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第34話 青天の霹靂

 今日も今日とて晴天也。真上に昇った太陽の日差しが眩しい。

 人が街を行き来する中に、俺も混じって歩を進めていた。


 ……そう、今日は以前リーリエと取り決めた休業日なのだ。なので、クエストは無し! そして、俺はこの日を使ってある物を受け取る為に、一人で≪竜の尾(ドラゴンテイル)≫に向かっていた……筈なんだけどなぁ。


「あの……お嬢さん方? 一人で大丈夫って言ったのに、何で付いて来たの?」


 困惑する俺をよそに、二人――リーリエとアリアは、何食わぬ顔で俺の両隣を歩いている。しかも、ご丁寧に腕を絡めて、だ。


「付いて来たんじゃありませんよ。偶々ワタシとリーリエの向かう先が、ムサシさんと同じ方向なだけです」

「そうです。だから気にしないでこのまま歩いて下さい」

「えぇ……」


 絶対嘘だ……よしんば同じだとして、何で俺の出発時間に合わせたんだ? そしてなぜ腕を組む?


「……それより、ワタシ達の姿を見て何か感想はありませんか?」

「そ、そうです!」

「感想? ……あっ」


 一瞬何の事か分からなかったが、二人の出で立ちを見てすぐにその意味を理解する。


 今日の二人の装いは、いつもの見慣れた物ではなかった。


 リーリエは魔導士(ウィザード)の防具を身に着けた姿ではなく、コバルトブルーのバイカラーキャミソールに淡い水色のカーディガンを羽織り、下は白のロングプリーツスカートを穿いている。靴はオレンジのパンプスで、肩には黄色のトートバックを下げており、長い金髪は首の辺りで一纏めにされていた。


 一方のアリアも、ギルドの制服姿では無い。ヘアスタイルはいつもと変わらず、服装はノースリーブの白いブラウスに、脚のラインに沿ったハーフアップの紺色のパンツ。靴はヒールの高いブラウンのレースアップサンダルで、桃色のショルダーバックを肩から下げている。


 イメージで言うなら、リーリエはゆったりとした可愛い系で、アリアはぴしっとした綺麗系だろうか。

 ……異世界のわりに随分とカジュアルだなオイ! 素晴らしい!!


 リーリエもアリアもなまじスタイルが良くて美人なだけあって、そうしたシャレオツな服もバッチリと着こなしていた。さっきから街の男共が二人へと熱い視線を向けているのが分かる……俺もその一人だがな!


「あー……えーっとだな」


 両脇から俺を見上げる二人の顔をちらちらと見ながら、必死で頭を働かせる。


 ……まいった、本当にまいったぞ。これ、どうやって褒めりゃいいんだよ! 俺はこういう事には疎いんだよ。元の世界に居た頃は、そりゃ女友達は数人いたよ? でもそれはあくまで友人であって、服装の感想を聞かれるような間柄じゃなかったんだよ! 彼女いない歴二十八年を舐めんじゃねぇ!


「……二人とも、よく似合ってる。思わず見惚れちまうくらいだ」


 悩みに悩んだ挙句、出てきた感想は凄ぇ月並みなものだった。女の子にモテる世のイケメン君のような気の利いた誉め言葉は、出てこなかったよ……。


「ほ、本当ですか? 変じゃありませんか?」

「変な所なんてどこにもないぞ、リーリエ。めっちゃ可愛い」

「やった!」

「アリアも、よく似合ってる。ザ・クールビューティーって感じで、凄くキレイだ」

「っ、あ……ありがとう、御座います」


 俺が咄嗟に絞り出した感想を聞いた二人は、ほんのりと頬を朱に染めながら、はにかむ様に笑った。こ、こんなもんで良かったのか?


「しかし、アレだな……二人に挟まれてるのが俺じゃ、折角の絵面が台無しだな」


 ハハハ、と乾いた笑い声を上げながら俺は肩を落とす。だって、今の俺はいつも通りの黒つなぎ姿だからな……服なんてこれしかないし、あまつさえこの風貌だ。……あれ? これって、ガラの悪い大男が美女二人を両脇に侍らせてる図になってねぇか? 衛兵呼ばれたらアウトじゃね?


