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6-3


 身につけた鎧がガシャガシャと音を立てる。

 今までは異形の前で気にならなかったことだが、学校の中で鎧姿となると、普段生活をしているだけに妙に浮いてしまって、見えないはずなのにすこし気恥ずかしい。

 そろそろみんな昼食を終えてくるはずだからできるだけ誰にも会わないようにしよう、そう考えながら、私は心当たりの場所へと向かう。

 彼らの頭から伝わってきたイメージは、今朝上履きを探していた時に見つけたあの鉱物そのものだった。

 だから、私の理解が間違っていなければ、あの倉庫へ向かえばいいはず。


 そうして、まっすぐ昇降口のあたりまできたところで私は急ブレーキをかける。

 下駄箱のところに、女子生徒が一人立っていた。

 それだけなら気にしなくてもいいのだけれど、彼女がいるのは私の下駄箱……?

(まーたなにかやってるのか)

 今朝は立て込んでいたけどちゃんと外靴ももっていくべきだったかな、とか考えながらその様子を見ていると、遠目でも悪戯をしているようには思えなかった。

 用事が終わったのか、下駄箱を見るのをやめて体の向きを変える。

「杏子……!」

 まさか杏子が悪戯を、という疑念も頭を過ったが、そうではなさそうだった。

 希望的観測かもしれないけれど、私が先生に怒られてどこかへ行ったという話を聞いて、家に帰ったのか確認していたんじゃないだろうか。

(えへっ)

 単純だけれど、喧嘩をした杏子が少しでもそうやってまだ心配してくれているということがうれしかった。

 よし、彼女が去ったら倉庫へ行こう。

 しかし、なぜか杏子はこちらを向いた。明らかに何かを探す風の様子で、まるで私の声が聞こえたように。

(えっ、き、聞こえてた!?)

 無意味に口を抑えて、できるだけ音を立てないよう体を固める。

 けれど、彼女はだんだんこちらに近づいてきて、ついには一メートルも離れていない場所まで来た。それから、杏子は言葉を発する。

「かさね……?」

 私は自分が思わず目を見開いたということを別人のように強く感じた。

 さっきの一言で分かったのだろうか。

 それともなにか別の要素で分かったのだろうか。

 どっちにしても、普通なら個人の特定なんかできっこない。

 杏子は目の前できょろきょろと見回した。

「かさねの声だった、よね~」

 彼女は、一人つぶやく。

 久方ぶりに親友の声を聞いて、ぐっと胸が詰まる。

「もうどこ行っちゃったのさ~……先生に怒られて逃げたって聞いたけど、意味わかんないよ~……」

 その言葉を聞いて、やっぱり杏子は私のことは理解してくれないのか、と悲しくなった。もちろん、彼女は私の事情をなにも知らないのだから、仕方ないということはわかっているつもりなのだけど。

 それでも……。

 けれど、そんな気持ちは彼女のつぶやきを聞くまでだった。

「なにしてるのか知らないけど、早く戻ってきて、いつも通り私とおしゃべりしたり遊んだりしてよ……!」

 それは、ぐちゃぐちゃしてとっちらかった私の心の中をぴったりと一つの箱に入れてしまうような力があった。

 ずっとずっと思っていたのに口にできなかった気持ちそのものを、杏子も持っていた。

 そして、私にくれた。

 そのことで目の前がぱぁっと明るく開けたような気がして。

 思わず彼女の手を右手で掴んで、叫ぶ。

「私だって、そうしたい!」

 すうっと目の前の杏子の瞳が私に焦点を合わせて、目と目が合う。

 彼女の口も大きく開いた。

「かさね!」

 そのまま抱きしめたかった。

 笑顔を、言葉を、心を交わして仲直りしたかった。

 ずっと一緒にいたかったって言って、並んで教室に戻りたかった。

 でも、私の左手にはサーベルが握られていて、それは叶わないのだ。

 ただただ、「見られてはまずい」という気持ちが働いて、次の瞬間には、彼女はぐったりと意識を失っていた。

 自分でもその結果に驚きながら、自分が踏み込んでしまった世界の異常さを再確認する。

 彼らが言葉を伝えてくるテレパシーも、突然格好は変わり元に戻れば傷は治り願えば人を眠らせる魔法少女も、私の常識では計り知れないけれど、この不思議な世界ではこれが普通なのだと思う。

 だからこそ、ここは人間が踏み入れる場所じゃないと強く感じて、同時にこれ以上多くの人間が巻き込まれないようにと私は望む。

 そのために、私は戦う。

 ありがとう、杏子。あなたの望みはもうすこしだけ待ってほしいけれど、あなたを守るために、私は戦える。

 今も、これからも。






 少し心配ではあったが意識を失った杏子を保健室の前に置いて、再び倉庫に向かい、まだそこにあった資源を取った。

 そのまま、昼食を終えてにわかに賑わい始めた校舎を駆け抜けて、屋上へ戻る。

 できるだけ生徒を避けようと迂回したため、少々の時間を要したが、ようやく特別棟にたどり着き、残りは階段を上るだけとなったその時。

『…………聞こえ……るか……』

 もう慣れ始めたテレパシーが頭の中に届いた。

 「聞こえているよ」と返事をしようとは思ったものの、どうやって返すのかわからないことに気づく。

 ここまで来たら上ってしまったほうが早いと考えて、階段に踏み出した。

 足を動かしている間にも次のテレパシーが届く。

『……急げ…………』

(急げ? なにかあったのかな?)

『…………殺され……ていく……』

 えらく物騒な言葉まで聞こえて、冷や汗が垂れる。

 なにかがあった?

 次を催促できないことがいやにもどかしかった。

 すこし間があって、次が聞こえる。

『………………魔法少女……に……』

 魔法少女……!?

 その言葉を聞いて思いつくものなんてひとつしかなかった。


 バン!

 大きな音を立てて屋上に続く扉を開く。

 その向こうには、目を覆うような光景が広がっていた。

 傷だらけで、穴だらけで、原型もとどめていないような怪物の死体が屋上に夥しく散らばっている。

 足を踏み出せば、流れ出た体液が池のような様相を呈して、ピチャピチャと足を濡らす。

 空を見上げると、蜂のように忙しなく羽を動かす怪物たちの群れと、狩りをするようにそれを追い、削り、落とす魔法少女――舞の姿があった。


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