5.パンがパンパン
「あーあ、今朝は災難だったな。」
昼休みの現在、今朝の出来事に思いを馳せながら、毎度の如く寝たフリをしている俺は、目立たずに教室を出れる機を伺っていた。
「――今だっ!」
教室の人達が、食堂やら何やらに向かったためスカスカとなった教室を見図り、俺は忍者のように音を立てずに教室を出ようとした。
その一連の動きは、無駄のない洗練されたものだった。
現代の生ける忍者こそ、この俺と言っても過言ではないと思う。
「ふっふっふ、我ながら見事な動きである」
片手を顔に軽く当て、カッコつけながら決め台詞を言った。すると、
――ドンッ
教室を出ようとした途端、出入口で何かに衝突してしまった。
扉は開いてたはずだけどな……?
疑問に思った俺は、なんだなんだと、顔を上げてみた。
「おぉ、凄森! そんな急いだら危ねーぞ!」
同じクラスの陽キャ、速水 永であった。
どうやら俺は、速水にぶつかったようである。
彼の周りは、クラスメートの陽キャたちで囲まれていた。
「ご、ごめん、速水くん」
面倒な事は避けたいため、すぐさま謝った。すると、
「いいってことよ、気にすんな! それより――」
「そ、それより……?」
「はい、これ!」
そう言うと、速水はパンがいっぱいに入った袋を俺に渡してきた。
「え、な、なに?」
「いや、いつもお使いしてくれてるからさ、俺たちからのお礼だよ! ホント助かるわー!」
「おう、ありがとな凄森!」
「凄森くん、さんきゅー」
陽キャたちから、一斉にお礼の声が上がる。
なんと、日頃のお使いに対してのお礼だと言う。
だがしかし、特段驚く事でもない。この陽キャたちには、虐められたこともないし、寧ろ優しくしてくれてると思っていた程だ。
傍から見れば、あれはパシリに使われていると思われていただろうが……陽キャたちは、パシリではなくお使いだと思っていてくれてたようだ。
お礼のパンよりも、そこが俺は一番嬉しかった。
俺を虐めてくるのは、大体陽キャでも陰キャでもない奴らだ。
よくよく考えてみると、俺を虐めてくるのは極一部の人間に過ぎないのかも知れない。
被害妄想が過ぎたのだろうか?
ちなみに、女子は全く俺に興味を持たないのか、虐めどころか見向きもされないし、名前を呼ばれる事も殆どない。
これはこれで、虐められるより辛いかもしれないが。
「あ、ありがとう。じゃあお金払うね」
速水からパンを受け取った俺は、その代金を支払おうと財布を取り出す。
しかし、それを速水が止め、言った。
「何言ってんだよ! お礼だって言ったろ? 金なんていらねーっての!」
その言葉を聞き、俺は心の中で呟いた。
うぅ……前々から根は良いヤツらだと思っていたが、ここまで良いヤツらだとは思わなかったよ……。
「ありがとう、速水くん」
「おう!」
お礼の言葉を言う俺に対し、速水と陽キャたちは満面の笑みで答えた。
そして俺は、ようやく教室を後にした。
「はてさて、じゃあいつもの所に行きますか。」
速水たちから貰った、パンがいっぱいに入った袋を片手に、俺はある所を目指す。
そう、陰キャの俺が昼休みにご飯を食べる所と言ったら、あそこしかない。
人目の付かない、体育館裏のスペースである。




