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第63話 ランクアップ

 その日、俺とリーリエはアリアからガレオが中央から戻ったと言う話を聞き、若干速足でギルドへと向かっていた。


「なんか、こうやってギルドに出向くのは久しぶりですね」

「だな。二週間顔出してなかった訳だし」


 リーリエとそんな会話をしながら、二人で並んで歩いて行く。


 報告書作成やら何やらを済ませた後、≪月の兎亭≫に戻ってリーリエと話し合った結果、俺が提案した二週間休養計画が採用された。なので、昨日までまったりと過ごしていた訳だ。

 その間に、リーリエから借りた竜種全書(りゅうしゅぜんしょ)にも目を通せたし、結構有意義な時間の使い方が出来たな。

 ……しかし休日ってのは時間が経つのが早いね! 今日結果を聞いたら、明日からまたクエスト漬けの日々が始まるかと思うと……別に憂鬱ではないな、うん。


「ちょいと気掛かりなのは、ディスペランサは討伐したけど試験の対象だったブライウスは俺達の手では討伐出来なかった事だな。そこんとこ大丈夫なのかね」

「どうでしょう……多分、今まで前例が無い事だと思うので何とも言えませんね」

「うーむ……ま、成るように成るだろ」


 そこまで話した所で、俺はここ二週間で気になっていたある事を思い出す。


「……所でリーリエさんや」

「はい?」

「俺、二人になんかしたか?」

「!? ななな何もしてないデスヨ?」


 分かり易過ぎるぞリーリエ!

 何で俺がこんな事を聞いたかと言えば、どうにもあの昇級試験から……四日目位か?

 とにかく、その辺りからリーリエとアリアの行動に何か妙な物を感じていた。例えば俺と目が合った時に顔を赤くして目を逸らしたり、俺の手を物欲しそう……あるいは切ない目でチラチラと見たりしている事が多々あった。


 そこから察するに、昇級試験から三日目の夜に何かあったらしい。らしい、と言うのは俺が記憶している限り、その日の夜はいつも通りに床に入って次の日も普通に目覚めた記憶しか無いからなんだが。だから、具体的に何が起こったのかは分からない。

 ただ、目が覚めた時妙にシーツが乱れてたんだよな……極めつけは、部屋の中にリーリエとアリアの匂いが残っていた事が引っ掛かる。就寝中に何かあったら、俺は瞬時に覚醒する事が出来る筈なんだが……特に目が覚める事は無かったんだよなぁ。

 しかも起きてから食堂に降りてったらアリーシャさんに無言で頭引っ叩かれるわ、リーリエとアリアが俺の顔を見た瞬間に真っ赤になってポカポカと胸を叩いて来るわで散々だった。


「そんなに動揺したら説得力が無いぞ……もしかして、試験から三日目の夜に俺の部屋でなんかあったか?」

「な、何でそう思うんです?」

「いや、朝起きたら部屋にリーリエとアリアの残り香があったから」

「気のせいです!」

「えぇ……」


 んな訳ないだろ! 普通は感じ取れないドラゴンの匂いを嗅ぎ分ける俺の嗅覚を舐めて貰っちゃ困る!


「どうしても教えて貰えないか?」

「うっ……そ、その内お話します……」


 それきり、リーリエは俺から目を逸らしてしまった。うーん、これ以上は何も答えてくれなさそうだな。仕方ない、この辺で引き下がろう。

 だが、何故かリーリエの言う“その内”は永遠にやって来ない様な気がした。


「……分かった。二人が教えてくれる気になったら、改めて聞くよ――っと、着いたな」


 丁度良いタイミングで、俺達はギルドに到着した。さてさて、どうなったのかね。


 ◇◆


「よく来た、二人とも。まぁ座れ」


 ギルドマスタールームに入ると、ガレオがデスクの向こうから声を掛けて来る。その後ろには、アリアも立っていた。

 促されるままに、俺とリーリエはガレオの正面に備え付けられた椅子へと腰を下ろした。


「さて……それじゃあ、お前達が今一番気になっている事についてから話そうか」

「それは、昇級試験の結果って事でいいのか?」

「そうだ」


 そこでガレオは居住まいを正して、ギルドマスターに相応しい威厳を身に纏いながら口を開いた。


「白等級スレイヤームサシ・リーリエ――両名の昇級を認める。おめでとう、二人とも」

「ッしゃあ!!」

「やった!」


 俺は腕を突き上げてガッツポーズをし、リーリエは小さく拳を握って顔を綻ばせる。


「おめでとう御座います。ムサシさん、リーリエ」

「おう!」

「はい!」


 笑みを浮かべながら讃えてくれたアリアに、俺とリーリエは笑顔でサムズアップをする。そんな俺達の様子を見たガレオが、やれやれと言った表情を浮かべた。


「さて、お前達はめでたく白等級を卒業する訳だが……実は、ちょいと二人に確認したい事がある」

「ん?」

「何でしょうか」


 そう言って、ガレオは手元からある物を取り出す。

 それは、俺達の新しい等級認識票(タグ)……だと思うんだが。


「……何で四色の等級認識票(タグ)があんの? それぞれに俺達の情報まで彫ってあるし」

「……どういう事ですか? ギルドマスター」


 俺達が困惑するのも当然だ。何故なら、順当に行けば俺達は一つ上の黄等級に上がる訳だから、等級認識票(タグ)は黄色の物一つでいい筈。

 それが、黄色以外にも赤、青……紫まである。どういうこっちゃ?


