10.神様、俺に力を!
俺はよく、物事を考えたい時や一人になりたい時は、トイレの個室に籠る。
その空間だけは、まるで自分だけが存在するように思えるからだ。
そういう時は大方、客観的に見て俺の心は外界と閉ざされていると言えるだろう。
先程は咲良との会話で明るく見えるように振る舞ったが、それでも俺は実の所落ち込んでいた。
そうでなければ、トイレの個室になど籠らない。
今回、その閉ざされている心の扉を少しだけ開けてくれたのは、紛れもない咲良であった。
俺の事を心配したからと言い、わざわざ男子トイレにまで探しに来てくれたのだ。
咲良は、思いの外不器用ではあるが、アイツが話す言葉に偽りを感じたことは無い。
昔から、馬鹿正直な奴なのだ。
先程は、心配してくれた咲良を無下にあしらう様な態度を取ってしまったが、それは心配されたのが何処か嬉しく感じ、照れくさくなりしてしまった事だ。
悪意は無かった。だが、それは咲良も分かっていてくれているだろうと、勝手に推測する。
「……まぁ、少しは咲良に感謝しないとな」
そう言葉を発しトイレの個室の扉を開けると、壁に付いている小さな窓から、トイレの中に眩しい程の日差しが入ってきた。
気付けば、しきりにザーザーと降っていた雨の音も俺の耳には届いていなかった。
突然雨が止み、お天道様が顔を出したのだ。
まるで、天候が俺の感情と連動しているかのようだった。
そして、それはまさしく心の扉を開けるような心境でもあった。
「……あぁ、神よ。俺に前を向けと言うのですね!」
軽度の厨二病を抱えている俺は、その現象が神によるお導きだと考え、お天道様に向かい手を合わせた。
「ふっふっふ、そうだな。たまには……」
ここである事を思い付く。
それは、我が八延高校の中庭に行こうというものであった。
その中庭は、昼休みの時間はまさしくリア充の巣窟となり、俺のような陰キャが出入りするような場所ではないのだ。
どうせ奴らは、男女仲良く弁当をアーンし合ったり、チュッチュッでもしているのだろう。
わざわざそんな光景を自ら見に行くほど、俺はMではないからな。
だが、しかし! 今日は違うのだ。
なんせ、先程まで強い雨がしきりに降っていたのだ。
それが意味する事と言えば、今は誰もリア充なぞ居るはずがない! という事だ。
先程まで強い雨が降っていたと言うのに、雨が止んだからと言ってわざわざ中庭に向かう奴など、居ないはずだと考えた。
幸い、昼休みの時間もまだ残っている。
そ、れ、に!
今日の俺には付いている。お天道様、いや神様が付いているのだ!
前向きになれと神様にお導きを頂いたからには、そうしなくては厨二病の俺の名が泣く。
そうして意気込んだ俺は、トイレの扉を勢い良く開けて出た。
扉を開けるや否や、俺の視界の端になんだか過呼吸気味に息を荒らげている男が映った。
まるで物陰に隠れて、誰かを観察でもしているかのようだった。
「――ハァハァハァハァ……」
その男と目が会う。
「ハァハァ……おっ、おう、凄森くん! ハァハァ……」
クラスメートの陽キャ、本庄 力斗であった。
出来る限り頑張ります。
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