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第14話 初めてのクエスト、初めてのブチ切れ

≪月の兎亭≫で朝食を済ませた後、俺とリーリエはギルドに向かっていた。

 朝の件もあり、最初はお互いになんだかぎこちなかったが、ギルドに着く頃にはいつも通りのやり取りが出来るようになっていた。

 まだ八時ちょい位だが、ギルドの中は既に多くのスレイヤーで賑わっていた。


「――あら、お二人ともお早う御座います」


 ギルドに入った俺達に声を掛けてきたのは、俺のスレイヤー登録を担当したアリアさんだ。その手には、何やら大量の書類を抱えている。


「ウッス、お早う御座います」

「おはよう御座いますアリアさん。それは……依頼書ですか?」

「ええ。全て受注期限切れの依頼書で、これ以上クエストボードに貼っておく事が出来ないので纏めて処理しているんです」


 そう言って一旦手近な机に依頼書を置いたアリアさんは、そこから数枚を抜き取って見せてくれた。

 成程、確かに見せてもらった物は全て色褪せ紙が変色しており、中々の年季を感じさせる。つまりこれらは、発注されたのはいいものの、長い期間誰も受注しなかったクエストという事か。


「にしても数多いっすね」

「ええ、ある程度枚数が溜まってから一気に処分する事になっているので……よいしょっと」


 積み重ねられた依頼書を再び持ち上げ、アリアさんはカウンターの方へと向かっていった。


「……ギルド職員って大変ですね」

「だなぁ。あの依頼書だって一度は全部目を通してる訳だろうしな……さて、俺達は俺達の仕事を始めるとしますか」

「ですね」


 心の中でアリアさんにエールを送りつつ、俺達はクエストボードの前へと足を運んだ。


 ◇◆


「あっ、これなんかどうですか?」

「どれどれ? ……ふむ、廃鉱の調査及びそこに住み着いた敵性生物の排除か」

「はい。白等級の私達でも受注できますし、初めてパーティーを組む私達にとっては連携の確認も出来るうってつけのクエストだと思います」


 確かに。俺もリーリエも共闘の経験は全く無い。

 これからパーティーとして活動していく以上、俺達はお互い何が出来て、何が出来ないのか。出来ない部分をどうやって補い合うのかを考えなくてはならない。

 そしてこの先、様々な相手との戦いの中でスムーズな連携が取れなかったらそれは命に係わる。


「よし、これで行こうぜ。さっそく受付に――あん? なんだアレ」


 意気揚々と受付に向かおうとした時、そこでアリアさんと見知らぬ男が話している光景を目にした。

 いや、正確に言えばアリアさんに対してその男が一方的に話しているというか……しかもその内容がどう考えてもスレイヤーの業務関係の事じゃないぞ。


「あれは……赤等級スレイヤーのジークさんですね」

「有名人か?」

「悪い意味で、ですけどね」


 嫌なものを見るような目で、リーリエが溜息を吐く。リーリエがこんな顔をするとは……あの優男、相当ろくでもない男らしいな。


「彼、ああやって自分が気に入った女性をいつも口説いているんです。それでその……口説き落とした女性を自分の周りに侍らせているといいますか何というか」

「えぇ……じゃあ何か、今アイツの後ろにいる五人の女は」

「はい、彼に口説き落とされた女性スレイヤーです」

「マジかよ……」


 まぁ確かに顔はいわゆるイケメンの部類に入るだろうし、肩書も赤等級だもんなぁ。釣られる女性は多そうだな。現に見える範囲で五人いるし……アリアさんには全く相手にされてないようだが。


「うーん、しかしこのままずっと眺めてる訳にもいくめぇよ。助け舟を出しに行こう」

「ムサシさんならそう言うと思いましたよ。アリアさんも困ってるみたいですし」

「よく分かっていらっしゃるじゃないか。まぁ俺に任せとけ」

「……何ででしょう、凄く嫌な予感がします」


 若干顔が引きつってるリーリエと共に、俺はズンズンとアリアさんとイケメンがいる受付カウンターへと近づいて行った。


「――ですから、今は業務中ですのでそう言ったお話をするのはやめて下さい。他の方に迷惑です」

「おや、それは仕事が終わったらボクの話を聞いてくれるって事かな?」

「お断りします。業務が終われば貴方とは受付嬢とスレイヤーという関係ですらなくなります。赤の他人の下らない話に付き合う義理はありません」

「そのいつもと変わらないクールな態度もステキだね、ますます――」


「おう邪魔だモヤシ野郎、そこ空けろや」

「グヘェアッ!?」

「「「「「ジークくん(さん)!?」」」」」


 ナンパを続けようとするイケメンを、歩くスピードをそのままに胸筋アタックで吹き飛ばす。

 突然横から襲った衝撃に、イケメンはあっけなく吹き飛んで地面を転がっり、その取り巻きの女の子達が慌ててその傍に駆け寄った。


「ム、ムサシさん?」

「ごめんなぁアリアさん。書類整理で忙しい所悪いんだが、クエストを受注させてくれ」


 そう言って俺はリーリエと選んだ廃鉱調査の依頼書をカウンターに提出する。一瞬ポカンとしたアリアさんだったが、吹っ飛んだイケメンをちらりと一瞥すると、俺達を見て僅かに微笑んでから依頼書を受け取った。


