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5話 拠点

「ひとまず、ここを仮の拠点としようと思う」


 女の子を連れて水源まで戻った。

 ここに置いたウルフの肉などはそのままだった。

 最悪、他の魔物に食べられていることも覚悟したが、そうはなっていない。

 ラッキーだ。


「ここの水は問題なく飲むことができる。こういうところで、水源はとても貴重だ。ここか……あるいは、そう遠くないところを拠点としようと思う。今は他に候補もないし、そろそろ日が暮れるだろうから、大きく動きたくない。そんな感じで考えているが、なにか異論はあるか?」

「えっと……いえ、ありません」

「そうか。なら、周囲の探索を行おう。あまり遠くに行かなくていい。50メートルくらいで問題ない。仮の拠点を作る上で、最低限、周囲の状況を把握しておきたい。俺もこの水源を見つけただけで、周囲のことは調べていないんだ」

「わ、わかりましたっ」

「魔物と遭遇したら、大きな声をあげろ。すぐに助けに行く」

「は、はいっ」


 女の子は緊張した様子ではあるが、しっかりと俺の話を聞いていた。


「それじゃあ、30分後に合流しよう。いいな?」

「えっと……」

「なにか疑問が?」

「その、あなたのこととか、色々と聞きたいことがあるんですけど……」

「後にしてくれ。もうすぐ日が暮れると言っただろう? そうなってから探索をするのは危険だ。なるべく早く、日が暮れないうちに周囲の状況を把握しておきたい」

「そ、そうですね……すみません」

「いや、今の言葉を理解してくれるのなら、それでいい」


 というか、こんな状況ですぐに俺の言葉を受け入れられるなんて。

 なかなかできることじゃないな。

 奴隷に落とされたと聞いているが、この子、けっこう頭が良いのかもしれない。


「あの、ただ……名前くらいはいいですか?」

「……あぁ、それもそうだな」


 うっかりしていた。

 さすがに、名前くらいは今のうちに教えておいた方がいいだろう。

 でないと、呼ぶ時に困る。


「俺は……ノクト。ノクト・スカイフィールドだ」


 本当の家名は名乗らず、今、この場で考えた名前を口にした。

 この先、どのような展開になったとしても、あの家を継ぐことはない。

 家を捨てたという意思表明のつもりだった。


「ノクト・スカイフィールドさん……あ、あの……名前で呼んでもいいですか?」

「好きにするといい」

「ありがとうございます、ノクトさん」


 こんな時なのに、彼女は優しく笑うことができる。

 それは、一種の才能なのかもしれないな。


「あ、すみません。私は、ステラ・アルコットっていいます。私のことも、名前で呼んでいただけると……」

「わかった、ステラ」

「はいっ」


 ステラがうれしそうに笑う。

 名前で呼んだだけなのに、なにがうれしいのだろうか?


「じゃあ、探索に出よう。俺はこちら側を担当するから、ステラは反対側を頼む」

「わかりました。30分後に合流、ですよね?」

「そうだ。ついでに言うと、魔物に襲われた時は大声で叫べ」

「は、はい。気をつけます」


 緊張した様子でステラが頷いた。


 本当に大丈夫だろうか……?

 やや心配ではあるが、一人で探索もできないようでは、こんなところで生きていくことはできない。

 彼女の素質を確かめるためにも、あえて一人でやらせるべきか。


「気をつけろよ」

「ノクトさんも」


 互いに健闘を祈り、俺たちは森の中へ移動した。




――――――――――




 30分後。

 無事に探索を終えた俺たちは、互いが手に入れた情報を共有することにした。


 その結果、現在地が山の麓であることを知る。

 さらに、歩いてすぐのところに洞窟があることも判明。

 その洞窟を仮の拠点にするために移動するのだけど……


「これは扉……なのか?」


 洞窟に入って少ししたところに、明らかに人工物と思われる扉が設置されていた。

 ここは洞窟ではなくて、遺跡なのかもしれないな。


「これ、封印が施されていますね……ど、どうしましょう? これじゃあ、中に入ることは……」

「いや、なにも問題はない」

「え?」


 有形無形問わず盗むことができることは確認済みだ。

 ならば、この扉の封印も……


「よし」


 『盗賊の極意』を使用して、扉の封印を盗むことに成功した。

 扉の表面に刻まれていた模様から光が失われて、ゆっくりと開く。


 一応、ステータスを確認してみる。

 『封印・レベル1』というスキルが追加されていた。


 先の『毒生成』は、使用しなくてもなんとなく効果がわかるのだけど……

 これは、どういった内容のスキルなのだろうか?