「今回の昇級試験の件を中央で報告した時に、二人の昇級について許可を貰った訳だが……その時に、評議会のジジイ共が「二人は黄等級では無く紫等級にするべきだ」って言ったんだよ」

「……ハァ!?」

「む、紫ですか!?」


 ガレオの言葉に、俺達は思わず大きな声を上げる。

 おいおいマジかよ……確かに俺達は、本来なら紫等級スレイヤー数人で相手をするディスペランサを二人だけで討伐した。だが、その功績を踏まえて飛び級させるとしても、いきなり最高位まですっ飛ばすってのは幾ら何でもやり過ぎだ。紫等級の価値落ちんぞ?


「オレは反対したんだがな。幾らあのディスペランサを討伐したからと言って、それまで白等級だった者を一気に紫等級まで上げるのは勇み足だってな」

「当然だな。リーリエはともかく、スレイヤーになって日が浅い俺を紫まで上げるなんて馬鹿げてる」

「わ、私だってムサシさんと同じですよ!? そんな、いきなりスレイヤーの最上位まで等級を上げるなんて……」


 俺達二人の態度に、ガレオは「だよな」と言って溜息を吐いた。


「お前達ならそう言うだろうと思ったから、オレは限界まで粘った。で、最終的には二人に選ばせるって事で話を付けたんだ」

「その結果が、この四色の等級認識票(タグ)って訳か」

「そう言う事だ。さて、ここから先はお前達二人の選択肢次第になる訳だが……どうする?」


 ガレオが俺とリーリエの前に、四つずつ等級認識票(タグ)を並べる。俺とリーリエは顔を見合わせ、お互いにコクンと頷き合った。


「そんなん決まってるだろ」

「はい。私達が選ぶのは……」


 そう言って俺達が手を伸ばして掴んだのは――黄色の等級認識票(タグ)だった。


「……いいのか? ジジイ共に反対しておいて何だが、紫等級ってのは普通に目指すと膨大な実績と時間を要する。今回みたいな機会は、まず巡って来ないぞ」


 確認する様に聞いてきたガレオに、俺は不敵な笑みと共に宣言する。


「構わねえよ。俺達はそう言う特例みたいなもんは使わずに上を目指す。険しい道だろうが、そうやって苦労して辿り着いた頂にこそ価値があるってもんだ」

「ムサシさんの言う通りです。時間は掛かるかもしれませんけど……私達は、それぞれが目指す目標に一歩一歩地面を踏みしめながら向かって行きます」


 その答えを聞いたガレオが、しばし俺とリーリエの瞳を見る。そうした後、その顔に薄く笑みを浮かべた。


「分かった。お前達がその選択肢を選んだのなら、オレはもう何も言わん……ムサシ、リーリエ。改めて、白等級から黄等級への昇級、おめでとう」


 俺達の前から残された三色の等級認識票(タグ)が回収され、黄色の等級認識票(タグ)だけが手の中に残る。


 一番下から一つ上がっただけの色だが、俺達にとってはとても大きな一歩を表す色だった。


「にしても、ガレオって紫等級の割には年食ってないよな」

「ん? まあオレは天才だからな、白から紫まで一息で駆け上がったんだよ」

「腹立つわぁコイツ!!」


 自分で天才とのたまうとは、流石ガレオだ。この野郎めが!


「あ、そう言えば」


 そのガレオが、何かを思い出したのかポンと手を叩いて俺達を見る。


「お前達さえ良ければ、ディスペランサ討伐の功績を讃えて専属受付嬢を付けられるんだが……どうする?」

「え、なんぞそれ」

「それについてはワタシから説明します」


 そう言って、アリアがガレオの後ろから歩み出て来る。心なしか、その表情は少し緊張している様に見えた。


「専属受付嬢と言うのは、ある特定のパーティー付きの受付嬢の事です。専属受付嬢が付いたパーティーは、クエストの受注処理、報告書作成などを全てその受付嬢に受け持って貰う事が出来るんです。なので、総合受付の窓口に並ばずとも迅速にクエストに出発できますし、帰還してからの書類作成等もしなくて済むようになります」

