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山育ちのドラスレさん ~異世界でドラゴンスレイヤーとして生きていく~ 作者:茂野らいと

第1章 野人と少女

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Prologue…こんにちは異世界

「――えっ、何だこの場所」

 突然目の前に現れた光景に、俺――鏑木武蔵(かぶらぎむさし)の思考は停止した。
 さっきまで立っていた場所は、家の近所にある神社の参道だったハズだ。大学受験を控えていた俺はそこで合格祈願をして、家に帰ろうとしていた所だった……と思う。

「どういうことなの……なんで俺はこんな見知らぬ山の中に立ってるの……」

 いやマジでどういうことだよ、俺がいたのは町中にある神社だぞ。それが鳥居をくぐった瞬間に突如鬱蒼とした木々が広がる空間になるとか全くもって意味が分からない。

「勉強疲れで夢でも見てんのか俺は? もしくは神隠し的な何か?」

 自分の頬が引きつっているのを感じる。今の俺はさぞ間抜けな表情を浮かべているだろう。

「と、取り敢えず引き返す感じで――」

 そう呟きながら後ろを振り返る。しかし、そこには先程まで自分がいた神社は跡形も無く、同じような木々が生えている光景が広がっているだけだった。

「冗談だろオイ……ハッ!? これが噂に聞く異世界転移――」

 現実逃避をするために荒唐無稽な事を口走ったその瞬間。

「グルルルルル……」

 木々をかき分ける音、そして聞いた事のない重々しい鳴き声のようなものが聞こえ、ハッとしてその方向へ首を向けた。

「――――ッッ!!」

 その正体を確認した瞬間、全身に鳥肌が立つと同時にぶわっと冷や汗が噴き出した。

「きょ、恐竜……?」

 そう、目の前に現れたのは図鑑や映画で見るような恐竜……正確にはティラノサウルス()()()()()()だった。
 四メートルを優に超える体高、こちらを見据える金色の瞳。その口からは無数の白い牙が見える。
 その身体は濃緑の外殻に覆われており、要所要所がまるで刃物や棘のように発達している。
 形こそティラノサウルスに似ているが、その姿は俺の知っているものとは大きく乖離していた。

「これは……ガチのマジで異世界か何かなんじゃ――」

 じりじりと距離をとるように後ろへと下がる。俺のその姿を金色の双眸が見据えた次の瞬間――

「ギャオオオオオオオオオオオオオン!!」

 耳をつんざく凄まじい咆哮が辺り一帯に響き渡った。方向の衝撃で回りの木々は悲鳴を上げ、ビリビリと空気の振動が俺の全身を包む。
 その瞬間に理解した……理解してしまった。

 今自分に起こっている現象と目の前の光景。これは紛れもない――現実だ!

 ヤツがの咆哮が鳴りやんだ瞬間、俺は一目散に逃げだした。なんでこんな事になってるんだとか、異世界がどうとかなんて言う考えは一瞬で脳からはじき出される。
 今やらなければならない事は全力でヤツから逃げる事。なりふり構わず、全力で走る事だ!

「ぬおおおおおおおおおおおおお!」

 走る、走る、走る!! 後ろからズシンズシンと大地を震わせながら追いかけてきている音が聞こえるが、絶対に振り向かない。振り向いている余裕なんてない!
 馴れない山中をがむしゃらに駆けていく。学校帰りだったため服装は制服、靴はローファーだ。走りにくい事この上ない。
 だがそんな事は気にしていられない。足を止めた先に待っているのは確実に死だ。
 そこら辺から生えている小さな木や草、不安定な足場に足をもつれさせながらも全力で斜面を駆け降りる。