 今度、実験する必要があるな。


「……」


 気がつくと、ステラが唖然としていた。


「どうしたんだ?」

「い、今の……いったい、どうやったんですか?」

「えっと……説明が面倒だな。とりあえず、有形無形に限らず、俺はなんでも盗むことができる。そのスキルを使用して、この扉の封印を盗んだ……そんなわけだ」

「す、すごいです……そんなスキル、聞いたことがありません」

「詳しいことは後で話す。とりあえず、中を調べよう。急がないと、完全に日が暮れてしまう」

「あ、はい。そうですね」


 ステラと二人で洞窟の奥に進む。

 予想した通り、ここは遺跡らしい。

 ほどなくして、床や壁や天井が人工物に切り替わる。


 ただ、それほど広い遺跡ではないらしい。

 広間が一つ。

 小部屋が二つ。

 それだけだ。

 宝が保管されていたような場所ではなくて、倉庫として利用されていたのかもしれないな。


「それじゃあ話を……と、言いたいが、その前に火を起こさないといけないな」


 ほぼほぼ陽は暮れかけている。

 完全に真っ暗になってしまう前に、灯りを確保しないと。


 探索ついでに拾ってきた木の枝を選別。

 高速でこすり合わせることで火を……


「あ、あの……」

「うん?」

「私、少しなら魔法を使うことができます」

「そうなのか? 火魔法も?」

「は、はい。初級ですが……大丈夫です」

「助かる。なら、火を点けてくれないか?」

「わかりました……ファイア!」


 ステラが魔法を唱えると、手の平サイズの火が生まれた。

 それらは木々に引火して、瞬く間に炎となる。


 木々をこすり合わせることで火種を生み出すことは知識にはあるが、実際の経験はない。

 下手したら何時間かかるかわからず……

 こうして簡単に火を起こすことができたのは、本当にありがたい。


「……ふぅ」


 火の温もりを感じると、自然と吐息がこぼれた。

 温かい。

 こうしていると、とても落ち着くことができた。


「あの……ノクトさんは、どうして?」

「……父と母が、とんでもないロクでなしでな」


 少し迷った末に、俺は素直に事情を打ち明けた。

 どれくらいになるかわからないが、これからしばらく、無人島でステラと二人きりだ。

 協力関係を築く以上、信頼を得なければいけない。

 そのために、俺は素直に自分の事情を打ち明けた。


 すると、


「ぐすっ、えぐっ……」


 なぜか、ステラが泣いた。


「お、おい。どうしたんだ? なぜ泣く?」

「だって……ノクトさん、かわいそうですよ……そんな風に家を追放されるなんて……それに、実の父親も信じてくれないなんて、あんまりです……」


 無実の罪を着せられた時……

 誰も俺のことを信じてくれなかった。

 屋敷の使用人も友達も街の人も、誰一人と俺の言葉に耳を傾けてくれず、クソ親父と腐れババアの言うことを信じた。


 でも。


 今初めて、俺の言葉を信じてくれる人が現れた。

 今更の話ではあるが……

 しかし、素直にうれしいと思うことができた。


「まあ……俺の話はこんなところだ。俺は、俺を追放した父と母を絶対に許さない。こんなところに追放されたけど、生き抜いて、必ず報いを受けさせてやるつもりだ」

「あ、あの……私になにができるかわかりませんけど、でも、ノクトさんを手伝いますから!」

「そう言ってくれることはうれしいが、なぜそこまで?」

「……他人事とは思えなくて」


 そう言うと、ステラは自分のことを語り始めた。


 ステラは普通の家に生まれ、普通の人生を送ってきた。

 しかしある日、両親の経営する商店が倒産の危機に。

 その対策として、ステラは奴隷商人に売られることになった。


 その後、ステラは好事家の金持ちに買われることに。

 ステラほどの美少女だ。

 さぞかし高い値がついただろう。


 慰み者になりかけたステラではあるが、抵抗したことで主に怪我を負わせてしまう。

 激怒されて、その結果、この島に追放に……そんな話を聞いた。


「なるほどな。確かに、似た者同士だな」

「はい、そうですね」

「……なんで笑っているんだ?」

「その、なんていうか……一人じゃないんだな、って思うことができて。ノクトさんと一緒にいられることがうれしくて……だから、勝手にニヤニヤしちゃいます」

「……そっか」


 ステラが笑い、俺も、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。

 互いの心が通じ合う。


 そんなことを思った時。


「うあっ……!?」


 突如、ステラが首輪を押さえて苦しみ始めた。

本日、19時にもう一度更新します。

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