9話 ステラの心
夜。
岬にある小屋で、私とノクトさんは並んで寝ています。
ノクトさんは疲れていたらしく、すぐに寝てしまいました。
私も疲れているんですけど、でも、寝ることができません。
だって……
「うぅ……ノクトさんがすぐ隣にいるなんて」
そう思うと、すごくドキドキしてしまい、眠気なんて吹き飛んでしまいます。
チラチラと隣を見て。
寝息が聞こえてくることに、妙な安心感と残念感を覚えて。
それからまた天井を見て、目を閉じて、でも眠れなくて。
「……ふぅ」
寝ることを諦めた私は、ノクトさんを起こさないようにそっと外に出ました。
「わぁ」
夜空に輝く星。
そして、綺麗な円を描いている月。
とても綺麗な光景でした。
できることなら、この光景をノクトさんと一緒に……
「うぅ……私、なにを想像しているんでしょうか」
こんな時だから、生き延びることだけを考えないといけません。
それなのに、ノクトさんのことばかり考えてしまいます。
でもでも、それは仕方ないと思うんです。
「だって……ノクトさんは、私の王子様だから」
無人島に追放されて……
どうしていいかわからなくて、森の中を歩いて……
そして、ウルフに囲まれた時。
私は死を覚悟しました。
死を受け入れようとしました。
お父さんとお母さんに捨てられて。
奴隷に落ちて。
買われた先でひどいことをされそうになって。
生きる気力なんてなくしていました。
こんなにひどい目に遭うのなら、生きている意味なんてない。
むしろ、死んで楽になりたい。
そんなことを考えていました。
そんな私の心を変えてくれたのは、ノクトさんでした。
無人島で出会った、もう一人の追放者。
ぶっきらぼうで、ちょっとなにを考えているかわからないところが。
それと、最初は怖いと思っていた鋭い目。
こんなところに追放されたというのに、ノクトさんは一切諦めていませんでした。
絶対に生き抜いてみせると、強く言っていました。
そんなノクトさんに、私は憧れを抱きました。
私にはない強さを持つ彼のようになりたいと思いました。
私は……すごく弱いから。
「でも、ノクトさんは強いだけじゃなくて、すごく優しいです」
例えば、森を歩いている時。
私のことを気遣い、歩幅を合わせてくれています。
私が疲れた時も、すぐに休憩しようと言ってくれます。
例えば、魔物と遭遇した時。
ノクトさんは率先して前に出て、私を背中にかばいます。
「邪魔されると困る」とか言うんですけど、それならばそもそも、私のことなんて見捨てればいいんです。
そうしないということは、ノクトさんは私のことを気にかけてくれているという証になります。
例えば、夜、寝る時。
ノクトさんはなにもないような顔をして、壁ギリギリのところまで移動しました。
壁が近いと眠りづらいはずなのに。
私のことを気にしてくれているんだと思います。
「なんてことないような顔をして、でも、いつも私のことを気遣ってくれていて……とても優しいです」
そんなノクトさんだからこそ。
王子様、なんてことを思ってしまいます。
子供じゃあるまいし、王子様は自分でもどうかと思いますが……
でもでも、そんな風に思ってしまうんです。
他に考えられないんです。
ノクトさんは……私の王子様です。
「あれ、でも……王子様じゃなくて、ご主人さまになるんでしょうか?」
今の私は奴隷。
そして、その契約はノクトさんが上書きしました。
ノクトさんはやめてくれと言いましたけど……
やっぱり、ご主人さまと呼ぶべきなんでしょうか?
それに合わせて、態度も奴隷らしく……
でも、奴隷らしいというと、どんなことを……?
「やっぱり……え、えっちなこと……でしょうか?」
想像したら、顔が熱くなってしまいます。
あううう……胸がドキドキします。
買われた先でそういうことをされそうになった時は、心底イヤでしたけど……
ノクトさんなら、むしろ望むところというか……
「って、私はなにを考えているんですか!?」
頭の中をピンク色の花畑でいっぱいにしてしまうなんて……
こんなことをノクトさんに知られたら、恥ずかしさのあまり死んでしまいます。
羞恥死です。
「でも、ノクトさんなら、なにをされても……って、だから私!?」
月夜の下。
私は一人、悶えて……
「……ふふっ」
そして、ノクトさんのことを想い、笑みをこぼすのでした。
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