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ちょっと修正はいるかも
とりあえず公開
あれから数日たって、ついにサービス開始の日がやってきた。結局、チュートリアルがなかったコトに関しては運営からは調査中との返事が返ってきた。もうここまで来たらゲームを始めて慣れていった方が早いだろう。そう開き直って、サービス開始時間まで、掃除などを済ませていく。
「よし、いろいろ片付いたし、気持ちよくゲームできるな」
時間もいい具合だったので、VRワールドに没入する。意識が切り替わったあと、イフのタイトルを選択する。無機質な真っ白な世界から草木の生い茂った森の中に移った。まだサービス開始してないのになんでだろうと思ったが、目の前にあのもふもふ紅玉が現れたので、そっちに注意が移る。
「やあやあ、数日ぶりだね。他のプレイヤーと待機場所が違うのはチュートリアルの件で連絡があるからだよ」
チュートリアルの件ねぇ。あと数分後にはサービス開始だしもういいかなって思ってたんだけど。
「実は誰かさんの報告のせいで僕、ジャックローズがチュートリアルの手を抜いたことが上にばれちゃってね。キャラメイク担当AIの一つからはずされちゃったんだよね」
むむ、やっぱり手抜きだったんだね。何もチュートリアルみたいなことした記憶がないもの。
「んで、仕事のなくなった僕は、僕が手を抜いたプレイヤーの補助をするように上から指示が来たからこ
こにいるわけだね。でもさ、実際、僕との追いかけっこで体の使い方わかったでしょ」
あの追いかけっこがチュートリアルだったんだ。もしそうだとしても魔法の使い方とか、いろいろ説明するものあるでしょ。まあいいけどさ。このモフモフが言うには俺についてくるらしいのでわからないことがある都度聞いていけばいいかな。
「チュートリアルの件はもう気にしないとして、これからわからないことがあったら聞いていいってことでいい?」
「制限に引っかからない範囲でなら何でも答えれると思うよ」
もしそうだったら、俺のポンコツスキルについて相談してみるか。
「あのさ、俺、魔法職目指してるんだけど魔法スキル持ってないんだよね。どうすればいいと思う」
「それは問題ないね。これから異世界への扉が開かれるときに、行き先を選択できるんだけど、ダイナスの首都を選ぶと良いよ。そこの魔法学院に入れば魔法について学べるから」
さらに詳しい話を聞くと、異世界には六つの国家があり、剣聖が興したシュベアト、科学文明の進んだポルタヴィオ、精霊と亜人の国エスプリッテ、の西側三国と大陸南部の雄、マル・タラッタ、東側には大陸国家のうち最も歴史のある国ダイナス、戦乱の国家連合ベルムがあるらしい。また扉が開くのはこれらの国の首都となってるらしい。とりあえず心配事はなくなったので、サービス開始までジャックローズと雑談でもして時間をつぶそう。
ジャックローズをもふりながら、時間をつぶしていると扉が開く時間になった。さすがに変なもふもふがいると目立つので、ジャックローズには比較的目立たないように黒猫に姿を変えてもらった。瞳は相変わらず深紅で奇麗で目が惹かれたけどね。よし行くか。
「あ、これ言わなきゃいけないんだった。
新たな世界に入る名もなき旅人よ、自由を謳歌し、未知を拓け。幸運を祈る
こんな感じでいっかなぁ」
見事なまでに言わされたセリフだったなぁ、コイツ......
まあ、気を取りなおして、ダイナス行きの扉を開ける。目の前が真っ白になったかと思うと、森の中の景色が石のレンガで舗装された広場の真ん中に立っていた。あたりを見渡すと人だらけで、やかましい。とてもゲームの世界とは思えないほど現実味たっぷりでしばらくあっけにとられてしまった。これはβテスターたちが絶賛するわけだ。目の前にある街並みは自分が今、西洋の古い都市部にいると言われれば信じてしまいそうだった。圧倒され立ち尽くしていた俺は頭上からの猫の鳴き声?ではっとする。ジャックローズは上にいるのか?
上を見上げた瞬間、顔面と首に強い衝撃が走る。
「ふぎゃああああああああ」
哀れな鳴き声を聞きながら、意識が切り替わる。どうやら安全機能が作動して、痛覚をカットしたようだ。そして三十分ほどログインできない状態になる。このログインできない時間はデスペナルティも兼ねてるらしく、どのみちログインはできない。もしかしなくても俺は最速デスしてしまったのではなかろうか。それに落ちてきたのはきっとあのバカ猫だろう。いったい何をしたら空から降ってくるんだ。
何もすることがなかったので、ココアを淹れてゆっくりとソファにもたれる。暇だし今後のプレイ方針を考えるかな。
そろそろデスぺナも解ける頃に方針もある程度固まった。俺はこのゲームでPKプレイヤーとして活動していこうと思う。今までPKが認められてるゲームをやってこなかったので、一度はやってみたい。まぁ、知り合いもいないし、うらまれても困ることなんてないしね。そうすると課題としては魔法学院に通いづらくなるなぁ。これは実際に行って考えるか。
デスぺナも明けたのでログインしなおす。ちなみにデスぺナのログイン制限は、死に方によって時間が異なるので、死んだときは確認しないといけないこと、そして、ゲーム時間は現実時間の3倍であることを二度目のログイン時に知った。
ログインするとそこは荒れ地で目の前に一つさっき通り抜けた扉があった。なるほど、ここが本当の待機場所か。殺風景だな。
そして、広場への扉を通り抜けると、申し訳なさそうにお座りしてるバカ猫。
「言い訳は?」
「転移座標のz座標をうっかり間違えてたんです。すいません」
納得。そりゃ俺めがけて落ちてくるわけだ。でも、なぜ扉を使わなかったのか……転移魔法でドヤりたかった?このクソ猫……
うだうだやっててもしかたないので、バカ猫もといジャックローズを許して、学院に向かう。
道中街並みを眺めて歩くが、やっぱり奇麗だなぁ。おそらく商店がならぶ通りだと思うが、どの店も老舗ですという雰囲気を醸している。そしてお客さんの数も多い。何を売っているんだろうか。今度寄ってみようかな。
ジャックローズに聞くと学院は街の外にあるらしく、広場からかなり歩いた。自分の方針的には都合がいい立地だと思う。
大きな城壁の門を抜けると、五本の塔と立派な建物が見えた。周りを堅牢な塀で囲っているのがみえて、俺は無事にあの中に入れるのか心配になる。
「おい、バカ猫。あそこすごい厳重に守られてるけど、俺たち入れんの?」
てこてこ、俺についてきていたジャックローズはあくびをしながら答える。
「にゃぶん、ふぁいじょうぶ」
コイツの言ってること心配だけど、行くしかないかぁ。
少し歩いて厳かな門の前まで辿り着くとジャックローズが何かを唱え始める。すると勝手に門が開き、中に入れるようになった。
「言ったでしょ。大丈夫だって」
ドヤってしてるのが感じられる。コイツ一回お仕置きしてやろうかな。
手のひらをワキワキすると、すぐにしゃきっとして、喋りだす。
「ここに知り合いがおりますので、少し待ってて頂きたいでありまする」
変な口調になってんぞ、バカ猫。
こちらの両手を警戒しながら、建物の中にジャックローズが入っていく。
正直、こんなおっかなそうなところで待たされるの嫌なんだが。