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7/12

7.しきりに降る雨の中で

 昼休みの現在。体育館裏で咲良と昼食を取っていた俺に、突然嵐のような出来事が起こった。


 雨が地面に落ちる音ではない、『ピチャッピチャッ』と、人が水溜まりを踏むような音が聞こえてくる。

 そして、その音は次第に大きくなっていく。


 誰かがコチラに来ていると察し、目を凝らしてみた。

 だが、しきりに降っている雨がそれを邪魔し、目視出来なかった。


 そこで、咲良に聞いてみる事にした。


「なあ、咲良。こっちに誰か歩いてきてないか?」


「そう? 分からないけど」


 どうやら咲良は気付いていないらしい。

 無理もない。その人物はまだ遠くの方にいて、その水溜まりを踏むような音は微かにしか聞こえないのだから。


 俺がその音を確認出来たのは、五感の中で比較的ではあるが聴覚が良いからだと思う。

 それと引き換えに視力はあまりないのだが。


 そして、目を凝らしていた俺に、その人物が少しづつだが写り始めた。


「……金髪だな……丈の短いスカート……」


 その人物は、金髪で、丈の短いスカートを履いていた。

 そして、その容姿とそっくりな、要するに心当たりがある者が一人だけいた。


 同じクラスのヤンキー女子、高橋(たかはし) 初香(ういか)である。


 彼女は、数少ない俺を虐めてくる(?)女子である。

 しかし、大体の女子が俺に興味すら持たないのだから、それは逆に嬉しいのかもしれないと考えたりする。

 いや、俺はMではないのだ。決して。


 それと同時に、彼女がこんな所に何の用だろう? と疑問に思った。

 しかも、今は強い雨がしきりに降っているのだ。

 何か大事な用事でもあるのだろうか?


 何故ここに来ているのかを考えていると、気付いたら目の前まで彼女が来ていた。


 この距離まで来れば、それはもう確信がついた。

 やはり彼女は、高橋 初香であった。


 だが、目の前まで来ているというのに、彼女はコチラに気付いていないようだった。

 それもそうだ。俺に気付いたら、真っ先にからかいに来るのが目に見えている。


 彼女はピンク色の可愛らしい傘を差し、何やらキョロキョロと周りを見渡している。

 すると、


「おーーい! 初香ちゃーん!」


「げっ!」


 咲良がおーいと高橋 初香を呼び、手を振り始めた。

 その瞬間、俺は無意識に、言葉にもならないような、謎の声を発した。


 俺の優雅な昼食時間までからかわれてはたまったものでは無いと思い、現代の忍者こと、凄森 美雪、すなわち俺は彼女がコチラに来る前にこの場を去ろうとした。

 だが、時既に遅し。


 去ろうとする俺とは反対に、彼女は既にコチラに来ていた。


「おー、こんなとこで何やってんだー咲良?」


「あははー、それはこっちのせりふだよー」


 実は、咲良と高橋 初香は仲が良い。

 陰キャで社交性もゼロの俺とは対照的に、咲良は陰キャだけれど社交性はあるのだ。

 まぁ、咲良は見た目だけが陰キャであると言ったところだろう。


 そして、俺と高橋 初香の目が合ってしまった。


「……こ、こんにちは」


「凄森、お前こんなとこで何やってんだよ」


「い、いや、咲良とご飯食べてただけだけど」


 それを聞いた彼女は驚いた表情を見せ、言った。


「はー? マジかよ咲良!

 前々から凄森と仲が良いと思っていたけど、昼ご飯も一緒に食べてんのかよ!」


「なんで? 悪いこと?」


 小首を傾げて、不思議そうに咲良は答えた。


「こんな陰キャと一緒にいたって、楽しくないっしょ!」


「私は楽しいよ?」


 そんな咲良の言葉を聞き、高橋 初香は更に驚いていた。


 ……ここで俺は閃いた。

 女子には虐めどころか、興味すら全く持たれない俺に対し、この高橋 初香は頻繁にちょっかいを掛けてきたりするのだ。


 そう、俺は思った。



 コイツ、俺の事が好きなんじゃね?

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