6.俺専用の食事場
昼休みの今、速水たちに貰ったパンを片手に俺は、体育館裏のスペースへと向かう。
そこは昼休みにほとんど人が来る事がないような場所であり、もはや俺専用の食事場所である。
屋根もあるので、雨の日でも安心なのだ。
体育館裏へ通じる扉を開ける。
すると、何かにぶつかったようで『ガタッ』っと音が鳴った。
「痛たたっ」
俺の開いた扉に女の子がぶつかったようで、痛そうに腰をさすっていた。
これは悪いことをしたと思い、謝ろうと目を合わせると――
「あっ、美雪くん」
その子は咲良だった。しかし、驚く事でもなかった。
よくよく考えれば、そこにいたのは咲良しかありえなかったのだから。
何故ならここは、陰キャで長らくボッチ生活を過ごしている、この”俺”が、太鼓判を押すほどの雲隠れスポットなのだから。
しかもここは日差しも当たらず、少しジメジメとしている。
こんな所に自ら好き好んで来るのは、俺や咲良みたいな人間、もしくはカエルくらいだろう。
俺と咲良は、本当はカエルなのかもしれない。
俺の昼休みのご飯を食べる時間は大体ここで過ごすのだが、咲良も同様にここで過ごす事が多い。
要するに、一緒に食べる事が多いのだ。
「おっすー、咲良」
軽く右手を上げ挨拶をし、いつもの様に咲良の隣に座る。
「美雪くん、今日は少し遅かったみたいね」
「うん、ちょっと色々とあってね。
……あぁ、そうそう。これ、パンいっぱい貰ったんだよ! 咲良にもあげるよ」
そう言うと、おもむろにパンがいっぱいに入った袋に『ガサガサ』と手を突っ込むと、適当なパンを掴み咲良に差し出した。
メロンパンである。
「う、嬉しいけど……私お弁当あるんだよ?
だから、遠慮しようかな」
苦笑いを浮かべて、咲良は答えた。
「なーに、大丈夫だよ。
咲良は沢山食べるじゃん。もはやフードファイター並だよ」
「しっ、失礼な! 年頃の乙女に向かってそんな言い草、例え美雪くんでも怒るからね!」
「乙女はそんなバカでかい弁当食べませんよ」
そう言い、咲良が食べている弁当を指差した。
その弁当は、もはや女子高生が食べるような、いや食べれるような大きさではない。
先程も言ったように、咲良はフードファイターにも負けず劣らずだと思っている。冗談抜きに。
これで太っていないのが不思議である。
「べ、別に良いでしょ!」
指摘されると恥ずかしそうに咲良は答えた。口元にはご飯粒が付いていた。
そして、そう話す俺たちの背景には、雨がザーザーと降っていた。
「あはは。まぁ、そんな事より、今日雨強いな」
「……そうだね」
「傘、持ってきた?」
「……忘れてきた」
「じゃー、一緒に帰るか? “俺”は傘持ってきたしな!」
「何よそれー、自分はちゃんと持ってきたって強調しちゃって」
「なんだー、ずぶ濡れになってもいいのかー?」
少しからかうように俺は言った。
「……いいえ。一緒に帰ろうね、美雪くん」
「おう、任せとけ! あと、帰りに咲良の家に寄ってもいいか? ちょっと大事な話がある」
「ええ、良いけど……それは、ここじゃだめなの?」
「人に聞かれたらまずいんだよー」
「……そう、分かったわ。いらっしゃい」
そんな会話を交わしながらご飯を食べていると……思わぬ嵐が俺に訪れた。




