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1-1


 母が亡くなったのは、七歳のときだった。

 仄暗い部屋、薄くお香の煙が漂う中、父親に強く肩を抱かれていた記憶が残っている。

 死そのものを理解したわけではなかったけれど、もう会えないんだと繰り返し語り掛ける父親の言葉を聞いて、私はそういうことなんだと涙を流していた。


 それから、八年。


「お墓に水かけちゃうねー」

 私が声をかけると、お線香の封を切っていた父親は軽くうなずく。

 毎年ゴールデンウイークになるとお墓参りに来るというのにも慣れて、墓参りという行為にも手慣れてきた。

「かさね、はい」と父親が火のついた線香を渡してくれた。

「じゃあ、まずはお母さんの分からいこっか」

 私と父は順番に線香を置き、静かに合掌する。

 終わるとすぐに、もう一束の線香に火をつけて分ける。

「次は成実の分ね」

 兄だった成実は物心つく前、私が二歳のころに亡くなっていた。だから記憶はないのだけれど、毎年こうしてお墓参りをしているのはなんだか不思議な気分だった。

 母と兄がどちらもゴールデンウイークに亡くなったというのは、不幸なようで、墓に参る側からすると、不謹慎だが手間は少なくて楽だ。

 二人分の合掌を終えて、私はお墓に向かって話しかけた。

「お母さん、書斎の本はやっと半分読み終わりました」

 なぜか父親が驚いたように反応した。

「えっ、かさねもう半分も読んだのかい?」

「うん。あ、たまに飛ばしてるけど今ちょうど下半分だよ」

 我が家には母親が本を貯めていた書斎と呼ばれる小部屋があり、私は小学生の途中からそれを読み進めていた。

「なんだそれがわかってたら、本は減らさなくてよかったのになあ」

「さすがにあと倍もあったらチャレンジできないと思うからよかったよ……」

「そう? じゃ、かえろっか」

 父親の言葉に頷いて、私たちは、墓に背を向けた。



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