 肺が苦しい、心臓が痛い。急激な運動で身体が悲鳴を上げる。痛みと恐怖で涙と鼻水が止まらない。きっと俺は今とんでもない顔で走っているだろう。

 どの位走ったのか、不意に視界が開ける。そこは先程までの木々が生い茂っている場所ではなく、ゴツゴツとした岩肌が広がる場所だった。

 急に風景が変わったことで一瞬足が止まったが、その時にあるものを見つける。
 むき出しになった岩肌の一角。そこに人一人がちょうど通れるくらいの穴が開いていた。
 背後からバキバキと木々をなぎ倒す音と鳴き声が聞こえてくる。迷ってる暇は無い。
 俺は駆けだす。もう体中痛いけど気合で痛みを無視してその穴を目指した。

「だっしゃあああああああ!」

 最後の力を振り絞って全力でその穴に駆け込む。その際に足を引っかけてゴロゴロと転がりながら穴の奥に吹っ飛んでいく羽目になったが、即座に身を起こして尻もちを搗きながら奥へと後ずさる。
 次の瞬間、入口からヤツが轟音と共に頭を突っ込んできた。ビキビキと岩が砕ける音がしたが、どうやらそれ以上こちらには来れないようだ。

「グルルッ!」

 目の前でガチンガチンと俺を喰らおうとする顎が開け閉めされる。しばらく同じ事を繰り返した後、これ以上は無駄だと判断したのか、ヤツは恨めしそうな視線を向けながら頭を引き抜いた。
 そうして穴の入り口付近をしばらく歩き回った後、やがて足音を響かせながらゆっくりとヤツはどこかへと消えていった。

「ハッ、ハハハッ。やった、やったぞ! 俺は生き残ったぞこの野郎!!」

 脅威が去ったことで、全身から力が抜ける。仰向けに倒れながら俺は笑っていた。顔からは相変わらず涙と鼻水が流れていたが、それでも笑わずにはいられなかった。
 突然訳の分からない世界に放り込まれ、訳の分からない生き物に追いかけられた。喰われかけながらもなんとか逃げおおせた俺は、生き死にの狭間に身を置いていたにもかかわらず、不思議と高揚感に包まれていた。

 ――ああ、そうか。これが()()()って事か。

 思えば俺はこれまでの人生を漠然と過ごしていた気がする。適当な高校に進学して、適当な大学に行き、適当に生きていく。
 そこに目的なんてものは無くて、ただそうやって生きていくんだろうなと思っていた。

 だが、こうして命の危機に瀕した今ならわかる。今までの自分がどれだけ人生舐め腐っていたか、どれだけ平和に生きていられる事が素晴らしい事なのかを。

 きっとこの世界は地球よりもかなり過酷な世界だと思う。あんな化け物が跋扈しているくらいだ、きっと命の重さも住んでいた日本に比べれば驚くほど軽いのだろう。
 喰うか喰われるか。弱者は強者の餌。そして俺は、この世界のヒエラルキーで言えば間違いなく最下層付近だろう。
 強くなければ、戦わなければ生き残れない。だったら――

「……上等だよクソッタレ。やってやろうじゃねえか、強くなってやろうじゃねえか」

 そう、強くなればいい。強くなれば喰われない、喰らう側に回れる。生き残る事が……出来る。
 この時点で俺の中からはどうやったら元の世界に戻れるかだとか、何がどうしてこうなってしまったのかなんて考えは無くなっていた。

「まずは兎にも角にも体鍛えねえとな。この貧弱な身体じゃお話にならねえ。ああ、あとは食料の確保……木の実でも魚でも、鼠でもいい。住居の確保にあとは――」

 息を整えながら思考を(はし)らせる。幸いこの辺りはデカい山の中らしいので、このまま山籠もりをして心身ともに鍛えていこう。当然危険も伴うだろうが、むしろその方がいい。過酷な環境でなければ意味がない。
 しかし、ここにはさっき出会ったような大物……うん、ドラゴンと呼ぼうか。少なくとも恐竜ではないな。
 そのドラゴンも住んでいるようなので、細心の注意は必要だろう。強くなる前にパックリいかれたら全てが無駄になる。


 ――そうして生きていく覚悟を決めた俺は生活を始める。その生活の中で何度も何度も死にかけながら山での暮らしを続け、気が付けば十年の月日が経っていた――

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