「へぇ、随分と便利なシステムだが……それ、受付嬢側にメリットあんのか?」

「勿論あります。専属受付嬢になればクエスト関係の書類の処理等はそのパーティーが受けた物だけ行えばよくなりますし、ギルドから手当ても付きます。あと、基本的に自分が受け持っているパーティーに関する仕事が最優先なので、他の雑事に駆り出されるという事も無くなりますね」

「成程。スレイヤー側は効率的にクエストを進められるようになって、受付嬢側は一つの仕事に集中できる様になって給料も上がる……お互いにwinwinって訳か」

「そうですね。それで、その……」


 そこまで説明して、アリアはそわそわとし始める。いつもは見られないその姿に、俺は「ああ、成程」と思った。

 これはつまり、()()()()()なんだろうな。


「アリア、俺とリーリエの専属受付嬢になってくれないか?」

「えっ!? その……良いんですか?」

「おう。寧ろアリア以外には頼む気にはならんね……リーリエはどうだ?」

「もちろん大歓迎ですよ! アリアさんが私達の専属受付嬢になってくれるなら、凄く頼もしいです!」

「だそうだ。お願い出来るか?」

「……分かりました。不束者ですが、末永くよろしくお願いします」


 そう言って、アリアは深々と頭を下げる。

 別に頭を下げて貰うような事はしていないんだが……にしても、そのセリフだと嫁入りみたいに聞こえるぞ、アリア。


「にしても、専属受付嬢か……今までギルドの中でそれっぽい人は見た事無かったけど、単に俺が気付かなかっただけか?」

「いえ、ムサシさんの記憶は正しいと思います。恐らく、このギルドではワタシが初めての専属受付嬢でしょうから」

「えっ、そうなん!?」

「はい。そもそも専属受付嬢が付くのは、効率良くクエストをこなして貰えればそれだけギルドに対する見返りが大きいパーティー……即ち、上級者パーティーに付くのが普通ですから」

「マジか……リーリエ、知ってた?」

「い、いえ。専属受付嬢と言うシステムがあるのは知っていましたけど、そこまで踏み込んだ事は何も」


 うーん、そうなると俺達みたいな黄等級成り立てのスレイヤーに、アリアの様な有能な人材がいきなり専属受付嬢として付くってのはどうなんだ?


「等級に見合わない、なんて考えてるのなら気にしなくていいぞ。このギルドに今のお前達以上のパーティーなんざ正直居ないからな」


 俺の懸念を見透かした様に、ガレオが椅子に座ったままヒラヒラと手を振る。微妙に腹立つな。


「それは嘘だろ? ディスペランサ討伐の時に、それなりの人数の青等級スレイヤーを討伐隊として連れて来たって言ってたやんけ」

「確かにそうだが、あいつ等が所属してるパーティーの中で、お前達がやった様にディスペランサを討伐出来るパーティーなんざ一つも無いんだよ。だから必然的にお前達のパーティーがこのギルドで一番のパーティーって事になる。等級に関係なくな」

「成程……だったら、アリアは遠慮なくウチで独占させて貰うぞ」


 そう言って、俺は近くに居たアリアの体を引き寄せた。


「アリアもそれでいいよな?」

「は、はい……」


 腰に回された俺の手に自分の手を重ねながら、アリアがほんのりと頬を朱に染める。いい……表情です。


「……むー!!」

「おっと、スマンスマン」


 そんな俺とアリアを見て頬を膨らませたリーリエを、慌ててもう片方の手で引き寄せた。ふはは、どうだガレオ。羨ましいだろう?


 しかし、ガレオは俺よりも一枚上手だった。


「ゴリラが両手に花持つとか、中々シュールな絵面だな」

「誰がゴリラじゃコラァ!!」

「お前意外誰が居るんだよ……取り敢えず、乳繰り合うなら別の場所でやってくれ。一応、ここは公的な場所だからな」


「乳繰り合ってはいねぇ!」

「乳繰り合ってないです!」

「乳繰り合ってはいません!」


「息ぴったりだな。あと声がデカいぞ、全部廊下に通ってる」

「「「…………」」」


 ◇◆


 ギルドマスタールームを後にした俺達は、一階にある専属受付嬢用の窓口へと足を運んだ。

 総合受付から少し離れた場所にあったそこは、長い間全く使われていなかったと言う事もあり、中々に埃が溜まっている。


「これは……掃除だな!」

「ですね。アリアさん、私達も一緒に手伝いますから、ここを綺麗にしちゃいましょう」

「それは助かりますが……いいのですか? お二人とも、他に用事などは」

「いえ、今日は元々クエスト受けるつもりは無かったので問題はありません……よね? ムサシさん」

「おう、全く問題無し!」

「分かりました。では、お言葉に甘えさせて頂きます」


 そうして、俺達はギルドに備え付けられている掃除道具を取りに行く。さて、新しい門出を気持ちよく迎える為にもきっちりと綺麗にしようか。

お読みいただきありがとう御座います。

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