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4.俺は顔に40のダメージを負った

 残酷な現実を受け止め、悲しくなってベッドに横になった俺は、そのまま寝てしまい、気付けば朝になっていた。


 小鳥が「ちゅんちゅん」と鳴いており、心地よい日差しが窓から俺の部屋に入ってくる。


 なんと清々しい朝であろうか。


 ……いや、清々しくはない。

 髪がベタついているのだ。

 昨日、風呂にも入らずに寝てしまったからだ。


 このままでは、まずい。

 容姿がダメダメで、衛生面まで不潔ときたら、到底モテるはずもなく、山下(やました) (りょう)が振り向く事など無いだろう。


 また、どちらかと言うと俺は綺麗好きなため、しっかり朝風呂をしてから学校に行こうと考えた。


 ……時刻はおよそ七時半。今すぐシャワーを浴びれば、学校には間に合うはず。

 まぁ、朝飯は抜きになるが。


 そうと決まれば、早速行動あるのみ!


「体も気分もさっぱりさせて、学校行きますくぁ〜」


 下着などを用意した俺は、すぐさま風呂場へと向かい、勢い良く風呂場のドアを開けた。


「――ひゃっ!?」


 甲高い声が上がる。


 なんと、風呂場には先客がいたのだ。

 妹の翡翠(ひすい)である。下着姿であった。


 翡翠と目が合うと、お互い数秒ほど固まった。

 そして数秒後、顔を赤くした翡翠が口を開いた。


「……死ね!! クソ兄貴!!」


 そう言うやいなや、俺の顔面目掛けてドライヤーを投げてきた。


「ぐはぁ!」


 俺は顔に40のダメージを食らった。

 ドライヤーは、それなりに重いのだ。

 そんなものを顔面に投げつけられたので、かなり痛かった。


 昨日に続き連日で翡翠からダメージを食らってしまったのだ。


 しかし、独断と偏見を承知で言うと、男子高校生は変態が多い。

 俺はその中でも、比較的変態な方だと自負している。


 ちなみに、中学生の時に初めて買った、『ドキドキ! るんるんトゥギャザー』と言う名前のエロ本は、今でも持っている。

 題名がエロ本っぽくないと言うのがミソである。


 そんな俺でも、妹の下着姿を見た所で何にも思わないし、興奮もしない。

 妹には、全くエロスを感じないのだ。

 不思議なものである。


 そう考えていると、服を着終わったのか翡翠が忙しなく風呂場から出てきた。


 すると、何やら翡翠が近付いてきた。


「……死ね!!」


「ぐはぁ!」


 再び死ねと言われ、脇腹を殴られた。

 悶絶した俺は、産まれたての子鹿のように足をプルプルとさせていた。


 なんというパンチ力であろうか。翡翠は体格も小さいし、力も強い訳でもないのに。

 まぁ、俺には筋肉なんて全く無いから余計にパンチが効いたのかもしれないが。


 ……でも、俺だって、別に見たくて見た訳では無いのに。

 そこまでされることあるだろうか?


 そう思いはしたが、時間が無いため今はシャワーを浴びる事を優先した。


 そして急いでシャワーを浴び、制服を来た俺は、リビングで朝食を取っている家族を横目に、すぐさま家を出ようとした。

 が、母さんに呼び止められる。


「美雪ちゃん、朝ごはんは?」


「……時間ないからいらない!」


「え〜、せっかくお母さん作ったのに。朝ご飯はちゃんと食べないと体に良くないわよ?」


 ……そんな事言われても、食べる時間が無いのだ。

 母さんの言葉を申し訳ないと思いながらも受け流し、俺は家を出ようとした。


「……待ちなさい、美雪」


 すると、親父が俺の方を向き、何やら険しそうな顔をして言った。

 それを聞いた俺は、立ち止まった。

 話の流れからして、パンでもかじりながら行きなさいとか言われるのだろう。


「……なんだよ」


「翡翠の風呂場、覗いちゃ駄目だぞ」


「わざとじゃ無いからー!!」


 なんと、ご飯の話をするのだろうと思っていた俺の予想とは裏腹に、全く関係無いことを言い出したのである。


「『ドキドキ! るんるんトゥギャザー』じゃ、満足しないのか?」


 ……何で親父が知ってんだよー!! このエロ親父、俺の隠してるエロ本こっそり読んでやがるな!


 すると、母さんが小首を傾げて話に混ざってくる。


「なに? どきどき何とかって?」


「いやなんでもないから!! じゃあ、行ってきます!」


 面倒な事になりそうだと察知した俺は、朝の嵐から逃げるように家を出た。

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