「……はい、分かりました。こちらの仕事もひと段落ついていますし、()()()からも解放されましたからね」

「よっしゃ! リーリエ、さっそく準備して行こうぜ」

「そうですね。……アリアさん、大丈夫でしたか?」

「えぇ、貴女の相棒(バディ)のおかげで助かりました」

「あはは、かなり強引な解決方法でしたけどね……」

「いいじゃないですか、彼らしくて。あ、もしこの事でジークさんに何かされたら遠慮なく言ってくださいね? ギルドで何とかしますから」

「そうして貰えると助かります。ムサシさんにも伝えておきますね」


 小声で話しながら苦笑しているリーリエさんとアリアさんを見て俺は思う。


 ……美人二人がああやって話していると絵になるなぁ。


 ◇◆


 ギルドを出た所で、俺達はこれからの予定を立てる。


「まずは馬車の手配ですね。目的地の廃鉱はミーティンから大分離れているようなので」

「オッケー。ちなみにどの位かかりそう?」

「休憩を挟んで二日ほどでしょうか……」

「成程、魔の山よりは近いんだな」

「みたいですね。あとは持ち込むアイテムを用意してそれから――」


「待て、そこの二人! 特にそこのデカブツ!!」


 リーリエと歩きながら話し合っていると、後ろから怒声が聞こえてくる。


「で、アイテム用意した後に馬車乗って目的地に向かうと。道中の野営はどうするんだ?」

「個人で野営セットを持ち込むことになりますね。ですので食料と水も用意しましょう」

「了解。どうせなら外でも美味いもん食いたいな――」


「オイ! ボクの声が聞こえていないのか!?」

「聞こえてねーよ」

「聞こえてるじゃないか!?」


 ……チッ、俺達の最初の一歩に水を差そうとする輩がいるなぁ。


「……で、何か用か?」


「何か用か、だと? このボクにあんなマネを働いておいてタダで済むと思っているのか?」

「そうよ! ジーク君に謝りなさいよこの野蛮人!」


 おうおう、アリアさんの業務妨害やってた野郎とその取り巻きが何か言ってんなぁ? 聞く価値もねぇ。


「……行きましょう、ムサシさん。こじれるようならギルドが何とかしてくれるそうなので」

「マジ? じゃあ相手にする必要はないな。行こ行こ」


「なっ、貴様!」


 おこから激おこに状態変化したイケメン……いや、こいつの事はモヤシ野郎と呼ぼうか、貧弱な体つきだし。そのモヤシ野郎が俺達の前に立ち塞がった。


「さっきから黙って聞いていれば、付け上がり……おや、そこの彼女はよく見たら随分と綺麗な人だね。どうだい、そんな男の元ではなくボクのパーティに入らないか?」


 リーリエの顔を見た瞬間、怒りに染まっていた顔が即座にイケメンスマイルへと切り替わる。分かりやすい上に変わり身早ぇなオイ!


「え~やめた方がいいよジークくん」

「そうですよ。彼女は”能無し”のリーリエ、ワタシ達のパーティーに入れても役には立ちませんよ」


 ……あん? ()()()()()()()()()()


「何? そうなのかい?」

「そうッスよ。使えるのは光魔法と闇魔法だけで、火力は皆無。そのせいで誰にもパーティーを組んでもらえず、付いたあだ名が”能無し”ッス」

「そうそう。って言うか、いくらパーティーが見つからないからってそんな人と組むなんて」

「よっぽど焦ってるんでしょうねぇ。ま、リーリエさんにはお似合いじゃないですかぁ?」


「……ッ」


 取り巻きの女共の嘲笑が聞こえ、それを受けてギュッと拳を握り締めるリーリエの姿が見える……あぁ、こりゃダメだ。



「――黙れアバズレ共」



 自分でも驚くほど冷たい声。この世界に来て初めて――俺は()()()

お読みいただきありがとう御座います。

面白いと思って頂けましたら、是非評価・感想・レビューを宜しくお願い致します。

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