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09・考えるな 感じろ



せっかく お風呂に入って 着替えたシャルロットに

また前の薄汚れた格好をさせるのも忍びなかったので

僕のフードマントを羽織らせることにした。


僕が この街に来る時に身に着けていた物で

異世界に最初に来たときに お世話になったハーフエルフの隠れ里の人達の餞別だった。

新品じゃ無かったし旅の間中ずっと着ていたから

すっかりくたびれてしまってるけど 僕にとっては 大切な品物だった。


シャルロットが 僕の街に来る前に 仕事探しをしてた場所、

シルトという街に向うべく3人でイザベルの馬車に乗り込んだ。

イザベルが 御者のひとに行き先を告げる。


「少し急げば シルトなら3時間くらいで着くと思いますよ?」


この辺りに詳しい御者さんがおしえてくれた。

(その距離ってお腹を空かせた15歳の女の子だとどのくらいかかったんだろう)


そんなことをふと思っているとイザベルが 鼻をクンクンさせながら話しかけてきた。


「ねえ、このふんわり香るいい匂い、さっきのトールの店でも匂ってたけど

トワレ?コロンかしら?もっと薄いわよね?トールが 使ってるの?」


僕には 香水をつける習慣は無い。

これは さっきシャルロットが 入ったお風呂のシャンプーの残り香だ。


「あ、イザベル様!多分それ『しゃんぷ』の匂いです!

トール様のお風呂にあって…髪とかすっごくキレイになるんです!

洗ったあとも優しい香りが残って…

やっぱり貴族様方が お使いになる様な品物だったんですか?」


お風呂場の品々の事は、シャルロットに あえて口止めとか して無かったけど


現代日本への『帰省能力』は僕だけの秘密だ。

どう考えてもトラブルの元になる。


親密になった顧客に 故国ニホンの希少品として プレゼントしたりするくらいまでにしている。


「トール!他にもニホンの稀少品が あったの⁈

お金は 払うから絶対教えてって 言っておいたじゃない!」


「あ、ごめん これは ホントに自分用に使ってたヤツで

イザベルみたいな貴族様が使う物じゃなかったし……」


確かに 上顧客のイザベルには 日本からの品物を何点かオマケとして渡していたし

『オマケの方が価値がある‼︎』とか

僕の仕立てた服を前にして言われたこともあったくらいに……


まったく 失礼なくらいオマケにご執心なのだ。

僕の服は お菓子やCDか?って


「分かった 今度手に入ったら真っ先にイザベルにプレゼントするから!ね?

そんな顔してたらせっかくの美人が 台無しだよ?」


「え? ま、まあ…そういことなら?…」

褒められるコトには慣れてる筈の貴族令嬢だけど 意外とチョロかった。


それともいつも乗せられたフリで許してくれてるのかもしれない……

頭のイイ子だから……


「それは ともかく『遠くから苦労してやってきて仕事を探してるハーフエルフ』が

そんないい香りってどうなのかしら?

作戦遂行上造り込みが甘くない?

フード被せたら多少匂わないかしらね?」


イザベルが シャルロットの髪の匂いを嗅いだり フードを被せたりして悩んでいるが

シャルロットは黙って俯いたままだ。


「イザベル、でもフードなんか被せたら耳まで隠れちゃうからマズイだろ?

この作戦は 『ハーフエルフ』って相手に分かってもらわなきゃなんないんだから」


「え?」

僕の言葉に イザベルが 不思議な顔でこちらを向いた。


「でもトール、今回の作戦は 話するくらいに相手に近付くんだから 問題ないでしょ?」


「え?」


今度は 僕のほうが 不思議な顔になっていることだろう。

何か お互いの共通認識にズレがある…


ふたり、顔を見合わせて考えてみると

そう言えば 気にかかる事があった。


さっき、店にイザベルが来た時

髪でエルフ耳が 隠れていたシャルロットを

なんの躊躇もなくハーフエルフだと呼んでいた…つまり……


「イザベル 、耳以外にもハーフエルフの特徴ってあるのか?」


一時期ハーフエルフの隠れ里で暮らしていた僕でも

美形(僕の審美眼のみの可能性あり)が多いってことくらいしか

人間との外見上の違いなど気がつかなかった。


「トールは ひょっとして感じないの?」


「えと?ブルース・リーのこと言ってる?……」


「アナタ…時々訳わかんないこと言うわよね?…そうじゃなくってこの違和感……

ん〜、言葉にしづらいけど…胸の奥に浮かんで来るこの感じが ……トールには無いの?」


「ない…んだと…思う…分からない…ひょっとして他の人は 皆んな感じるのか?」


それが本当なら ハーフエルフへの差別は 偏見だけじゃ無いのか?

遺伝子レベルに刻まれた因縁なのか?


「ええ、誰もが感じるハズよ、少なくとも今までその話をした相手では100%だったわね…

でも ハーフエルフの側だって感じるんじゃないの?この違和感を…

ねえ、シャルロット…?」


さっきからずっとうつ向いているシャルロットは そのまま顔を上げずに答えた。


「よく わかりません…私、自分以外のハーフエルフに…

会ったこともありませんでしたから…比べようが 無いんです

…けど…トール様は…他の人とは 違いました…

私も言葉に出来ませんけど…トール様だけは違うんです……」


シャルロットの言葉に考え込んでしまった。


……エルフもハーフエルフもいない世界の住人だった僕には

他の亜人種を識別する必要がない。

だから 僕だけ その『何か』を感じられず、持ってもいないってことか?


それなら異世界にもその遺伝子を持たない人間もごく少数発生したとすれば、

その人達は 違和感を感じずに 他人種でも伴侶としてむかえられる…


ひょっとして 僕の『帰省能力』が 定期的に発動するのも

その『何か』を持たないが故なのだろうか?


だけど……その解釈が 合っているとしたら…この世界のハーフエルフ…

『何か』の遺伝子を持たない同士の間に生まれてくるという事だ。


おそらくその子供に『何か』が隔世で引き継がれる確率も低いだろう…


人間やエルフには ハーフエルフを差別する『違和感』が

言葉には出来なくとも確かに存在している……


だけどハーフエルフの方では意味も分からずに ……

たとえどんなに求める者がいたとしても………

受け入れてもらえないのだろうか?




この冒険と魔法の異世界は 随分と残酷な世界だった。



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