「そんな事無いですよ、ムサシさん。私もアリアさんも、ムサシさんの前だからこう言う格好をしているんですから」

「リーリエの言う通りです。ムサシさんが落ち込むような事は何もありません」

「そ、そうなの?」

「「はい!」」


 マジか……おいおい、勘弁してくれよ。そんな事言われたらおっさん色々と勘違いしちまうよ……それと、さっきから俺に向けられる周りの視線が痛ぇ。もう嫉妬とかじゃなくてガッツリ殺気向けられてるんだよなぁ。


「あの、二人とも。もう少しだけ俺から離れちゃくれないか? さっきから視線が……」

「いいじゃないですか、見せつけてあげれば」

「アリア!? 何言ってんの!?」

「そうですよ、『へへーん、羨ましいだろー!』って」

「リーリエまで!?」


 俺の抗議などお構いなしに、リーリアとアリアはより一層強く腕を絡めてくる。いつの間にか、恋人繋ぎまでしちょるよこの二人!


「……ムサシさんは、私達と一緒にいるのは嫌ですか?」

「え? それは無いな。気恥ずかしさこそあるが、だからっつって嫌だなんて思う訳がねぇ」


 そこは、断言しておく。ていうか、この状況で嫌なんて言える男はおらんでしょ。


「じゃあ、問題ありませんね」

「ア、アリア? 嫌じゃないとは言ったけどもよ……あっ、胸! 二人ともめっちゃ胸当たってる!」

「「っ!」」


 咄嗟にした俺のゲスい指摘に、二人はハッとしたように顔を赤らめた。よし、これでもう少し離れて……。


「「…………」」

「あの、君達? 何で更に胸押し付けてくるの? 普通は恥ずかしくて腕離したりしない?」

「む、ムサシさんが相手なら……私は、恥ずかしくないです」

「右に同じく」


 ……それは、いかんだろ。

 リーリエとアリアの言葉を聞いた俺は、足を止めて二人をそっと腕から引き離して、正面から真っ直ぐに二人を見つめる。


「……あのな、二人とも。そんな事を軽々しく言っちゃダメだ。俺は男だから、そういう事を言われたら自分に気があるんじゃねぇかって、どうしても勘違いしちまう。そういうのは、いらぬ問題を――」


「――っ、気が無い人に……好きじゃない人に、こんな事言いません!」


 リーリエが放ったその一言は、俺の思考を停止させるのに十分だった。


「……リー、リエ?」

「……本当は、もっと時間を掛けてから伝えようと思ってました。ムサシさんに、もっと私の事を知って貰ってからって……でも!」


 でも……と小さく繰り返しながら、リーリエは言葉を続ける。


「もう、待てません。ムサシさんが『勘違いしてしまう』って言った時……私の()()が、外れてしまったんですよ」

「リーリエ……」

「――好きです、ムサシさん。貴方の事を、一人の男性として……愛しています」


 そう言ったきり、リーリエは口を噤んでしまった。俺は……リーリエの言葉を、頭の中で反芻していた。


 ――いつからだ? 一体いつから、リーリエは俺にそんな感情を抱いていたんだ?


「……ムサシさん」

「アリア?」


 立ったままのリーリエの肩を後ろから優しく抱き寄せたアリアが、澄んだ瞳でこちらを見つめてくる。その群青色の向こうには、確固たる決意の色が見て取れた。


「この前、ワタシとリーリエが二人で喫茶店に行っていたのは、知っていますよね?」

「……ああ。≪ビルケ大森林≫のクエストから帰って来た後だろ?」

「はい。……あの時ワタシ達は、ムサシさんの事でお話をしていたんです」


 そうしてアリアが語り出したのは……俺が知らない、二人だけの間で交わされたやり取りの事だった。

お読みいただきありがとう御座います。

面白いと思って頂けましたら、是非評価・感想・レビューを宜しくお願い致します。

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