誰だ? フレイたちのパーティーにはいなかっただろう?」
「やっぱり私って死んだことになってたんですね」
「フレイたちによると、五十一階層で踏んだら強制的に発動する転移トラップによって、お前だけどこかに飛ばされたと聞いていたが……。Bランク台が出てくる五十階以降で、良く一人で生き残れたな」
どうやら、私の死因はそういうことになっているらしい。
「そのトラップで飛ばされた先でこっちのイリスちゃんに出会って、一緒に鍛えたんです」
「ダンジョンの中に女性一人で……しかも冒険者じゃないんだろ? 見覚えがないからな。いったい何者って言いてぇところだが、冒険者同士の詮索はご法度だ。答えたくないんだったら、答えなくていい」
「話が早くて助かります」
「……にしても、一緒に鍛えたって言ったが強くなりすぎだろ。昇級試験でお前と会った時は、三か月前のフレイたちの半分にも満たないくらいの強さだったはずだが……。どんな鍛え方したらフェンリルを簡単に倒せるようになるんだよ……って、詮索はご法度だったな」
まあ、驚くのも無理はないか。
たった三か月で頭おかしいくらい強くなったんだし。
そう考えると、高レベルのAランクの魔物がウヨウヨいた奈落ってヤバいね。
「今後はどうするんだ? フレイたちはディアブル大迷宮の攻略に行っているから、戻ってくるのは当分先だろう。それまで待つか――」
「いえ、こっちのイリスちゃんとパーティーを組みます!」
私の様子にギルマスが首を少しだけかしげた。
「……? そうか。なら、まずは彼女の冒険者登録からだな。パーティー申請のほうは登録後にするぞ」
「その辺の手続きって大丈夫なんですか? 私ってフレイのパーティーに所属ってことで登録してるから……」
「ああ。そこは大丈夫だ。お前は一応死亡扱いになっていたから、フレイのパーティーからはすでに除名してあるぞ」
「なるほど。わかりました」
話がまとまったので、一階の受付に戻った私たちはイリスちゃんの冒険者登録をしてもらった。
書類に必要事項を書いてから、その情報をなんかすごい機械でギルドカードに打ち込んでもらう。
最後に血を一滴カードに垂らせば完了だ。
イリスちゃんはゴーレムだから血は出ないけど、すり抜けるのは簡単だった。
ギルドカードを作成するときに血を垂らすのは、その人の魔力を登録するためだ。
魔力は指紋みたいに人によって波長が違う。
だから、自分の魔力をギルドカードに登録することで身分証明ができるのだ。
ギルドカードに魔力を流すと、それが登録されている魔力と同じだったらホログラムみたいな紋章が浮かび上がるようになっているからね。
要するに、ギルドカードに登録するのは魔力であって血ではない。
事前に仕込んでいた赤い液体に魔力を込めてカードに垂らせば、イリスちゃんでも簡単にギルドカードを作れるっていうことだよ。
まあ、ここのギルマスは信用できるから、イリスちゃんがゴーレムなのバラしてもノープロブレムなんだけどね。
そんな感じで登録したら、冒険者についての説明をされた。
これはギルドの規則らしい。
私がイリスちゃんに教えたのと同じことを律義に説明してくれた。
よーし、これで登録は終わり!
って思ったら、ギルマスが話しかけてきた。
「俺から提案があるんだが、ランク認定試験を受けてみないか?」
「ランク認定試験って、有望な人が冒険者登録した場合に特別に試験をしてランクを決めるってやつですよね?」
「ああ。普通は登録したらFランクから始まるが、明らかに有望すぎるやつだともったいないだろ。だから、この制度があるんだ。フェンリルを仕方なくで倒せるお前たちが受けないのはどう考えてももったいない。イリスと言ったな?」
「そだよ」
「試験を受ける気はあるか?」
「バチコリありまっせ」
「じゃあ、闘技場に案内するからついて来い。あ、あとシズも一応試験をしてもらうぞ」
というわけで、私たちは闘技場にやってきた。
「試験官は……当然俺だ」
「ギルマスが相手するんですか?」
「当たり前だ。俺以外に代役は務まらん」
ここのギルマスは、現役時代にソロでSランク冒険者にまで上り詰めた本物の実力者だ。
奈落を踏破した直後にいきなり元Sランク冒険者と戦うことになるとは思わなかったけど、ちょうどいい。
私たちの実力を試すいい機会だ。
「本気でかかってこい。前線に出る回数は減ったが、自主トレは続けている。腕が鈍ったつもりはないぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて本気でいかせてもらいますよ」
お互いが獲物を構える。
ギルマスは剣を。
イリスちゃんは素手を。
模擬試験が、始まった。
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