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13話 雷

 テントのように、ウルフの毛皮でぐるりと小屋を囲っているため、中はかなり暗い。

 ただ、完全に明かりを遮断するわけではなくて、多少の明はあった。


 しかし、時間が経ち、雨雲が近づいてくると共にどんどん暗くなる。

 今後、明かりを考える必要があるな。

 外だけではなくて、中でも火を起こせる仕組みを考えた方がいい。


「暗くなってきましたね……」

「雨雲の範囲に入ったんだろうな。そろそろ雨も……降ってきたな」


 ポツポツと雨音が響き始めた。

 最初は緩やかに。

 ほどなくして、ザァアアアというものに変化する。


「小屋、大丈夫でしょうか……?」

「ウルフの皮のテントは、すぐに壊れるようなものじゃない。定期的なメンテナンスは必要だろうが……うまくやれば、一ヶ月は使えるだろう」

「一ヶ月だけなんですか……?」

「数時間の急造のものが一ヶ月も保てば十分だ。壊れる前に、今度はよりしっかりとしたものを作ればいい」

「なるほど……でも、この小屋は大丈夫でしょうか?」

「外装はぼろいが、骨組みはしっかりとしている。補修の必要はあるかもしれないが、今すぐにどうこうという心配はいらないだろう」

「そうですか……そうだといいんですけど……」


 ステラは落ち着かない様子で、ソワソワしていた。

 余ったウルフの皮で布団を作ったのだけど、その上で何度も寝返りを打っている。


 暗闇に目が慣れて、そこそこ見えるようになっているし……

 寝返りを打つ、ガサゴソという音が聞こえてくる。


「早く寝た方がいい。明日も早い」

「そ、そうですね……」

「なにか気がかりなことが?」

「い、いえっ、大丈夫です! たぶん、大丈夫です……」


 本当に大丈夫なのだろうか?

 気を使わせまいと、ステラは我慢する傾向にあるのだけど……

 一応、気をつけることにしよう。


「……」

「……」


 10分ほど経っただろうか?

 うつらうつらとして、まどろんできた頃。


 ゴォッ!


「っ……!?」


 雷の音がして、目が覚めてしまう。


「近いな……」


 たぶん、森の方に落ちたのだろう。


 やれやれ。

 雷が止むまでは眠るのは難しいかもしれないな。


「うぅ……」


 隣から怯えるような声が聞こえてきた。

 見ると、カタカタとステラが布団の中で震えている。


 もしかして……


「怖いのか?」

「えっ」

「雷、怖いのか?」

「あっ、いえ、その……」


 ステラはあたふたと慌てて、


「……はい」


 ややあって、おとなしく認めた。


「あの……お、お願いがあるんですけど」

「お願い?」

「手を……繋いでもらっていいですか?」


 ステラがおずおずと手を差し出してきた。

 それを見て、ついつい尋ねてしまう。


「そんなに怖いものなのか? いや、直撃すればタダでは済まないから、恐れる気持ちはわからないでもないが……」

「……思い出してしまうんです」


 ステラの声は震えていた。

 雨音に同調するかのように、震えていた。


「……なにを?」

「私が両親に売られた日も、こんな日でした。雨が降っていて、雷が鳴っていて……そんな中、私は奴隷商人に引き渡されたんです」

「……そっか」

「お父さんお母さんって、何度も何度も呼んで、でも、二人は振り向いてくれなくて……お金を手に、にっこりとうれしそうに笑っていて……その日以来、ダメなんです。雷が鳴ると、売り飛ばされたことを思い出して……どうしても怖くなってしまうんです。体が震えてしまうんです……」


 ステラは自分の体を抱きしめているみたいだった。


 俺も似たような境遇だ。

 ステラの気持ちはよくわかる。


 だから……自然と言葉が出てくる。


「この島から出たら、一つ、やることが増えたな」

「やること……ですか?」

「俺は、俺をハメたクソ親父と腐れババアを許さない。絶対に報いを受けさせてやるつもりだ」

「はい……」

「そのついでに……ステラの両親にも、報いを受けさせてやるか」

「え……? でも、ノクトさんは関係ないのでは……?」

「あるさ」


 同じ境遇の身として。

 共に生きる運命共同体として。


 ステラの身に起きたことを、なかったことにはできない。

 俺に起きたことを同じように考えてしまう。


「いつか一泡吹かせてやろう」


 そう言いながら、ステラに手を差し出した。

 ステラはそれを見て、ぽかんとして、


「……はい」


 軽く微笑みながら、俺の手を取る。


「ノクトさんの手……温かいですね」

「どこかで聞いたが、手が温かいヤツは心が冷たいらしいけどな」

「そんなことありません。ノクトさんは、とても優しいです」

「それはないと思うけどな……」

「優しいです」


 やや意地になるような感じで、ステラが言う。


 優しい人は復讐なんて考えないと思うが……

 まあ、そこら辺はいいか。

 ムキになって否定することでもないし、ステラの好きに思わせておけばいい。


「なぁ、ステラ」

「……」

「ステラ?」

「すぅ……すぅ……」


 もう寝ていた。


「寝付きは早いな……それだけ安心できたということなのか? まあ……こんな手でよければ、いくらでも貸すさ」


 穏やかな寝息を立てるステラの隣で、俺もゆっくりと目を閉じた。

 いつの間にか雷は止んでいた。

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